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待ちに待った外出
似た者同士の兄妹
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店員は案内のために進むと、手前寄りにある部屋の扉の前で止まり、その扉を開けた。
「こちらでございます」
部屋に入ると、そこはまあまあ広い部屋で、ソファーが置いてあった。特に何もない部屋を不審に思ったのか、レイ兄様からの視線を感じる。
そんなレイ兄様の視線に気づかないふりをして、私はソファーの元へさっさと歩いた。
店員は私たちが中に入るのを確認すると、頭を下げ「少々お待ちください」という言葉を残し、立ち去っていった。
「…そんなに私は信用ならないのかしら?」
今の身長では少し大きいソファーによじり、ようやく座ると、私は不満を隠さずに向かい側にいるレイ兄様に話しかける。
前世の記憶が役に立つとは思ったけれど…こういうことに(ソファーのこと)不便を感じてしまうのは問題ね――と思っていると、レイ兄様は悪びれることなく笑顔を貼り付けた。
「可愛くて大切な妹を心配するのは当たり前だろう?」
中の良い普通の兄妹ならば、妹は兄のこんな言葉に喜ぶのだろうが、この場合は兄が少し特殊だから私は全く嬉しくない。
レイ兄様は私が不機嫌な時、嘘は絶対につかないことと、話を逸らそうとする癖があるのは把握済みなのよ。レイ兄様が今笑顔を貼り付けているのがその証拠だわ。
「その心配の意味が、私が怪我をしないかとか、そういう類の心配なら良いのだけどね」
その言葉に、レイ兄様がぴくりと反応を示したのを私は見逃さなかった。
「…それ以外に何があると言うのさ」
「あらそう? ならいいのよ」
私は言葉とは裏腹に、『全く良くない』という心情を、腕を組み顔をそむけ、ジト目でレイ兄様を見るという態度で表した。
さすがのレイ兄様も私の態度を見て諦めたのか、「あはは、降参だよ」と言って肩を竦めた。そしてレイ兄様はしばらく部屋を観察し始める。
「…ああ、そういうこと」
レイ兄様はそうぼそっと呟き、ふぅ、と息をつく。
あら、流石レイ兄様ね。あのスッキリした表情を見るに、私の目的がわかったみたいだわ。
うーん、でも、もしレイ兄様が想像しているのが私の目的と違ったら困るわ――と考え、少し探りをいれてみる。
「何かわかったのかしら?」
「いいや、ここは窓が開いていること以外には何の変哲もない部屋だからね。何もわかりやしないよ。でも心配だな、誰かに僕たちの話を盗み聞きされてしまう可能性があるじゃないか」
その発言と、ニヤリと笑うレイ兄様を見て、私はレイ兄様が私の目的を完全に理解していることを確信する。
「まあレイ兄様、そんなことを気にしていたの? 私たちには頼もしい護衛がついているのだから、心配ないわよ」
兄妹の絆とはこのことを言うのね。こうやって意思疎通が出来るのだから――と嬉しく思い、ふふふと笑っていると、レイ兄様も同じように笑う。
「ああ! そうだったね、失念していたよ」
レイ兄様はそうわざとらしい言い方でぽんと手を打つ。ふふふ、と私とレイ兄様が笑い合っているのをどう解釈したのか、いつの間にか戻って来ていた店員はぶるぶると怯えた声で話しかけてきた。
「あ、あの、仰せのとおりにお洋服を持ってまいりました…」
まあ可哀想に…か弱いうさぎのごとく怯えているじゃないの。
「ごめんなさいね、話に夢中であなたに気づかなかったわ。許してちょうだい」
安心させるように微笑んだつもりが、店員は更に体を強張らせる。どうやら余計なことをしてしまったようだ。すると、私が気を落としていることに気づいたのか、レイ兄様もフォーローを入れてくれる。
「僕も謝るよ。持ってきてくれたのに、失礼にも、君が来たことに気づかず無視してしまったのだから」
しかしそんな私たちの努力も無駄に終わり、店員はカチコチになってしまった。
「い、いいいいえそんな、お、おおお恐れ多いです…」
……ダメだわ。これは、うさぎを手懐けるのは難しそうね…
「はは…服はそこに置いて、もう出て行ってもいいわよ」
落胆している私とは裏腹に、店員は「出て行ってもいい」という言葉にぱぁぁと顔を輝かせる。
「ありがとうございます! では失礼します!」
「………ええ、どうもありがとう」
店員はもう一度ペコリと頭を下げると、猛獣から逃げるうさぎのように部屋から去っていった。
…私は猛獣なのかしらね。それとも、それほど怖いのかしら…
もう誰も居ない扉を見ながらガクッと項垂れていると、ぽんっと肩に手が置かれる。振り向くと、そこには優しい顔をしたレイ兄様が居た。
