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ガチな人はヒルクライムのゴールで記念写真なんか撮らないけど
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マサオを気遣って何度も振り返っていたからと言ってトシヤに余裕があるワケでは無い。フラフラとゴールである展望台の駐車場に吸い込まれる様に入ったトシヤは急いでリアクトを脇に寄せると左のクリートを外し、足を着いた。それに少し遅れてマサオも無事に駐車場に入り、左のクリートを外すとヨロヨロとトシヤの横にプリンスを並べて止めて足を着いた。
二人並んでハアハアゼイゼイ言う呼吸を整えること数十秒、トシヤが先に口を開いた。
「お疲れ」
「おう、お疲れ」
軽い口調でマサオが答えた。これだけ聞けば簡単にヒルクライムをこなした二人みたいだが、実際のところはヘロヘロで、二人共早く座り込みたくて仕方が無い。だが、座り込む前にしなくてはならない事がある。そう、展望台から下界(笑)を下ろしての記念写真の撮影だ。幸い展望台は今、トシヤとマサオの貸し切り状態だ。他のローディーが上ってくる前に絶景ポイントにある石にペダルを使って立てかけて写真を数枚撮影すると、マサオがトシヤに催促し出した。
「もちろんこの写真、ハルカちゃんに送るんだよな? ちゃんと書いといてくれよ、俺も足着かずに上ったってよ」
マサオは本当は自分でルナに渋山峠を足着き無しで上った事を報告したいのだが、残念ながらルナからまだ連絡先を教えてもらえていないのでトシヤに頼るしか無いのだ。
「わかったよ。でも、まだハルカちゃん補習中じゃないか?」
サイコンの時計ではまだお昼前。という事は、午前中いっぱい補習を受けなければならないハルカはまだ補習中だろう。
「そだな。じゃあ後で良いか」
トシヤの言葉にマサオはプリンスのボトルケージからボトルを引っこ抜きながら言い、トシヤも自分のボトルに手を伸ばした。そして二人はボトルの中身のスポーツドリンクを口に流し込み、ほとんど同時に呟いた。
「……温いな」
*
完全に温くなってしまったスポーツドリンクも暑い中を必死にペダルを回して長い峠道を上ること数十分、ようやくたどり着いた展望台で飲めば最高に美味い……なんてコトがあるワケが無い。喉がカラカラに渇いているから飲めない事は無いが、普段だったら捨ててしまうレベルの不味さだ。
だが、ここ渋山峠ヒルクライムのゴールである展望台の駐車場にはドリンクの自動販売機など設置されていない。だから温くなってしまったドリンクを飲むしか無いのだ。
とは言ってもなんとか初めての『足着き無し』を達成したマサオはご機嫌な顔でボトルに入っていたスポーツドリンクを飲み干し、しみじみと言った。
「これで俺もクライマーの仲間入りだな」
「『この上なく遅い』って形容詞が付くけどな」
トシヤに突っ込まれ、マサオが苦笑いするしか無かった。だがトシヤも自分が『この上なく遅い』のは重々承知している。
「もっとも遅いのは俺もなんだけどな。まあ、そのうち速く上れる様になるだろ。今は遅くってもな」
トシヤもマサオも少しずつではあるが成長しているのだ。何度もヒルクライムに挑戦しているうちに足を着く回数が段々と減っていき、遂には足着き無しで上れる様になったのだ。これからは段々と速く上れる様になっていくだろう。そう信じて熱く語るトシヤにマサオも発奮した様だ。
「そーだな、いつまでもルナ先輩やハルカちゃんの後ろばっかり走ってる俺達じゃ無いってトコ、見せないとな」
一度足着き無しで上れた(トシヤは一度では無いが)からと言って今後も足着き無しで上れる保証は無い。いや、それどころかコンスタントに足着き無しで上れる様になってもコンディション次第では足を着いてしまう事もあるのがヒルクライムというモノだ。だが、そんな事は微塵も考えずにトシヤとマサオが盛り上がっているうちに時間が少し経過した。
「ハルカちゃん、そろそろ補習終わる頃じゃねーかな?」
トシヤが言うとマサオは空になったボトルをボトルケージに戻し、急かす様に言った。
「そっか。んじゃ早くメッセージ送ってくれよ。今日は俺も足着き無しで上ったって一文を忘れずにな」
自己アピールに余念の無いマサオにトシヤは冷めた目で見ながらもリクエストに応える様なメッセージをハルカに送った。もちろん展望台で撮った写真を添えるのはお約束だ。夏の濃い青の空の下、遥か遠くに広がる町並みをバックに並んだリアクトとプリンスの写真、言ってしまえば何でも無い写真だ。しかし補習の為、この場に居合わせることが出来無かったハルカにとっては腹立たしい……いや、羨ましいことこの上無い一枚だ。
