薔薇のダンジョンの罪

アリス

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序章:所謂腐女子がダンジョンマスターになりました。

私、指名された……!?

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星屑結羽乃ほしくずゆうの、16歳。

母親譲りの光の加減でオレンジ掛かった金髪に父親譲りの大きな黒目、目鼻立ちに小柄な体躯に控えめな胸囲バスト、綺麗と言うよりも可愛い、愛らしい美少女。学園の成績も悪くない、驕った所もなく、気さくで誰にでも親しく慕ってくる、かわいらしい子リス…ちょこまかと学園の至るところを彷徨く様からそう呼ばれていた。



「ぐへへ…♡生徒会長(男)×不良男子…尊い…♡♡」



ゾクゥ…ッ!!



た・ま・た・ま・廊下で生徒会長が不良男子(結羽乃の妄想では)を壁ドンして迫っていた。



「…おい、真也しんや!…お前、綾乃に何したんだよ?」

「!れんか…別にあいつとは何も…───ん!?」



カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ──ッ!!



「ご馳走さまです、蓮見生徒会長に将門君♡」



「なっ!?」

「待て、おい…お前──っ!!?」



ピュ~~~ッ☆☆☆



脱兎の如く逃げていった病原体ゆうのはスマホ片手に連写で貴重な瞬間を撮ると逃走した。



「はや…っ!!?」

「誤解だ!待ってくれ…その写真は、現像するんじゃない…っ!!!」



慌てて追い掛ける二人が子リス…病原体を捕まえることは不可能だ。

だって彼女の祖父母は短距離走と長距離走の選手ランナー。

彼女の父親は駅伝五輪に出て優勝に導いた立役者、星屑勝人まさと

今尚社会人選手枠で走っている駅伝バカ。

そんな父親になぜかフランス人の妻が何故か日本まで追い掛けてきた、押し掛け女房となったクレア・サテライト。

英語(国語)教師であった彼女が何もかもをかなぐり捨てて勝人を押し掛けた逸話は映画に本にアニメとなった。



「ぐへへ…♡レアGET♪」



校舎内を走る子リスを青ざめた顔で追い掛ける男子高校生…一部の女子には結羽乃を応援する声、追随する声と『はん、リア充ざまあ(笑)!』と溜飲が下がる男子の声と囃し立てる声…その騒ぎに駆け付けた教師が事態を理解して項垂れる姿…実に平和な光景だ。



因みに結羽乃は写真部ではない。

だから、“スマホ”なのだ。

…まあ、撮影に特化した機種だが。



彼女が撮った写真は写真部に高値で売られる。

勿論、だけで行為そのものを撮っている訳でも“っぽい”加工がちょこっとされているだけで名前は出してない。未成年だし。



「…あっ、だめ…だよ…はっ…!?」

「明日香…好きだ…」

線の細い青年が何・か・に・気付いたようだ。

青年を押し倒している男は背後の──“保健室”の扉からじぃーっと覗く視線に気付かない。



「ぁっ、だめ…ぁぁっ!!」

「明日香…明日香…ッ!」



「…(ぐへへ♡)」

静かに静かに…そろ~っと。

引き戸が静かに引かれ…病原体(ゆうの)が保健室へ。

この時、結羽乃は自身を空気以下の存在とした!

ベストポジション(二人がまぐわっているベッドの側)で動画ともう一つのスマホで連写している。

連写してもシャッター音が出ないアプリを導入済み(※犯罪です)。



二人の服はもう、ベッドの下の床に落ちている。

結合部もバッチリ撮れている。

一言も話さず行為を見守る病原体(ゆうの)。



「明日香…明日香…ぁぁっ!!」

「静臣…ぁっ、はぁっ…ぁぁっ!!」



パンパンパンパンッと肌がぶつかる音と男二人のくぐもった声と熱っぽい視線が絡まる。



保険医(男)、神宮寺明日香と数学教師、藤田静臣は同性カップルである。

彼らは“本物”なので、〝ナマモノ〟もイケる病原体結羽乃の格好の獲物えさとなっていた。

特殊なセンサーでもあるのでは?と疑いたくなるくらいには彼女はこと、BL濡れ場──シャッターチャンスを外さない。



どくどくどく…と注がれる精液の熱にふるり、と明日香が震える。

ニヤニヤと鼻息が止まらない結羽乃は必死に気配を押し殺す。

まだ…まだだ!この苦行(ご褒美)に耐えるんだ…!!



