悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちぁみ

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1章

隠し事

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「"あのこと"ってなんなんだ…?」

「どうした?」

隣から声がしてはっと向くと、オーリーが不思議そうな目をして見ていた。

「お前か…。俺の周りには気配無く近づいて来る奴が多すぎるな。何の用だ?」

「いや、考え事しているように見えたからな!気になって」

「君には関係ない」

「そう言わずに相談してみろ。何か力になれるかもしれないだろ」

「結構だ」

「そうか…。なら、気分転換にカフェで紅茶を飲まないか?あそこの紅茶気に入ったって言ってただろ」

そう言って八重歯を見せて笑うオーリー。

「まぁな。…そういえば、オーリー」

「ん?」

「君はイブリンと同じCクラスだったよな?」

「あ、ああ…」

「カフェで少し話そう」

「…おう!」


そして、俺とオーリーはカフェのテラス席で話すことになった。

「シアン、君の右目のことについてだが」

「ああ」

「俺以外に他に知っている奴はいるのか?」

「シュドレー公爵家の者と…イブリンくらいか」

「あいつも知ってるのか!?」

というか、実はこいつに教えたからあいつも知ってしまったんだが、そこは黙っておこう。

「気になっていたんだが、人工的な石持ちと純粋な石持ちとの違いってあるのか?」

「……特にない」

そろそろ本題に入りたくて俺は咳払いした。

「それで、聞きたいことがあるんだ」

「何でも聞いてくれ」

オーリーは何故か目を輝かせて言う。

「イブリンのことについて聞きたいんだ」

「……そうか」

先程の目の輝きはなんだったのか。急に落ち込んだ表情に変わった。

「イブリンはクラスではどんな感じだ?」

「そうだな…基本的に1人で行動しているな」

「意外だ。あいつは社交的な性格だろ?」

「社交的?いや、真逆だな。彼はクラスの中ではクスリとも笑わないし、クラスメイトとは最低限の会話しかしない。だから、俺が君に初めて声をかけようとした時、クラスで見る彼の姿とは全く異なっていて驚いた。俺が知る限りでは、イブリン・ヴァレントが笑顔を見せるのは君だけだ」

「そうか…」

謎が多い奴だとは思っていたが、これを聞くと更にイブリンへの謎は深まった。何故俺だけにあそこまで懐くのか本当に謎だ。

「その…俺からも1つ、質問いいだろうか」

「何だ?」

「イブリンと恋人同士なのか?」

「ゲホッ」

予想外の質問に俺は飲んでいた紅茶を噴いてしまった。

「大丈夫か?」

「ゴホッゴホッ…大丈夫だ。それよりも、恋人同士だなんて、何故そうお考えに?」

「ここ最近いつも一緒にいるようだし…その、抱き合ったりしているのをよく見かけるしな」

「だ、抱き合ってた訳じゃない!あいつが抱きついてくるんだ」

「そ、そうか…でも、嫌そうでは無かったし、2人は付き合っているのかと。もしそうなら、俺とのコンパネロの誓いが出来ないのも当然だと思った」

つまりこういうことか。俺とイブリンは愛し合い、付き合っているが、魔力の相性としては良くない。だから当然どれだけお互いを思っていてコンパネロにはなれないし、かといって恋人の契りとも呼ばれるコンパネロの誓いを魔力の相性が良いオーリーと結ぶ訳にもいかない。俺たちはそんな悲運の恋愛をしているのだとそう思われているということか。
なるほど。どうにもこいつ、飛躍した妄想をする癖があるようだ。人情が厚い奴なのは確かだが困ったものだ。俺は思わず頭を抱えてしまった。

「付き合っていない。飛躍した考えは止めてくれ。いいか、これだけは言っておく。俺は誰ともコンパネロにならない。それはイブリンも含まれる。だからお前も諦めてくれ」

「何故だ?」

「質問はもう受け付けない。紅茶も飲んだし、教室に戻る。お時間いただき感謝する」

「あっ待て」

これ以上コンパネロの話を広げたくなくて俺はオーリーを放ってカフェを出た。
スタスタと自分の教室を目指して歩くと、庭園の方から女生徒の悲鳴に近い歓声が聞こえてきた。

