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微妙な空気を切り裂いたのは
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トシヤとハルカの前を何台かの車が通り過ぎたが、一台も駐車場に入ってくる事は無かった。皆、上の展望台を目指しているのだろう。人気の無い駐車場で二人きり、もちろんトシヤもハルカもこんなシチュエーションは初めてで、何を話せば良いのかまったくもって解らない。
微妙な空気が流れる中、時間だけが過ぎていく。すると、一台のロードバイクがカーブから姿を現した。トシヤは「ルナ先輩か?」と思って身を乗り出したが、ヘルメットの色からウェア、乗っているバイクの色も違うし、どう見ても男だ。がっかりして浮いた腰を落としたトシヤに気付いたのか、そのロードバイクの男はトシヤの方をチラっと見ると、激励するかの様に左手を上げ、拳を握って見せた。そしてすぐハンドルに手を戻し、一気にカーブを駆け上って行った。
「ははっ、頑張れってよ」
「凄い余裕ね、上りのヘアピン直前で片手放して激励してくれるなんて」
予想外の激励に、トシヤとハルカは思わず顔を見合わせた。するとさっきまでの微妙な空気が嘘の様に消え去り、トシヤの目が輝いた。
「あんな風にされたら、頑張らない訳にはいかないよね」
やる気に満ちたトシヤの声にハルカがスマホを確認して立ち上がった。
「そうよね、もしトラブルがあったのなら連絡が有るだろうし、先にゴールまで行っちゃおうか」
トシヤもスマホを確認すると、電波状態は少し悪いがマサオからの着信もメールも入ってはいない。と言うか、サイクルジャージのポケットに入れていたのだから着信が有ればすぐに気付く筈だ。
「よし、行くか!」
「行きましょうか!」
トシヤがヘルメットを被るとハルカもヘルメットに手を伸ばした。トシヤはリアクトに、ハルカはエモンダに跨り、まずは右のクリートを嵌めた。
「残りはあと四分の一ってトコよ。少しキツい上りも有るけど、トシヤ君なら大丈夫。ゴールまで一気に行くわよ!」
ハルカの励まさす様な言葉にトシヤは大きく息を吸い込むとペダルを踏み込み、左のクリートを嵌めてハルカの後を追った。
駐車場を出ると、いきなりトシヤの心が折れそうになった左のヘアピンだ。サドルから腰を浮かせてダンシングで上るハルカを真似てトシヤもサドルから腰を浮かせるが、やはり上手くいかない。シッティングでペダルを回した方が太腿にかかる負担が少しマシなぐらいだ。
「くっそー、『休むダンシング』ってどーやりゃ良いんだよ!?」
ボヤくトシヤの太腿は悲鳴を上げる寸前だった。だが、ハルカはひょいひょいと右のペダルに左のペダルにとリズム良く体重を乗せ、どんどん坂を上って行く。
「もしかして、ハルカちゃんって体重重いのかな……」
思いながらトシヤが前を見ると、ハルカのお尻がリズム良く左右に揺れている。それはキュっと締まった健康的なヒップだ。そこから伸びる脚もすらりとしていて、とても重いとは思えない。そう言えば胸も軽そうだったっけ……などと、こんな時に思わず不埒な事を考えてしまうところは、やはりトシヤも男の子なのだろう。そんな事とは知らないハルカは坂が緩んだところでサドルにお尻を下ろすと振り向いた。
「トシヤ君、ちゃんと着いて来てるわね!」
ハルカが振り向いた事で、トシヤは自分の不埒な考えを見透かされたかとドキっとしたが、ハルカの顔は真剣そのもの。トシヤは妙な事を考えた自分を恥ずかしく思い、その恥ずかしい自分を振り払う様に元気良く答えた。
「当たり前だろ、さっきの人から気合もらったからな!」
もちろん太腿が悲鳴を上げかけているのは秘密だ。それと、ハルカからも元気をもらっている事も。
微妙な空気が流れる中、時間だけが過ぎていく。すると、一台のロードバイクがカーブから姿を現した。トシヤは「ルナ先輩か?」と思って身を乗り出したが、ヘルメットの色からウェア、乗っているバイクの色も違うし、どう見ても男だ。がっかりして浮いた腰を落としたトシヤに気付いたのか、そのロードバイクの男はトシヤの方をチラっと見ると、激励するかの様に左手を上げ、拳を握って見せた。そしてすぐハンドルに手を戻し、一気にカーブを駆け上って行った。
「ははっ、頑張れってよ」
「凄い余裕ね、上りのヘアピン直前で片手放して激励してくれるなんて」
予想外の激励に、トシヤとハルカは思わず顔を見合わせた。するとさっきまでの微妙な空気が嘘の様に消え去り、トシヤの目が輝いた。
「あんな風にされたら、頑張らない訳にはいかないよね」
やる気に満ちたトシヤの声にハルカがスマホを確認して立ち上がった。
「そうよね、もしトラブルがあったのなら連絡が有るだろうし、先にゴールまで行っちゃおうか」
トシヤもスマホを確認すると、電波状態は少し悪いがマサオからの着信もメールも入ってはいない。と言うか、サイクルジャージのポケットに入れていたのだから着信が有ればすぐに気付く筈だ。
「よし、行くか!」
「行きましょうか!」
トシヤがヘルメットを被るとハルカもヘルメットに手を伸ばした。トシヤはリアクトに、ハルカはエモンダに跨り、まずは右のクリートを嵌めた。
「残りはあと四分の一ってトコよ。少しキツい上りも有るけど、トシヤ君なら大丈夫。ゴールまで一気に行くわよ!」
ハルカの励まさす様な言葉にトシヤは大きく息を吸い込むとペダルを踏み込み、左のクリートを嵌めてハルカの後を追った。
駐車場を出ると、いきなりトシヤの心が折れそうになった左のヘアピンだ。サドルから腰を浮かせてダンシングで上るハルカを真似てトシヤもサドルから腰を浮かせるが、やはり上手くいかない。シッティングでペダルを回した方が太腿にかかる負担が少しマシなぐらいだ。
「くっそー、『休むダンシング』ってどーやりゃ良いんだよ!?」
ボヤくトシヤの太腿は悲鳴を上げる寸前だった。だが、ハルカはひょいひょいと右のペダルに左のペダルにとリズム良く体重を乗せ、どんどん坂を上って行く。
「もしかして、ハルカちゃんって体重重いのかな……」
思いながらトシヤが前を見ると、ハルカのお尻がリズム良く左右に揺れている。それはキュっと締まった健康的なヒップだ。そこから伸びる脚もすらりとしていて、とても重いとは思えない。そう言えば胸も軽そうだったっけ……などと、こんな時に思わず不埒な事を考えてしまうところは、やはりトシヤも男の子なのだろう。そんな事とは知らないハルカは坂が緩んだところでサドルにお尻を下ろすと振り向いた。
「トシヤ君、ちゃんと着いて来てるわね!」
ハルカが振り向いた事で、トシヤは自分の不埒な考えを見透かされたかとドキっとしたが、ハルカの顔は真剣そのもの。トシヤは妙な事を考えた自分を恥ずかしく思い、その恥ずかしい自分を振り払う様に元気良く答えた。
「当たり前だろ、さっきの人から気合もらったからな!」
もちろん太腿が悲鳴を上げかけているのは秘密だ。それと、ハルカからも元気をもらっている事も。
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