「好き…だよ、静臣…けど」

「はあはあ…っ。

…ああ、俺も愛しているぞ。明日香…──ん!?」



…ほどなくして撮影mission終了completeした結羽乃が保健室の侵入経路引き戸から悦った締まりのないだらしない笑顔の結羽乃と目があった。

「…先生方、とても素晴らしい保険体育の授業でした♡ありがとうございます!」

ペコリ、とお辞儀をして出て行く…。

「……はっ!?明日香、追い掛けるぞ!」

「…だから、言ったのに…僕は別に気にしないよ。」

そんな端正な顔立ちをしかめっ面している恋人の頬に手を添えてチュッと頬に口付けを落とす。

「あ、明日香…!?結羽乃あいつを追い掛けないと…っ、」

「僕は気にしない、と言ったよ?」

「で、でも…お前は嫌だ──ろ!?」

今度は唇を唇で塞がれ今度こそ黙る静臣。…完全に嫁(男)の尻に敷かれている。

「…僕は明日香との関係を恥じた事は一度もないよ。静臣は違うの?」

「…っ、違わない…俺はお前さえ傷付いてないなら…構わない」

「静臣…」

「明日香…」

再びベッドに身を沈める二人なのだった…。



「ぐへへ…♡明日香先生えっろ…っ!」

それを草葉の影──反対側の通路から保健室が見える位置からズームでパシャパシャ撮りながら美味しい瞬間をバッチリ納めるのだった…。

…。



星屑結羽乃は──腐女子病に随分と長く患っている。

祖父母、父、兄まで短距離走や長距離走のアスリート一家だったが…どういう訳か、彼女を含め双子の兄と妹は漫画やアニメ──取り分け“BL”と言う美男子同士の恋愛物語ラブロマンスを好むようになった。

BLを愛しBLに愛され、時にBLの神に天啓でも得ているのでは?と言うくらいにはBL的濡れ場シーンに出くわす。

もうこれは神様にBLを愛し記録しろ!とBLの神に信託を託されているのでは…と言うレベルだ。

結羽乃はと言って良いほどそのようなBLの場面に出くわす。

幼い頃から家族と一緒に走り込みをしていた時でもそんな場面を結羽乃は幾度も目撃していた。

何時からかその“行為”に胸がドキドキと高鳴る自分が居て…気付いたら薄い本(同人誌)をアニメ○トで買うようになった。

池袋もコミケもオンリーにも足を運ぶようになって…サークル主にまでなっていた。



「ぐへへ…大漁大漁~♪♪」



スマホ2台で撮った写真や動画はとっくにPCへと転送済み。

ロック付きのパソコンは例え親でも分からないパスワードが掛けられている。…モールス信号、と言えば良いか?

そのような文字でアルファベットとひらがなの並びを組合わせた暗号は例え母親(今は専業主婦だから日がな家に居る)でも無理だろう。

そのスマホだって改造した制服の内ポケットに入れて常に持ち歩いている。



「ゆーの、また大漁に撮ったの?生徒会長が血相変えて探してたよ~?」

「フッ、遅れは取らぬよ。」

「何キャラだよ!」

ぷっ。

「「あははっ!!」」

二人揃って声をあげて笑う。

基本、明るく快活な結羽乃はクラスの人気者で何だかんだと彼女が巻き起こす騒動(撮影)で自然と話のネタにされ、噂の的で何処へ行っても基本女子かのじょ達は結羽乃の味方──と言うか、放置した方が面白いので黙認している。…例え自分の身体を盾に撮影会を敢行されても。匿う。

「…今度のコミケに今回の話出すんでしょ?楽しみ~」

「ええ、生徒会長×不良男子はなかなか乙♡」

「私は剣道部の主将×新人剣道部員が良いなぁ~♪」

「あー…理世は細マッチョ×ノンケ男子が好きだものね?

