入れ替わるようになりまして。

天野 奏

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亜貴が幸せになりますように

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日が落ちて、病室内が薄暗くなった。
点滴がポタポタと落ちるのを見ていたら、だいぶ時間が過ぎたようだ。

亜貴は安定して、眠っている。
勢いで来たのでケータイも無く、顧問や部員たちに連絡する手段が無い。
理央先輩にも……。

亜貴は肋骨の骨折から来る血気胸になっているそうだ。
試合開始直後ぐらいに、ファールで倒れたらしいが、その時に相手の肘が肋を折ったようだ。
それからずっと走りっぱなしだったから、折れた肋が肺を傷付けたのだろう。
酷くはなく、出血自体は治まっているが、まだ少し血が溜まっているとのことで、安静が求められるんだとか。
そして、多分痛みで水分をほとんど補給してなかったようで、極度に脱水しているみたいだ。

バカ……。
それで試合続行するとか、バカだろ。
誰も、亜貴が苦しむまで試合するのなんか、望んでなかったのに…!
バカ亜貴。
こんなの、カッコよくもなんともない。

そっと亜貴の手を握ると、ピクッと反応した。

あ……

薄っすらと、亜貴の瞼が上がって、周りを確認し、こちらに目が向けられた。

「……なんだ、夢じゃなかったのか」
「何がだよ」
「純がいること」

何を呑気な…と思っていると、亜貴は身体を起こそうとして、痛みに顔を歪めた。

「バカ!動くな!
肋折れてんだから」
「……やっぱ?
折れてるんじゃないかって、思ってた」

フッと、力無く笑う亜貴。
その笑顔が、痛々しい。

「試合、どうなった?」
「3点差で負けた。覚えてないの?」
「……忘れた」

亜貴は顔を逸らした。

「じゃあ、引退か」
「っ……」

淡々と、亜貴は口を開く。
そしてまたこちらを見た。

「これで純とも、会わなくなるな」

亜貴の指が、オレの手を撫でる。
大事なものに、触れるかのように……。

「バカか。
もっと部活のこと話せよ」
「……なんで?」
「こんだけ無理して、勝ちたかったんだろ?
悔しかったんだろ?」

急に、終わった感が出て来た。
引退、という言葉も。
オレたちは来年まであるけど、3年生と試合出来るのは、今日で最後だ。

「フッ…泣くなよ」

亜貴の腕が少しだけ上がった。
人差し指が、頬の涙を拭った。

「…たった2ヶ月だけど、最後の大会出られたのは、良かった」

天井を見上げて、もう最期の言葉のように言うから、また悲しみが込み上げてくる。

「そんな言い方すんなよ。
……死ぬんじゃねーんだから」

フッと、また少し笑って、亜貴は目を閉じた。

「……俺、中学の時、結構無敵のバスケプレーヤーだったの」
「……うん。そんな気がする」
「それが、最後の大会前に、靭帯損傷して、走れなくなってさ。
出られなかった、試合」
「っ……だから、膝……」

だから、あの時も急に膝抜けたんだ。
靭帯損傷はクセになりやすく、リハビリをしても後遺症が残るらしい。
突然膝が抜けて倒れたりして、自分の意思ではどうにもならなくなることもあるとか。
バスケット選手にとっては、致命的とも言える。
それが、本格的にまたバスケ始めて、そのときのクセや後遺症が出たんだ。
今日のサポーターも、その為……。
亜貴がオレの身体でもストレッチを怠らないのも、もしかしたらそのことが関係してたりするのか?
オレが、同じ目に合わないように……。

「その後、だいぶ荒れて。
喧嘩だって何度もしたし、テキトーに彼女作ったりもした。
だから、理央にあんなこと言われても、おかしくはないんだけど」

デートの時のあの雰囲気は、そこから来てるのか。
荒れてた頃の、亜貴なのか。
あんなことって、色んな子に手を出してたって話?
それは、違うと言いたいのか??

亜貴は、深く深呼吸したが、苦痛に顔を歪ませて、息を吐いた。

「っ……バスケ好きだったんだな、悔しかったんだなって、今思った。
こんな怪我で、また下されんの、嫌だった」

亜貴の指に、力が入った。
無理してまで、やり抜きたかったんだ……。
入れ替わりが始まった頃、亜貴がバスケ部に入るという時。
オレが入れと言ったら、亜貴は凄く嬉しそうにしてた。
あれはやっぱり、怪我で一度諦めたバスケを、オレとの入れ替わりをキッカケに、始められる喜びの笑顔だったんだな。
バスケが好きで、仕方なかったんだろうな。

「……頑張ったな。亜貴……」

思わず、目が潤んで、誤魔化すように頭をポンポンと撫でると、亜貴は目を閉じて、ほんの少し口角を上げた。

「……純が分かってくれてると、なんか良いな」
「え……?」
「なんか、満足。色々解放された感ある。
死んでもいい」
「は!?何言って……」

痛むであろう腕を上げて、亜貴はオレの手を頬に移動させた。

「純がいるだけで、幸せ」

っ……!
ま、確かに、亜貴の幸せを願ったけど!

「お、オレには理央先輩が……!」
「分かってる。今だけ」

亜貴は、手のひらにキスをした。

「今だけ、甘えさせて」

亜貴の唇の感触が、胸の奥をくすぐる。

なんで、こんなに亜貴がオレを求めるのか分からないけど。
亜貴の幸せは、オレがいないと叶わないのなら、あの願いは、無意味だったのかもしれない。

亜貴の気持ちは、言葉ほど単純じゃない。
そのことに、今になって気付いた。

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