「さ、アイシャ、君の作戦を実行するなら、項垂れている暇はないよ」
「レイ兄様…そうね、ここまで準備したのだから、思いっきりやらないと!」
「こちらでございます」
部屋に入ると、そこはまあまあ広い部屋で、ソファーが置いてあった。特に何もない部屋を不審に思ったのか、レイ兄様からの視線を感じる。
そんなレイ兄様の視線に気づかないふりをして、私はソファーの元へさっさと歩いた。
店員は私たちが中に入るのを確認すると、頭を下げ「少々お待ちください」という言葉を残し、立ち去っていった。
「…そんなに私は信用ならないのかしら?」
今の身長では少し大きいソファーによじり、ようやく座ると、私は不満を隠さずに向かい側にいるレイ兄様に話しかける。
前世の記憶が役に立つとは思ったけれど…こういうことに(ソファーのこと)不便を感じてしまうのは問題ね――と思っていると、レイ兄様は悪びれることなく笑顔を貼り付けた。
「可愛くて大切な妹を心配するのは当たり前だろう?」
中の良い普通の兄妹ならば、妹は兄のこんな言葉に喜ぶのだろうが、この場合は兄が少し特殊だから私は全く嬉しくない。
レイ兄様は私が不機嫌な時、嘘は絶対につかないことと、話を逸らそうとする癖があるのは把握済みなのよ。レイ兄様が今笑顔を貼り付けているのがその証拠だわ。
「その心配の意味が、私が怪我をしないかとか、そういう類の心配なら良いのだけどね」
その言葉に、レイ兄様がぴくりと反応を示したのを私は見逃さなかった。
「…それ以外に何があると言うのさ」
「あらそう? ならいいのよ」
私は言葉とは裏腹に、『全く良くない』という心情を、腕を組み顔をそむけ、ジト目でレイ兄様を見るという態度で表した。
さすがのレイ兄様も私の態度を見て諦めたのか、「あはは、降参だよ」と言って肩を竦めた。そしてレイ兄様はしばらく部屋を観察し始める。
「…ああ、そういうこと」
レイ兄様はそうぼそっと呟き、ふぅ、と息をつく。
あら、流石レイ兄様ね。あのスッキリした表情を見るに、私の目的がわかったみたいだわ。
うーん、でも、もしレイ兄様が想像しているのが私の目的と違ったら困るわ――と考え、少し探りをいれてみる。
「何かわかったのかしら?」
「いいや、ここは窓が開いていること以外には何の変哲もない部屋だからね。何もわかりやしないよ。でも心配だな、誰かに僕たちの話を盗み聞きされてしまう可能性があるじゃないか」
その発言と、ニヤリと笑うレイ兄様を見て、私はレイ兄様が私の目的を完全に理解していることを確信する。
「まあレイ兄様、そんなことを気にしていたの? 私たちには頼もしい護衛がついているのだから、心配ないわよ」
兄妹の絆とはこのことを言うのね。こうやって意思疎通が出来るのだから――と嬉しく思い、ふふふと笑っていると、レイ兄様も同じように笑う。
「ああ! そうだったね、失念していたよ」
レイ兄様はそうわざとらしい言い方でぽんと手を打つ。ふふふ、と私とレイ兄様が笑い合っているのをどう解釈したのか、いつの間にか戻って来ていた店員はぶるぶると怯えた声で話しかけてきた。
「あ、あの、仰せのとおりにお洋服を持ってまいりました…」
まあ可哀想に…か弱いうさぎのごとく怯えているじゃないの。
「ごめんなさいね、話に夢中であなたに気づかなかったわ。許してちょうだい」
安心させるように微笑んだつもりが、店員は更に体を強張らせる。どうやら余計なことをしてしまったようだ。すると、私が気を落としていることに気づいたのか、レイ兄様もフォーローを入れてくれる。
「僕も謝るよ。持ってきてくれたのに、失礼にも、君が来たことに気づかず無視してしまったのだから」
しかしそんな私たちの努力も無駄に終わり、店員はカチコチになってしまった。
「い、いいいいえそんな、お、おおお恐れ多いです…」
……ダメだわ。これは、うさぎを手懐けるのは難しそうね…
「はは…服はそこに置いて、もう出て行ってもいいわよ」
落胆している私とは裏腹に、店員は「出て行ってもいい」という言葉にぱぁぁと顔を輝かせる。
「ありがとうございます! では失礼します!」
「………ええ、どうもありがとう」
店員はもう一度ペコリと頭を下げると、猛獣から逃げるうさぎのように部屋から去っていった。
…私は猛獣なのかしらね。それとも、それほど怖いのかしら…
もう誰も居ない扉を見ながらガクッと項垂れていると、ぽんっと肩に手が置かれる。振り向くと、そこには優しい顔をしたレイ兄様が居た。
「さ、アイシャ、君の作戦を実行するなら、項垂れている暇はないよ」
「レイ兄様…そうね、ここまで準備したのだから、思いっきりやらないと!」
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