…確かノンケの方は幼なじみ(女)に片思いしているとか…鬼畜攻めも好きだったよね…」

「そう!そうなのよ~♪♪もう楽しみで(腐)」

腐女子達との会話は概ねこんな感じで。

「ゆーの、英語見せてくんない?」

「また?鞠子さん…宿題は自分でしないと勉強にならないわよ?」

「ぅっ、分かってるけど…使わない言語覚えても意味ないじゃん!」

「あのね…はあ、もういいわ。ほら」

スッと英語のノートを差し出す。

家で母が良く使う言葉だから英語は得意だ…誇る気はないのであまり言い触らしたりはしない。

何気に結羽乃の成績は悪くない。走らせたら学園に通う全ての人間で競争しても捕まえられない事だろう。

本人は何度も陸上部やその他の運動部から度々スカウトされているが、放課後バイトに行く為部活には所属して居ない。

「ゆうちゃん、数学の(宿題)ノート見せて」

「…自分で計算しなきゃだめでしょ?はい」

『まったく、もー』と言いながらもノートを手渡す結羽乃も口ほどには嫌がって居ない。

一般人パンピーとの会話や付き合いは大体こう、割かし成績も悪くない結羽乃のノートをこうやって貸し出したりしている。彼女達とはそんな頻度は少ないが、カラオケや映画、遊園地にも遊びに行ったりする仲だ。



キーンコーカーンコーンッ─…

本礼が鳴ってそれぞれが自分の席へと散らばる。



「…ホームルームの前に、星屑」

「はい、なんでしょう?先生。」

呼ばれた結羽乃が座ったまま教師に訊ねる。

ぴくり、と30代半ばの中年男性が眉間に皺を寄せる。

「“なんでしょう?”じゃない!!お前勝手に如何わしい写真を撮っただろう!?その事で放課後話があるから、生徒指導室に来い!」

「如何わしい…って、そんな…誤解ですわ、先生。──」

「い、い、か、らッ!6時間目が終わったらすぐ!来るように!分かったな!?」

「…先生って怒りっぽい方ですね。カルシウム、足りてます?」

ブチッ

担任である男性教師の堪忍袋の緒が切れたような音がした。

あ。不味い。

誰もがそう思った。

サッとポケットから取り出した耳栓を両耳に詰める生徒達。

勿論、結羽乃もささっと両耳に耳栓を詰める。



「こんの、病原体の屑が~~~ッッ!!!

お前の所為せいで俺、また校長に呼び出されるんだぞ?知ってるか?校長=極道って代名詞があるんだぜ?俺みたいな一介の教師ヒラは校長に逆らえないの。…辞めたいと何度言っても辞表は燃やされ、訴えてやる!って思ったら…家族(姪)を盾に取られて…あれは一番効いたわ~マジないよ、勘弁してよ…かわいい姪に“叔父さん、辞めないで”って言われてさ~こう、心にグッとクルの。あーあ、もう頼むから俺の仕事増やさないでくれないか?朱実(妻)にも美咲(娘)にも“先生辞めないで”って言われてるし…あーあ、もう俺どうすればいいの?ねえ、ねえ?」

「…」

パラパラ~っと机から取り出したBL小説を取り出して文字の羅列を追う結羽乃。

煩い中年サラリーマンの悲哀のような愚痴は耳栓と“萌え”に逃げるのに限る、と言わんばかりに小説──ラノベの世界に逃避だ。

クラスメイト達も慣れたもので、皆この時間を“読書”の時間と定めて好きな本を読む時間に当てている。

「聞いてる?ねえ、聞いてる?俺さ~金○先生に憧れてこの世界に入ったの!それがなんで校長(極道)に屑の病原体の管理がなっていない!っていびられなきゃいけないんだ!?知らねぇよ!そんなに病原体をどうにかしたいんならてめぇで勝手にしろっ!!

…俺、もう先生辞めようかな…校長は極道だし、生徒は病原体だし…あーあいっそ──ッ!!?」

ガラッ



「…だーれが、“極道”だって?タイチ~~♪♪」



極悪そうな黒い笑みを浮かべて、黒々とした長髪を赤いヘアゴムで束ねたパンツスタイルの黒スーツに身を包んだボンッキュッボンッ!な美女が担任──多賀瀬太一(35)の頭を掴む。

ハスキーボイスの素敵な妙齢の女性は史上最年少(26)で校長に就いてから10年で教育改革を行った立役者で、旧体然とした業界に風穴を開け、“授業”と“部活動”の完全分離化を行った発案者。

