✞神様は祈らない✞

アリス

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プロローグ[はじまりの終わり。]

“私”のはじまり

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時枷叶ときかせかなう
この名前が「特別」になったのは何時だっただろうか…?
わたしは物心着く頃にはこの一人称だった。
父は自衛官、二等軍曹の役職で母は警察官。10歳離れた兄は警視総監で5歳上の姉は看護師、5歳下の双子姉妹は二人揃ってアイドルの何処にでも居る家族。
“私”の一人称は最早癖となって直そうと思って直るものでもない。
その事が原因で良く虐められていた少年期。唯一変わらなかったのは時枷叶||叶だけだった。
口数が少ない私と違って彼はいつもキラキラと眩しくて…私はいつも目を細める。
同性なのに妙に落ち着かなくなるのも叶が初めてだ、小さな頃は遊びに行くといつもおばさんに一緒くたに風呂で洗われた。
身体の成長に伴ってこの“感情”が何から来ているのか段々と自覚し始めた…その矢先にあの関東大震災は起きたんだ。
……ああ、分かったのに。
この想いをどうするかのか、叶に伝えるか一生話さないで隠し通そうか考えている間に運命は私から叶を遠ざけた。
直後助けようとした私は押し寄せた津波の波に飲まれ叶に伸ばした手は僅かに届かなくて||…私の意識はそこで暗転した。
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|||其方そなたの願いを口にせよ、相葉智明あいばともあき。||||

 「……ここは?|||ああ、私は…死んだんだな」

|||ああ、そうだ。其方は死んだ…死因は溺死。大量に飲んだ水に因る著しい酸素濃度の低下、またそれによってパニックを起こした其方が口を開けた所更に大量の水を飲み益々脳への酸素供給が滞り意識を失いそのまま亡くなったな|||

前後左右上下何処も彼処も真っ白な空間…《狭間》とも呼ばれる場所で私は神の声を聞いた。
……。

……願い。願い、か……私は叶に会えるのなら何でも|||

|||…ふふふ、お前も時枷叶と同じ事を言うのだな?良いだろう。いつか叶えたいが見付かればその時に改めて言うがいい。相葉智明よ|||

クツクツと笑う軽やかなハスキーボイスが耳元を撫ぜる。

…“構わない”と続けようとした口は間抜け面を無駄に晒す事になった。
呆れたような苦笑混じりの笑い声。
 「…そうか。叶は“ない”と答えたんだな?」
それは憶測ではなく
叶は常々『願いは自分で叶えるものだ』と断言していた。
現にアイツはサッカー部に入った時もスタメンに選ばれた時も努力を惜しまなかったし、やりたい事や叶えたい事は自分の手で叶えてきた。初詣での時は近況報告と年始の挨拶だけで願いを口にした事はないと言っていた…自分の夢を叶えるのは自分、と叶は真っ直ぐ前だけを見て突き進む。
そんな叶が私は大好きなんだ…今も。

|||私の使徒として共に世界を救済しに行こうぞ、我が使徒よ|||


 
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