無自覚な少女は、今日も華麗に周りを振り回す。

ユズ

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待ちに待った外出

作戦決行

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「よし、これで誰にもわからないわよね!」

「……」

部屋にあった鏡で、自分のシンプルな白いワンピース姿をくるりと周りながら確認し、私はほくそ笑む。しかしレイ兄様は何が不満なのか、眉をひそめながら私の顔をじっと見つめていた。

どうしたのかしら? うーん、ちゃんと鏡で確認してるから、私の顔に何かついてるわけじゃないだろうし…

すると、レイ兄様は無言でポケットから何かを取り出し、低い声で呟く。

「ちょっと目を閉じて」

「えっ?」

「いいから閉じて」

「…?」

疑問はあるものの、言われた通り目を閉じると、カチャリと音がして目に何かがかけられる。

あっ、前に使った眼鏡かしら? そういえば、あの眼鏡って変装用の魔導具だったはず…確かに私の顔は目立つものね(目の色と醜い顔立ち)。

そう思い目を開けると、真っ先にレイ兄様の顔面が目に入ってきた。そしてそのまま動く気配はなく、レイ兄様は未だに不満そうな表情を浮かべて私を見つめた。

「れ、レイ兄様? 近すぎやしないかしら? それと、この短時間でファンデーションでも使ったのかしら? 日焼けしたように見えるわ」

「…ファンデーションだかなんだか知らないけど、鏡見て」

あっ、この世界ではファンデーションって呼ばないのだったわ…――とうっかりしていたことに反省しながら、鏡を見てみると、自分の姿にどこか違和感を覚える。

服装は全く同じだけど…なんだか暗いような? ……ってあら? あ、なるほど! 眼鏡じゃなくてサングラスだったのね!

「これじゃ全っ然隠せてないじゃ――」

「ふふふっ、ありがとうレイ兄様! これがあれば私が公爵令嬢だなんて誰も気づかないいわ! …あっ、ごめんなさい。何を言いかけていたの?」

「……うん、まあ、喜んでくれたならいいや」

ようやく謎を解くことができ、スッキリしていると、新たな疑問を覚える。

「そういえば、どうしてポケットにサングラスがあるの?」

「ん? ……………子供は知らなくていいよ」

…随分と間が長いわね。

「…まあいいわ。じゃ、始めるわよ」

「ああ、うん。成功したとしても目立ちそうだけどね…」

もう、そんな不吉なことを言わないでほしいわ――と不満に思い、私はレイ兄様をジト目で見たけれど、これ以上時間を無駄にしたくはないから見逃すことにする。

そして、私は大きく息を吸った。

「きゃーっ!! 来ないで!」

私の出せる最大の演技力を振り絞ってそう叫ぶと、数多くの足音が聞こえてくる。3,2,1,と頭の中で数えていると、ちょうど0を数えている時に窓から人影が入ってきた。

「お嬢様!! 何事ですか!」

それに続き、他の人もぞろぞろと入ってくる。私とレイ兄様の何ともない様子を確認して、入ってきた全員が疑問を隠せていなかった。

「ふふ、これで全員かしら?」

「ああ、今日僕たちについて来た護衛は30人だからね」

「んもう、お父様ったら過保護すぎなのよ。通常の護衛の何倍もあるじゃない。それも騎士団の中でも精鋭な騎士が多いわね」

はあ、と額を抑えながらため息をついて、護衛たちをすっと見据える。

「…さて、雑談はここまでよ。少し取引をしないかしら?」

そう言うと、護衛のほとんどがびくりと体を強張らせた。きっと『天使の皮を被った悪魔』という私の異名が噂になっているからだろう。どうしてこの異名が噂になったのか、私は未だに理解できていないが。

すると、強張っていない護衛の内の一人が、一歩前に出てくる。ラノス騎士団長だ。

「お言葉ですが、我々は公爵閣下の命令を優先せねばならないので、取引は難しいかと」

ラノス騎士団長…騎士団の中でもとりわけ忠誠心が高く、レイ兄様の剣術の稽古を担当している人だったわよね。忠誠心が高いとなると、中々折れてくれないでしょうね。少し強めに出てみようかしら。

「それを、私が把握していないとでも?」

あえて冷たい声で言ってみたけれど、団長はぴくりとも動かない。流石公爵家の騎士団長を務めているだけある。

「とんでもございません」

「そう。じゃあ話を続けるわよ」

『そう』という私の言葉に対して一同はあからさまにホッとした様子を見せたが、次の言葉を聞いてぎょっとする。

「あのね、私はあなた達を撒くつもりなの」

ゴクリ、と護衛たちは息を呑む。それもそのはずだ。なぜなら、もし護衛が私たちを見失うとなると、処罰は免れないからだ。

「でも、そうするとあなた達が罰せられてしまうでしょう? だから取引を持ちかけているのよ」

「…お嬢様の慈悲深い御心に感謝いたします」

「ええ、それならやるべき事はわかるでしょう?」

「…ご命令をお下しください」

よし! 騎士団長を落としたわ! でも、思っていたよりもすんなりと受け入れたわね。お父様はこの状況も見越していたのかしら。

「まず、余計なことはしないで。言っている意味はわかるわよね?」

護衛が頷くのを確認し、私はラノス騎士団長に視線を戻す。

「ラノス騎士団長。あなたは今からあの紙袋を『素敵な時間をありがとう』という言葉と一緒にお父様に届けてちょうだい」

私が指を指したのは、一人の護衛に持たせた、先程店で買った物が入っている紙袋だ。

「…承知いたしました」

ふふ、作戦成功ね。
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