数十人の教師で一学年を受け持っていた以前の遣り方を臨時教師やOB──卒業生を無理のない範囲で雇い入れ、部活動の管理を任せ、常任教師は日々の業務や習い事、教師同士の交流に専念出来る。

常任教師にもゆとりが出来、臨時教師と部活動のコーチを任せられるOBも元生徒として彼らとも友好的だ。

当然、教師にゆとりが出来るとそれはすぐ生徒にも伝わる。

ちょとした悩みや相談、授業の分からない所以外も雑談を交わしながら過ごす環境は生徒達に“将来の目標”をじっくりと考える時間を与えてくれた。

…そんな学校環境を作り上げた女性がニタァ~と笑みを浮かべる。

「タ・イ・チ~~?どういう事だ~?んん~~?やさーしい、優しい校長先生に教えてほしいな~~?」

「ひっ、ひぎっ…あが…あが…っ!!」

多賀瀬先生の頭がミシミシと音を立てている。

…大丈夫だろうか?潰れたりは…。

黙々と読書をし続ける生徒も生徒である。慣れたものだ。

「星屑、こいつの言うことは気にすんな!…大体星屑が撮った写真は俺も確認したが…“ぽい”ものでしかない。…それを説教だなんだと騒ぎ立てるもんじゃない…それに生徒のを壊すような発言や呼び出しは論外だ。…犯罪でも犯した訳じゃあるまいに」

「ぐ…ぁ、が…っ。盗撮は立派に犯罪──ッ」

「じゃかあしい」

頭を掴まえられたまま、鳩尾に校長の膝が入る。

にっと微笑わらう。

「それでも、“最後”は必ずチャンスを遣ってるだろう?なあ、星屑」

「はい、校長先生…私、“最後は”お礼を言うようにしてます。…もし、私を捕まえられる方が居るなら、その方には撮った写真もネガごとお渡ししようと思っていますよ」

無論、そんな者は居ないのだが。

「だ、そうだ。なあ、タイチ?これを聞いてもまーだ文句あんのか?子供同士のじゃれ愛に大人が首突っ込むもんじゃねぇよ」



などと会話を交わして5日後──星屑結羽乃は真っ白な空間に居た。

「…ここ、どこでしょう?」








…ここ、どこでしょう?」

それが、初神との邂逅の言葉だった。

上も下も左右すら分からない真っ白な空間。

オレンジ掛かった金髪を揺らして大きな黒目をぱちぱちと瞬いて、ペタペタと自分の身体を触る。

「うん、特に何かされた訳じゃないわね…なら、ここどこだろう…?」

響いているのか籠っているのか…分からない、そんな不思議な空間に自分はいる。

まさか。



まさか。まさか。

まさか…ひょっとして…?



