無自覚な少女は、今日も華麗に周りを振り回す。

ユズ

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女神の愛し子

鑑定式

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神官に連れられ祭壇へ上がると、私は心情を語られぬよう表情を無にする。笑顔を作ることも出来るのだが、幼い子供が鑑定式でニコニコしていいれば、不気味に思われる気がしてならない。

ふぅ、こうなったら全部無視するのが一番よ! そう、今私の周りには空気しかないの。だから何も気にする必要はないわ!

やけになり現実逃避をしていると、自分に言い聞かせていた言葉とは裏腹に、段々と周りが気になってくる。

うぐっ、私の思考が思うようにならないのは、絶対にこの体が幼いせいだわ。…そういえば気づかなかったけれど、これまた今日も人が多いのね? 

ああそうだ、今日は女神リアナ様の愛し子が判明するのだったわ。この王国に魔物が出現してからは国民は不安で仕方なかっただろうから、きっとこの王国の救世主になるかもしれない愛し子様への信仰心が高くなったのね。

だからこの鑑定式に女神リアナ様の愛し子が現れない確率が高いのに、そんな僅かな可能性にかけてでも人が訪れて来てるんだわ。

そんなふうに考えていると、神官が声を掛けてくる。

「ではウィステリア公爵令嬢アイシャーナ・ウィステリア、鑑定具に触れていただけますか?」

そう言って神官は高級そうな金色のクッションとその上に置かれた水晶を指した。

言われた通り水晶に触れようと手を動かしたその瞬間、私はとあることに気づいてしまった。ピタリと止まった私を見て人々は不思議そうな顔をしたけれど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

水晶に神聖力が、ない…?

この鑑定具は、複数人の神官が神聖力を使い何年もの時間を費やして作った神具だ。

神具とは神聖力が込められているものを示し、私も何度か神具を目にしたことがあるけれど、その全てに神聖力が見えた。つまり何が言いたいかと言うと、あるはずの神聖力がこの鑑定具にないのだ。そしてどういうわけか、水晶には魔力が込められている。

あれ? でも考えてみれば、誰も鑑定具が『水晶』だとは言っていないわね? そして妙に高級すぎるこのクッション…

ふっ、なるほど、そういうことだったのね! この名探偵アイシャーナ、わかったわよ!

私の目から見ると、神聖力は金色に見える。クッションも金色だから神聖力に気づけなかったんだわ。ということは本当の鑑定具はクッションだということ…!

うふふ、この名探偵アイシャーナを騙そうだなんて、100年早いんだから!

私は水晶に触れようとしていた手を下に移動させ、自信満々で本物の鑑定具だと思われるクッションに触れた。

シーン…

しかし触れても何も起こらず、見ている人には「何やってんのコイツ?」とでも言いたげな目で見つめられた。

え? ええ? どうして何も起きないのかしら? こっちが本物なんじゃないの? 私の勘違いだった、なんて、そんなわけがないわよね!?

しばらく待ってみても現実は残酷なもので、何も起こらない。すると、神官が気まずそうな顔をして口を開く。

「…ごほんっ、すみません、僕の説明不足でした。…水晶・・に触れていただけますか?」

ぐっ、なんてことなのかしら! 私の名推理が外れたわよ!――と叫ぶわけにもいかず、私は仕方なく神官様の言葉に対し小さく頷いた。

非常にいたたまれない気持ちというのは、今の私の心情を言うのだろう。

うぅ、ならどうして神聖力がないの!? ああそうだ、エドなら知っているかも――って、ちょっとエド!? なーに顔を手で覆いながら肩震わせているのかしら!? 笑いを堪えてるわけじゃないわよね!?

しっかりとした証拠に基づいての行動を笑われるなんて、世の中は薄情すぎるのではないだろうか。

よしわかったわ。なら水晶に触れてみようじゃないの。全く神聖力があるようには見えないけれどね!

そう思いながら水晶に触れた――が、何も起きない。

ほら見てみなさい! 水晶に触れても何も起こらない――

パリンっ

「…………」
「…………」
「…………」

……『パリンッ』? えっ、どういうことかしらね、どうして水晶が粉々に割れているのよ。

「…古い鑑定具だったんですね?」

思わずそう問いかけると、神官がそんなわけがないとばかりに首をブンブンと横に振った。

「…神具は複数人者神官が何年も神聖力を削って作ったものです。そんな神具が壊れるなんて、前代未聞ですよ…ああ神よ、これは僕への試練なのだろうか…どうかこれは夢だと言ってほしい…」

頭を抱えうめき声を上げている神官様を見て、安心させてあげたいと思い最後の要望に答える。

「これは夢ですが夢ではありませんよ」

「いや、別に返事を求めて言ったわけではないのですが…」

えええ、面倒くさい人ですね。でもまあ、少しは落ち着いたみたいだし、安心させることには成功したのではないかしら。

はあ…やっぱり平穏に終わりそうにないという私の予想は、間違っていなかったのだわ。

――一つだけ言っておこう。こればかりは私は何もしていない。
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