「んじゃ、そろそろ下りるか」
「だな。メシでも食いに行こうぜ」
トシヤがスマホをサイクルジャージの背中ポケットに突っ込んで言うとマサオは口元に笑みを浮かべて答えた。
二人並んでハアハアゼイゼイ言う呼吸を整えること数十秒、トシヤが先に口を開いた。
「お疲れ」
「おう、お疲れ」
軽い口調でマサオが答えた。これだけ聞けば簡単にヒルクライムをこなした二人みたいだが、実際のところはヘロヘロで、二人共早く座り込みたくて仕方が無い。だが、座り込む前にしなくてはならない事がある。そう、展望台から下界(笑)を下ろしての記念写真の撮影だ。幸い展望台は今、トシヤとマサオの貸し切り状態だ。他のローディーが上ってくる前に絶景ポイントにある石にペダルを使って立てかけて写真を数枚撮影すると、マサオがトシヤに催促し出した。
「もちろんこの写真、ハルカちゃんに送るんだよな? ちゃんと書いといてくれよ、俺も足着かずに上ったってよ」
マサオは本当は自分でルナに渋山峠を足着き無しで上った事を報告したいのだが、残念ながらルナからまだ連絡先を教えてもらえていないのでトシヤに頼るしか無いのだ。
「わかったよ。でも、まだハルカちゃん補習中じゃないか?」
サイコンの時計ではまだお昼前。という事は、午前中いっぱい補習を受けなければならないハルカはまだ補習中だろう。
「そだな。じゃあ後で良いか」
トシヤの言葉にマサオはプリンスのボトルケージからボトルを引っこ抜きながら言い、トシヤも自分のボトルに手を伸ばした。そして二人はボトルの中身のスポーツドリンクを口に流し込み、ほとんど同時に呟いた。
「……温いな」
*
完全に温くなってしまったスポーツドリンクも暑い中を必死にペダルを回して長い峠道を上ること数十分、ようやくたどり着いた展望台で飲めば最高に美味い……なんてコトがあるワケが無い。喉がカラカラに渇いているから飲めない事は無いが、普段だったら捨ててしまうレベルの不味さだ。
だが、ここ渋山峠ヒルクライムのゴールである展望台の駐車場にはドリンクの自動販売機など設置されていない。だから温くなってしまったドリンクを飲むしか無いのだ。
とは言ってもなんとか初めての『足着き無し』を達成したマサオはご機嫌な顔でボトルに入っていたスポーツドリンクを飲み干し、しみじみと言った。
「これで俺もクライマーの仲間入りだな」
「『この上なく遅い』って形容詞が付くけどな」
トシヤに突っ込まれ、マサオが苦笑いするしか無かった。だがトシヤも自分が『この上なく遅い』のは重々承知している。
「もっとも遅いのは俺もなんだけどな。まあ、そのうち速く上れる様になるだろ。今は遅くってもな」
トシヤもマサオも少しずつではあるが成長しているのだ。何度もヒルクライムに挑戦しているうちに足を着く回数が段々と減っていき、遂には足着き無しで上れる様になったのだ。これからは段々と速く上れる様になっていくだろう。そう信じて熱く語るトシヤにマサオも発奮した様だ。
「そーだな、いつまでもルナ先輩やハルカちゃんの後ろばっかり走ってる俺達じゃ無いってトコ、見せないとな」
一度足着き無しで上れた(トシヤは一度では無いが)からと言って今後も足着き無しで上れる保証は無い。いや、それどころかコンスタントに足着き無しで上れる様になってもコンディション次第では足を着いてしまう事もあるのがヒルクライムというモノだ。だが、そんな事は微塵も考えずにトシヤとマサオが盛り上がっているうちに時間が少し経過した。
「ハルカちゃん、そろそろ補習終わる頃じゃねーかな?」
トシヤが言うとマサオは空になったボトルをボトルケージに戻し、急かす様に言った。
「そっか。んじゃ早くメッセージ送ってくれよ。今日は俺も足着き無しで上ったって一文を忘れずにな」
自己アピールに余念の無いマサオにトシヤは冷めた目で見ながらもリクエストに応える様なメッセージをハルカに送った。もちろん展望台で撮った写真を添えるのはお約束だ。夏の濃い青の空の下、遥か遠くに広がる町並みをバックに並んだリアクトとプリンスの写真、言ってしまえば何でも無い写真だ。しかし補習の為、この場に居合わせることが出来無かったハルカにとっては腹立たしい……いや、羨ましいことこの上無い一枚だ。
「んじゃ、そろそろ下りるか」
「だな。メシでも食いに行こうぜ」
トシヤがスマホをサイクルジャージの背中ポケットに突っ込んで言うとマサオは口元に笑みを浮かべて答えた。
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