第一王子たちだろうか。俺は何か忘れていたゲームのイベントがあったか気になって庭園へ向かった。

歓声の中心は庭園のガゼボにあったらしい。
大勢の女生徒や男生徒が2人の生徒に注目していた。

ガゼボの手すりの部分が全壊されているものの、注目されている2人が魔法で呪文を唱えるとみるみる元の通りに修復されていく。

「昨日の夜のうちに何者かが破壊したようですわ。まだ犯人は分からないんですって。あんなことをする人がいるとはなんて恐ろしいのかしら」

「でも、イブリン様が早急に修復することを自ら申し出たんですって。冷たい方だと思っていましたけれど、実は献身的な方だったのですね」

「何を今更言っているの。彼は入学してからずっと上品な振る舞いとお顔立ち、特待生として申し分の無い優秀さで一目置かれていたでしょう」

「本当に素敵な方ですわ!」

令嬢たちは興奮した口調でコソコソと話していた。

注目の的になっているのは、イブリンと…あともう1人は、昨夜彼と森で話していた男だった。

「はぁ、ようやく見つけた」

後ろから肩に手を置かれ、振り向くとオーリーがいた。

「ちょうどイブリン・ヴァレントだ。話しかけなくていいのか?」

「注目の的になるようなことを自らすると思うか」

「それもそうだ」

「なぁ、あのイブリンの隣にいる彼を知っているか?」

「もちろん。彼はリークレイ男爵家のハルノ・リークレイ。クラスでイブリンは基本1人だが、1番よくいる人といえば彼だな。と言っても、授業でペアワークとかする時一緒にいるくらいだしあまり仲が良さそうには見えなかったが」

「ふーん」

俺はハルノという男をまじまじと見る。
遠くから見ると隣にいるイブリンとの体格差はかなりあり、小柄な体つきをしている。
こげ茶の髪色に前髪は長めで、丸い黒目は常に何かを警戒しているように鋭い。
やはり、昨夜イブリンと話していた男で間違いない。

後で俺に紹介すると言っていたし、"あのこと"とは何なのか気になるところだ。

「ねぇ、やっぱりイブリン様はあのハルノ・リークレイって方とコンパネロになるのかしら?」

「そうに違いないわ。だってわたくし同じクラスですけれども、いつもペアワークでは必ずあの人の元へ行きますのよ。それもイブリン様と魔力の相性が良い別の方のお誘いを断ったこともあるわ。きっと特別な方なのよ」

「はぁ…相性さえ良ければ、わたくしがコンパネロになりたかったのに」

扇子を広げて話す令嬢たちの大きな内緒話を聞きながら、輪の中の2人をもう一度見た。
ガゼボの石段も綺麗に魔法で修復し、仕事を終えたイブリンとハルノは周りから大きな拍手を受ける。

俺は胸の中で芽生えた僅かな翳りに知らないふりをした。






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愛する我が息子へ
学園へ入学して既に半年が過ぎたが、どう過ごしているだろうか。
最近、第一王子が気にかけている者がいると聞いた。その者の秘密を探り対処を講じるのだ。お前が求めているだろう物を彼に送った。直に栄光の機会に恵まれよう。お前が誰の息子なのか、常に意識をして行動せよ。
追伸:右目のことは誰にも知られぬようにくれぐれも細心の注意を払って過ごすこと。
父より


寮の部屋に戻り、父からの手紙を読むと予想していた内容が記されていた。
俺はマッチで火を付けて手紙を燃やす。本来のシアン・シュドレーであればこの手紙を見て慌てて父の言う通りに行動していただろう。

(何の因果か。シアン・シュドレー、お前は俺によく似ている)


「少しだけ、お前のために行動してみようか」













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