無自覚な少女は、今日も華麗に周りを振り回す。

ユズ

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お茶会デビュー

貴族会議

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――お茶会当日に開かれた、貴族会議にて。

王城の会議室では、数人の大人が会議机を取り囲み、静かに座っていた。参加している者の大半が、ライオール王国の中で高位とされる家門の当主である。そしてその中でも最も高い身分を持つ国王が口を開いた。

「よく集まってくれた。さて、早速1つ目の議題に入るが、6年前、ここライオールで異例が起きたことは知っているな」

そう国王に問われた参加者の全員が、同じ出来事を頭に思い浮かべる。『6年前の異例』といえば、あの出来事しか無いのだ。すると国王の傍に控えていた侍従が、会議の参加者全員にとある資料を配り始めた。

「ここ数年の王室と神殿の国民からの支持率を比較したものだ」

あまりにも国王が深刻な顔をしており、参加者達はゴクリと息を飲み、渡された資料に目を通した。

「はあ…見ての通り、王室の支持率が確実に落ちている。逆に神殿の支持率が上がっているのだから、尚更たちが悪い。今、この国が他国からなんて言われているか聞いたことがあるか? 『神に見捨てられた王国』だとさ」

国王はよっぽど疲労が溜まっているのか、もう一度深い溜息をついた。

6年前の異例。それは6年前、魔物が入ってこれないはずのライオール王国でドラゴンが出現したことを指す。しかし魔物が出現したのはその際だけであり、ここ6年は通常通りだった。

参加者の中で唯一の公爵、クリストファー・ウィステリアはその話の流れから、人知れず不安に駆られた。


…嫌な予感がする。今になってまたドラゴンが出現したことについての議題が出るなんて、怪しすぎる。更に、国王陛下が先程から申し訳無さそうな視線を私に送ってきているのは、私の気のせいでは無いはずだ。ああ、早く終わらせてアイシャに会いに行きたい…

「…今年は、女神リアナ様の愛し子がようやく判明するはずだ。そこで……貴族令嬢の1人を、愛し子候補・・として仕立てようと思うのだが…」

国王はそう言って、気まずそうに私を見つめてきた。

なるほど、他の当主を呼んだのは建前で、目的は私だったか。

「お断りします」

「クリストファー、そこをなんとかしてくれないか! 愛し子と同じ年齢で、王太子の婚約者…お前の娘のアイシャーナほど好条件を兼ね備えている令嬢はいないんだ!」

国王陛下の言い分はもっともな話だ。しかし――

「私は、娘にこれ以上余計な責任を背負ってほしくありません。ですのでお断りします」

「……ぐっ、どうして儂の従兄弟はこんなにも頑固なのだ…! お前の心情は理解できる。だがこの話を受ければ、アイシャーナはより良い暮らしが出来るのだぞ!?」

「娘は贅沢に一切興味がありません」

ただえさえアイシャと王太子との婚約を許したというのに、それ以上を望まないでほしい。

私と国王陛下のやり取りを見ていた貴族達は、初めこそぎょっとした表情をしていたが、次第に難しい顔をして考え込んだ。国への忠誠心が高い貴族しか集められていないから、おそらく王国の支持率を上げる方法を真剣に考えているのだろう。

はぁ…早く妻と子供たちに会いたい…

「…分かった、潔く諦めよう。ふぅ、次なんだが、これも相当たちが悪い。また魔物が出現した」

「それはそれは、大変ですね。これからは魔物への対策を頑張りましょう。はい、会議は終わりましたから、帰ってもいいですよね。失礼します」

「いや待て待て待て。ここは驚くところだろう!? 現に他の者は驚いているではないか!」

「私を驚かすことが出来るのはアイシャだけです」

「誰もそんなことは聞いておらんが!」

そんなこと・・・・・? こいつ国王、アイシャを馬鹿にしたのか?
 それは公爵家を敵に回すと受け取っ――

「あああ、すまなかった、すまなかったから、殺気を抑えてくれ!」

…まあ、一応国王には恩があるから、ここは見逃してやろう。

「…ふう、話が逸れたが、一週間前に魔物が再び現れた。重大だ。無視して良い案件ではない。分かったか、クリストファー」

「つまり、私の家族に危険が迫っているということですか」

「お前の世界は家族中心に動いているのかね!?」

「え…知らなかったのですか?」

「いやいやいや、儂を変人扱いするのはやめてくれ」

ああそういえば、王室の支持率が下がってしまえば、王太子の婚約者であるアイシャにも被害があるかもしれない…面倒なことになってしまった。

「慈悲活動を積極的に行うとしましょう。お前たちも、いいな?」

私と国王陛下のやり取りを黙って見ていた者達を睨んで念を押せば、彼らは「も、もちろんでございます!」と怯えながら返事をした。

よし、これでいいだろう。早くアイシャのところに――

「随分と雑すぎないかい!? そもそもちゃっかりお前が決断を下しているが、それ儂の仕事! ああ分かったよ! 早く帰りたいんだね? 解散だ、皆解散してくれ!」

ふむ、そろそろアイシャも茶会が終わっている頃だろうか。早く行こう。

そうそそくさと会議室を出ていく私を陛下は呆れた様子で「どうしたものか…」と呟いていたが、どうでもいい。


――こうして貴族会議は、国王と公爵が言い合うだけで終わったのだった。
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