【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

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本編【表】

第26話-瓦解

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『ライアン...?何故貴方が此処に...?』


『王太子殿下...ご機嫌麗しゅうご様子で何よりです。』


ライアンはセリアの問いは完全に無視して王太子に社交辞令的な挨拶をする。


『セリアよ!丁度良いでは無いか!シェーヌには伝え置くのでライアンと先にファルカシオン領に戻ってはどうだ?シェーヌはまだまだ戻らんだろうからなぁ!』


王太子はとんでもなく意地の悪い提案をする。
こんな状況で...誤解されたままライアンと二人きりになる事程バツの悪いモノはない。

ただライアンは今、完全に誤解している。
そんなライアンを先に1人で帰らせる訳にも行かない。


セリアがオロオロしていると
王太子は子供に語りかける様な口調で

『ちょっと意地が悪かったか?お前が困る顔があまりに愛らしかったのでからかったのだ!セリアさえ良ければシェーヌが戻るまで執務室にて俺が相手をしよう!』


『失礼致します。』

自身の婚約者を誑かす王太子の言葉等、まるで他人事の様にライアンはセリアをおいて一人で歩き出す。


『ライアン…話を…』


セリアはライアンに触れようとするが…振りほどかれてしまう。


振りほどかれただけだが…その勢いでセリアは体勢を崩し床に倒れ込んでしまう。


王太子はそんな二人のやり取りに目を光らせた。



『待たれよ!!ファルカシオン令息!!仮にも次期辺境伯家を継ぐ嫡男であり、戦士であるお前が…女性に対して暴力とは見過ごせんぞ!!』


『・・・』


王太子の物言いにライアンは無言で足を止める。


確かにライアンの態度は無愛想だが暴力は言い過ぎだ。

セリアが転んだのも、丈の長い余所行きの正装でこの場に来た為、足元が縺れて転んだに過ぎない。


『殿下お気遣い感謝致します。しかし私が勝手に転んだだけですし、いつもの事なのでお気になさらず』


セリアがすかさずフォローを入れる。
が…セリアはまだ動揺していた。

ライアンの態度にではなく、王太子の行動とそれをライアンに見られた事に。

その動揺から…遂 うっかり口を滑らせてしまった。


""


『な、な、な!?いつもの事ですと!?つまりセリア殿は普段から日常的にファルカシオン令息からこの様な暴力を!?』


『あっ…』


セリアは自分の失言に気付く。
やはり敗者の口達者は災いの元だ。


セリアは動揺を喋ると言うアクションを起こす事でかき消そうとした。


その結果、普段慎重で思慮深いセリアならまず出さない失言をしてしまう。


『どうりでセリアが人に心を開かぬ訳だ…全ては貴様が元凶だな?ファルカシオン。』


『ち、違います!殿下 発言を訂正させて下さい!私は…』


『良いのだセリアよ、庇う必要はない。さぞ辛かっただろう。』


王太子はセリアに口を挟ませない。
訂正する隙を与えない。


何故なら気が付けば辺りには王太子の怒号を聞き付け、王宮務めの者達が集まりセリア達を注視していたからだ。


王太子の演劇が始まる。


『お前は…ファルカシオン家でこの男ライアンに虐げられていた。器量と魅力あるお前が心を閉ざし、まるで人形の様に感情を出さないのはそのせいだ。』


『違いま』


『おぉ…なんとお労しや…どんなに美しい花も水をやらねば…光を当てなければ枯れ果てる。このままではセリア殿の才覚も埋もれてしまう…』


サイン侯爵も参戦して演劇に加わる。
目には涙すら溜めて白々しいセリフを恥ずかし気も無く吐いている。


白々しい小芝居だが…それを聞いた周りの従者達は口々にセリアに同情の言葉を呟く。


中にはライアンの陰口を吐く従者もいた。


『・・・』


こんな状況においてもライアンの固く閉ざした口は開かない。


『ライアンも何か反論して下さいませ!!』


『セリアよ…余程 酷い目にあっていたのだな…ここを出て二人きりになった時が怖いのだな?』


『違いますってば…』


『フェレネス家とファルカシオン家は代々 犬猿の仲だった一族なのは誰もが知る事実。そんなファルカシオン家にフェレネス家の娘が1人嫁がされて何もない筈がない。きっと日頃からセリアの心を折る様な凄惨な嫌がらせがあったに違いない。』


