ヒルクライム・ラバーズ ~初心者トシヤとクライマーの少女~

すて

文字の大きさ
44 / 141

コンビニ前での微妙な空気、後女子は元気で男子はヘロヘロ

しおりを挟む
 そんなうちに、ルナとマサオがコンビニに到着した。

「おっ、居た居た」

 コンビニの前でトシヤとハルカが仲良さそうに座っているのを見つけたマサオが言うと、ルナはそこに二人がいるのは当然だと言わんばかりに手を振り、エモンダを二人の前に止めた。

「待たせちゃったかしら? それとも、もっと二人きりで居たかった?」

 冗談とも本気とも取れるルナの言葉にトシヤは絶句し、ハルカは赤くなって俯いてしまった。これはもう、後者だと答えているのも同然だ。空気を読んだルナはエモンダから降りた。

「じゃあ、私も飲み物買ってこようかしら。二人が見ててくれるから、ワイヤーロックはしなくて良いわよね」

 トシヤとハルカに自転車の番を任せると、ルナとマサオは店へと入っていった。またしても二人きりになったトシヤとハルカ。しかもルナの言動のおかげでお互いにこの上無く意識してしまっている。
 お互いに意識しているという事は、気恥ずかしくはあるが、同時に大チャンスどころか超チャンスでもある。ここで一気に攻めれば二人には明るい未来が開ける筈なのだが、彼女居ない歴=年齢のトシヤは非常に残念な事にそんなスキルも勇気も持ち合わせていない。もちろんそれはハルカも同じことだ。『女の子として見てもらえない』と言うだけあって、ハルカも彼氏居ない歴=年齢なのだ。

「あのさ……」

 沈黙に耐え切れなくなったトシヤが口を開くが、続く言葉が出て来ない。

「な、何よ……」

 ハルカもトシヤの呼びかけに応えながらも何も言う事が出来ないでいる。

「………………」

「………………」

 また沈黙が二人を包んだ。

「おう、待たせたな」

 男の声が沈黙を破った。言うまでもないだろうが、マサオの声だ。トシヤが声がした方を見ると、コンビニ袋をぶら下げたマサオがルナと共に歩いて来ていた。

「はい、ルナ先輩。冷たいドリンクっす」

 マサオはトシヤとハルカの間に流れる空気も読まずに手に下げたコンビニ袋からスポーツドリンクを一本取り出すと、恭しくルナに手渡した。

「ありがとう。でも良いのかな? 後輩に奢ってもらっちゃって」

 ルナはそれを受け取りながら複雑そうな顔をするが、マサオは胸を張って主張した。

「展望台で分けてもらったドリンクの味、アレは一生忘れられませんよ。それに比べたらそんなの安いモノっすよ。受けた恩は何倍にもして返す、それが俺って男っすから。なあ、トシヤ」

 百数十円のスポーツドリンク一本で恐ろしく大層なことを言うマサオだが、話を振られたトシヤとしては何かフォローの言葉を発しなければならない。と言うか、フォローしてくれとマサオが目で訴えている。

「そうっすね。マサオはそういうヤツです。俺もマサオにはしょっちゅう奢ってもらってますしね」

 トシヤがマサオを持ち上げようと何とか捻り出した言葉にマサオは満足そうに頷き、ルナは「それじゃあ遠慮無く」とスポーツドリンクのキャップを捻った。

「いただきます」

 ルナは義理堅くもう一度マサオに礼を言うと、ペットボトルから直接スポーツドリンクをゴクゴクと飲みだした。サイクルボトルに移し替えてしまうと、吸った分や握った分しか出て来ないので、少しずつ水分を摂る時は良いのだが、一気に飲もうとすると意外ともどかしかったりする。ちなみにサイクルボトルをギュっと握ればコップ一杯分ぐらいのドリンクは出て来るのだが、ゴクゴクと調子良く飲むならペットボトルから直接飲んだ方が飲みやすいのだ。

 ペットボトルの三分の一程を一気に喉に流し込んだルナは「ふうっ」と一息吐くと、残ったスポーツドリンクをサイクルボトルに移し、空になったペットボトルをゴミ箱に入れた。

「私はもう一本上ってくるけど、皆はどうする?」

 恐ろしい事にルナはもう一度峠を上ると言う。まあ、実際にも所謂『ガチ勢』は練習だと言って何本も峠を上るらしいし、中には一日に十回以上上る事に挑戦して成功したバケモノ(褒め言葉)も居たりするのだが、ヒヨっ子のトシヤやマサオには縁遠い話だ。

「そう、じゃあ今日は解散ね。お疲れ様、また明日学校で」

 尻込みするトシヤとマサオをコンビニに残し、ルナとハルカは峠へ向かってまた走り出した。

「あの二人、元気だな」

「ああ。俺達も頑張らなきゃな」

 トシヤとマサオは言いながらも「やっぱり俺達も行くぜ」などと言い出す体力も気力無く、ただ呆然と彼女達の後ろ姿を見送るばかりだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...