「…神との邂逅!?」

バッと後ろを振り向くと。



「ぬおっ!?…びっくりするだろう、いきなり振り向くでない…星屑結羽乃」

「…素敵な白髪に顎髭、澄んだ蒼の瞳は湖面の蒼のようで、お顔は厳しい中にも優しさが滲んでいそうな…お爺さんはひょっとして…神様ですか!?」

「う、うむ…。そのように褒められるとちと面映ゆいな…如何にも儂が召還を司る神、召還神・メキドナであるぞ」

「おお~!召還神・メキドナ様ですか~。なんかラノベみたいな展開ですね~♪私は星屑結羽乃…って、もうご存知でしたね?」

にへら、と微笑わらうあどけない少女の笑みに召還神・メキドナはしばし毒気を抜かれる。

「お主を喚んだのは儂じゃ。…お主、ちとダンジョンマスターをやってみんか?」

「ダンジョンマスター…それってダンジョンで魔物や宝箱を召還して冒険者を釣って魔力を集める…とかそー言う?」

「うむ、その通りじゃ」

「おお~♪良いですね、それ」

「ほぉ、じゃあ…」

キラリ、と子リスの瞳が光る。

伊達に逆○裁判のゲームを遣り込んで居る訳ではない。

思い出せ…!あの日々を。交渉には順序がある。

唯々諾々と頷くだけなら“良いように使われておしまい”だ。

「…それ、私が死んだりしたらそのまま…ダンジョンに食われておしまい、ですよね?」

「……そうじゃ」

「私、死にたくありません」

「じゃが、この空間におる限り──」

「恐らく、この空間に来た時点で普通の人間ならとっくに死んでいるのでしょう。」

「……。」

結羽乃の最もな意見にメキドナは押し黙る。

「にも拘らず私がこうして五体満足なのは…メキドナ様、ありがとうございます。」

にっこりと微笑んで神を見上げる子リス。

穢れ無き黒い瞳はまっすぐメキドナを射抜く。

「う、うむ…儂らの勝手な都合で呼び出したのじゃ。このくらいは、のぅ?」

「はい、ありがとうございます。メキドナ様。」

にぱっと笑って礼を言う子リス。打算も嘘もない結羽乃の言葉。

…これに何・か・を感じる方が難しい。

「それで──ですね、メキドナ様?」

「う、うむ…なんじゃ?」

「詰まる所、メキドナ様が管理されている世界で魔力マナの循環が上手く行ってない…とかでしょうか?」

「……ッ!?そ、そうじゃが…何故わか」

「何故分かったのか──それは書物でそのような話を幾つか見聞きしているから…ですよ、メキドナ様。」

結羽乃は雑食だ。当然BL作品が一番好きだが、普通にファンタジー物やジャ○プに出てくる熱いバトル物も好きだ。勿論少女漫画も。

「…お主の世界は不思議なのじゃ。魔物も魔法もない世界で何故あんなにも発展しておる?」

「“何・も・な・い・か・ら・”ではありませんか?メキドナ様。」

にこり、と微笑んだ結羽乃の顔には素晴らしい研究をした先人や人々の創意工夫で為された数々の制度や文化・営みを誇るようなそんな色が見えた。

「…そうかもの。」

「話を戻しますが──具体的にどれくらい集めれば良いのですか?」

「10年じゃ。」

「は?」

「案ずるな──それよりも早くに集まれば元の時間軸・元の場所に戻す…神に二言はない」

「それ、私浦島太郎になりませんか?」

「案ずるな、ダンジョンマスターとなれば“不老”じゃ。何年でも何十年でも──居ってくれて構わんぞ?」

腐っても“神”である。

…“サボれば”本当の意味で浦島太郎になってしまう。

“見た目”の話ではない。“心”の問題だ。

…たった十年でも自分は果たして“子供のまま”の自分を保てるのだろうか──いや、恐らく大丈夫だな、うん。

「…メキドナ様。私のダンジョンは基本私の意のまま──と言う事ですよね?」

「そうじゃな」

「勿論配置する魔物や宝箱の種類も──私の思うがまま、ですよね?」

「そうじゃの。概ねその通りじゃ」

「メキドナ様」

「…なんじゃ?」

「私の部屋は私の元の家と同じ水準…それから私に加護を下さい、メキドナ様の」

「う、うむ…そのくらいなら構わんじゃろう…特別にDPで異世界品を召還出来るようにしておこう。」

「ありがとうございます、メキドナ様。」

にこり、と微笑んで結羽乃は更に言葉を続けた。

「それと──」

「まだあるのかの!?」

「ええ、何せ『私』の今後についてのお話ですから。」

日々、家族と走り込みをして学園でも実力者(運動部)を撒いて撒いて撒きまくってBLな動画や写真を納めている、子リスはこのくらいの長話も立ちっぱなしも苦ではない。

「それと──いつかで良いので私の私室とダンジョンマスターの部屋を繋げて下さい。家族との生活もバイトや学園だってあるのですよ?…中途半端に投げ出したくはありませんから。」

憂いを秘めた眼差しで伏し目がちに俯く子リス。

メキドナは思わず、頭を撫でてしまった。

…これが後のちに“創造神からのイビリ”に繋がるとは露知らず──

「うむ、相分かった。儂の権限に於いてお主の部屋とダンジョンマスターの部屋を繋げるわい…そうさな、魔力(マナ)が3万ポイント溜まったら無条件にその願い、叶えてやろうぞ。」

「!?本当ですか!?ありがとうございます、メキドナ様!!」

感極まって涙を淘汰の如く流す子リス…ここまで“仕込み”なのだ、と誰が思うか…。

勿論、メキドナは結羽乃の希望は当然のものとして思ったし、その涙は本物だ。…だが、一つ誤算だったのは──子リスは“羊の皮を被った狼”でもあった、と言う事だろう。
……。








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