王太子は遂に…ライアンだけでなくファルカシオン家の中傷を始めた。


セリアの頭がカァっと熱くなる。


確かにフェレネス家とファルカシオン家は何代にも渡りライバル関係にあり不仲が続いた一族だ。

だがしかし…ファルカシオン家の家族達はセリアを暖かく迎えてくれた。


実の父親よりも自分を信用し、評価してくれた義父ファルカシオン辺境伯。


本当の姉妹の様に気さくに接し、セリアを気にかけてくれた義姉アレクシア。


ファルカシオン家の従者達も、ファルカシオン領の領民達も、セリアをファルカシオン家の一員として扱ってくれた。


そんなファルカシオン家を愚弄する発言に、セリアは怒りを募らせる。


セリアがここまで明確な"怒り"を感じた事は…
多分 生まれてこの方一度もない。


だからセリアは今の自分の感情がなんなのか分からなかったが…


"この男をぶん殴りたい"


そんな感情に駆られた事から、この感情は怒りであると理解した。


セリアは拳を強く握る。
必死に怒りを抑えているのだ。


-だ、ダメ…ここで怒ってもまたこの男に利用される


頭で理解していても、心が命じる。


"この男をぶん殴れ"と


そんな事をすれば流石にセリアもタダでは済まないだろう。


セリアは今まで、自分の心に鍵を掛けて周りが望む自分を装って来た。


我意を出せば父に咎められた。


"お前はセリアである前にフェレネス家の女だ。その事を死ぬまで忘れるな"


父の言葉が頭に染み付いて離れない。


セリアはセリアと言う1人の人間では無く。
フェレネス家の女と言う人形となる様命じられた。


故に心がどれだけ命令しても、頭の中で浮かぶ理性的な論理が…いや父親の洗脳が。


"お前は人間ではなく人形だ。勝手に喋るな。勝手に動くな"とセリアの心を押し殺した。


だがしかし…セリアを一人の人間として扱ってくれたファルカシオン家への中傷に


長年鍵を掛けた筈のセリアの心のリミッターが爆発しようとしていた。


-あ…ダメ…手が出る……


セリアが王太子に平手打ちを放とうとした刹那。
ライアンが王太子の前に割って入った。


『殿下。ご指摘至極おっしゃる通りでございます。私は普段からセリアにこの様に接しております。』


ライアンの発言に周りがザワめく


「ひどい…」

「なんて奴だ…」

「セリア様…お可哀想…」


『しかし…それは単に私とセリアの馬が合わないだけの事。ファルカシオン家は関係ございません。』

『咎は全てお前にあると?』

『仰る通りでございます。』


「開き直りやがった…」

「とんでもない奴だ…」


ざわめきは廊下中に広まる。


『貴様の性根を叩き直してやろう。表に出ろ!!レイモンド!!稽古用の武具を持って来い』

王太子はライアンの襟を掴み表に出る様に言う。

『な、なにをする気ですか?』


セリアは怒りを忘れ血の気が引く。


まさか…決闘をする気では?と


『案ずるなセリアよ。この男の根性を叩き直してやるだけだ。安心しておいで』


そう言うと王太子はセリアの髪を優しく撫でた。


『辞めて下さい!!私を理由にこんな事は!!』


『セリアよ。お前の為だけではない。我が家臣となる者がこんな卑怯者であってはならないのだ。要はこれは未来の家臣となる者に君主が施す教育だ。』


そう言うと王太子はライアンを連れて中庭へ出ていった。

中庭に出ると、剣術稽古用の木剣を手にしライアンにも放る。



『何処からでも打って来い。』


『お手柔らかに。』


『お手柔らかに?貴様は戦場でも敵にそう頼むのか?この臆病者めが。』


そう言うとお互いが木剣を構える。
セリアの制止等他所に二人の打ち合いが始まる。
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