無自覚な少女は、今日も華麗に周りを振り回す。

ユズ

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プロローグ

ツッコミまみれの自己紹介

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よしっ、きっと完璧だ!

私は深呼吸をして、昨夜紙に書いた内容を丁寧に言葉にした。

「――私は雨野愛菜あまのあいな、15歳、平凡な女の子です。
少し特殊なところといえば、実の親がいないことでしょうか」

私はそう言って、少し悲しそうな表情をしてみる。

内心では、ふふん、実は私、演技には自信があるんだから!――と、思っているのは秘密だ。

表情と内心が矛盾しているのを理解していながら、私は自信満々で覚えてきた文章を読み続けた。
無論、顔に出てはいない。

「――生まれてすぐに捨てられていたそうです。
8歳まではとある女性が育ててくれていたのですが、
事故で若くして亡くなってしまいました。」

そこで少し間をつくり、悲しんでいるように印象づける。

まぁ、本当に悲しんではいないんだけどね。

人生、過ぎてしまったことは仕方ないのだ。

いつまでもクヨクヨしているくらいなら、今私に出来ることを精一杯しているほうが断然マシだと思う。
だから、悲しみは心の奥に閉まっておいた。

けれどこの私の考えを知られたら、絶対に友だちができない。
こんな図太い女と仲良くなろうと思う人は、絶対に少ない。

ということで、私は本音を隠すことにしているのだ。

「――8歳で居場所失った私は、近所の食堂に押しかけました。
そこの女将は、初めて会う私に対して、こう言いました」

「…ちょっと待った」

そこで、先程まで大人しく私のスピーチを聞いていた常連の気前の良いおじさんが、待ったをかけてきた。

うん? 何だろう。問題はなかったはずだけど…?

「最後まで言い終わるのを待とうと思ったが、やっぱ無理だ。
平凡? 平凡な女の子だと? お前みたいなやつが平凡なわけ…」

ちょっと、失礼ですね。私ほど平凡な中学生、なかなかいないですよ。
と言おうと思ったけど、小言が続きそうだったから、おじさんの言葉は無視して無理矢理読みかけのスピーチを続ける。

「おっ、おま、無視か!?」というおじさんの声が聞こえた気がしたけれど、きっと気のせいだ。

「――『しっし、何だいあんたは?店はたたむから早く出ていきな』と。そこで私は決意しました。この人の養子にしてもらおう、と」

「いや待て」

今度はこの辺でいつも静かなことで有名なおじさんが待ったをかけてきた。
今度はなんですかね?

というか、待ったをかけるのが流行りなんですかね?
あぁ、わかりますよ、流行を追いかけたい人間の気持ち。年を取っても思考はあまり変わらないんですね。

「俺にはあんたの思考が一切理解できない。なぜ追い出されそうになったやつの養子になろうとするんだ? いや、そもそも一体何故、知り合いじゃなく、行ったことのない食堂に押しかけたんだ…」

なーんだ、そういうことですか。うふふ、もー、おじさん、真顔で話すからびっくりしたじゃないですか。
私はその質問に対して答えられるちゃんとした理由があったので、得意げな顔をした。

「ふふふっ、そんなの、決まっているじゃないですかっ! もちろん、図書館が近いからに決まっているでしょう!」

お世話になった女性、佐藤さとうさんはいつも、「愛菜には自分の好きなことをしてほしい」と言っていた。
だから私は好きな読書をするため、図書館に近いこの食堂に押しかけた。

だけど、何故だろう。この場にいる全員が私を残念な子を見るような目で見てくる。

すると、静かなおじさんに呆れ返った顔で叫ぶ。

「あー、わかった、お前が本好きで(頭のネジが)抜けてることは理解したよ!」

あれ、本好きなのは事実だけど、褒められている気がしないのは私の気のせい?

「一応言っておくが全く褒めてないからな」

あ、気のせいじゃなかった。
っていうかこのおじさん、私の思考が読めるみたい。

ふっふっふ、けれどねおじさん、少し思い違いがあるから言ってあげますよ。

「おじさん、誰がなんと言おうと、『本好き』は私にとって褒め言葉ですよ!」

「………」

自信満々のドヤ顔で言ったのだけれど、周りは予想とは裏腹に、シン…と静まり返る。

そしてさらに呆れた目で見られた。

あ、あれ?おじさんに仕返しするつもりが、さらに呆れられた…?
何で…?

なんだかこれ以上話しても余計呆れられるような気がして、スピーチを続けることにした。

解せぬ。

「…続けますよ。
――私は食堂の手伝いをすることを条件に、女将に里親になってもらいました。それからは、ほとんど毎日食堂の手伝いをして、週に二回学校へ通っていました。空いている時間は本を読んでいました。友達はいません(できなかった)。大体なんでも得意です。これからよろしくお願いします。以上です」

私はぺこりとお辞儀をして、皆のほうを見た。

すると、
「…おいおい、高校での自己紹介がこれで大丈夫か?」
と、気前の良いおじさんが呆れ返った顔で、

「いや、うーん、案外面白いと思ってくれる子がいるかもしれないよ。」
と、女将はお皿を洗っていた手を止めて考え込み、

「いたらそいつはよほどの物好きだな」
と、静かなおじさんがバカにしたように言う。

…ひどい言われようだ。

そう、私は今、高校入学に備えて自己紹介の練習をしている。

私は練習しなくても大丈夫だと言ったのだけど、
「絶対に練習して先に俺・あたいに聞かせなさい」と、全員に念を押された。

そして今、昨夜考えた自己紹介を、皆に発表しているところなのだ。

うぅ、頑張って考えた自己紹介だったんだけどなぁ…
嫌な予感しかしないけど、きっとこれ以上呆れられることはないだろうから(多分)、理由は聞いておこう。

「えっと…どこがだめだったんですか?」

「はぁ…まず、あたいがあんたを養子にしたのは、あんたの料理と掃除の腕が8歳とは思えないくらい飛び抜けていたからだよ。それからもお前さんを見てきたが、図書館の本をほぼ全て読破するあんたは全く平凡じゃない」

そう言った女将は、真剣な眼差しで私を見つめる。

「うぐっ…」

いや、でもそれは多分女将さん達の周りにそういう人がいなかっただけ。
今の時代の他の子と比べたら、私は平凡なはずだ。うん。

けれどそれを言ったら確実に小言コース。
よし、黙っとこう。



***

愛菜の自己紹介では15歳と言っていますが、14歳です。高校生になっている頃には15歳なので、それに合わせています。
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