21 / 49
3章
治癒の源
しおりを挟む
父の呪いの治癒を行って5日が経った。
「…シュレイ、どうだ?もう5日経つが…」
俺はシュレイと一緒に父に治癒魔法を使い終えると、すかさず聞いた。
「…えっ、あっ…うん…みんなが交代で手伝ってくれるから、一応兆しは見えてる。でも…1週間って言ったけど、もしかしたらもう少しかかるかもしれない」
「…そうか…もう少しかかるのか」
「うん…ごめんね」
「いや…正直心配なのはシュレイ、お前のほうだ。俺たちは、4人で回して魔法を使っているから疲れは何とかなる。だが、シュレイは毎日ずっと…魔力が切れるまで治癒しているじゃないか。このままでは、危ない」
「僕大丈夫だよ!心配しないで、サイラス」
「だが…せめて…1日でも休んでほしい。俺には、お前も大事なんだ」
「サイラス…。ありがとう。でもね、ここで中断したら、その分呪いが戻っていくと思う。そんなの、嫌なんだ。目の前に苦しんでる人がいて、僕に出来ることがあるのにやらないなんて…僕自身が許せないから」
「シュレイ…」
「だから、ね。サイラス…ここは…僕に任せ…」
「シュレイ!!」
シュレイは急にふらっと体の力が抜け倒れそうになり、俺は即座に彼の体を支えた。
-----------------------------------
ベッドで眠るシュレイを俺は黙って見ていた。
気絶したシュレイを空いている部屋へ運ぶと、俺は医者とユーリアスたちを呼んだ。
医者からは、連日に渡る魔力の使い過ぎによる過労だと言われ、しばらく休ませておくようにと注意を受けた。
ユーリアスたちは、俺のせいにも関わらず何も言わずただ励ますように肩を叩いて部屋を出ていった。
「お前は優しい奴だから、頑張り過ぎると分かっていたのに、俺はそれを利用したんだ…。すまない…シュレイ…」
眠るシュレイの手を握り、俺は小さく謝ることしか出来なかった。
数時間後、シュレイは目を覚まし眠たげな目で俺を見た。
「シュレイ!大丈夫か?水を飲め」
俺は水差しからコップに水を注ぎ、彼の体を少し起こして飲ませた。
「……お父上のところに…行かなきゃ」
「……シュレイ。もういい。父上のことは…」
「…大丈夫。お父上は絶対助かるよ。夢を見たんだ」
「夢?」
「…夢でね、女神に会った」
「本当か?」
「うん。治癒の魔法の源は、治したいと願う人の心が大事なんだって。治したいと願う人の思いが強ければ強い程、強力だって仰ってた。だから、サイラス……サイラスの思いがあればきっと大丈夫だよ…」
「………そうか。それなら、やっぱりもうやめよう」
「えっ、なんで!?」
「これでなんとなく治りが遅い理由が分かった。お前の力不足じゃない。俺の…父上への思いが足りないから、きっと治らないんだ。このままじゃ、いつまで続くか分からない…やめよう。もうシュレイやユーリアスたちに迷惑をかけたくない」
「何言ってるの?サイラスが頼んできたのに…どうしてそんなこと…。何か理由があるの?」
「…俺はきっと…心のどこかでは父上に治ってほしくないと思っているんだ」
「どうして…?」
「……実は、俺には双子の弟がいた」
名は、ライアン・ドグナー。
ライアンは、俺とは違って優しい性格で誰にでも好かれるタイプの男だった。俺と一緒で父上を目標にし、同じだけの時間を剣の稽古に捧げてきた。だから俺にとって昔から、弟はライバルで対等な存在であった。しかし、少しずつライアンと俺の実力差が見え隠れするようになっていった。それを父は早くから気づき、俺よりもライアンの剣術の指導に熱心になっていった。その熱心さのおかげもあり、ライアンはめきめきと剣術の腕を上げ、周りからは将来は勇猛な騎士になると称えられるようになっていった。だからこそ、父上は呪いを受けた後、特にライアンへの期待は凄まじいものになった。恐らく、自分はもう騎士団の団長に戻ることはない、それなら自分の優秀な息子を育てあげることだけが自分に残された人生の意義だと思ったのだろう。
ライアンも哀れで尊敬する自分の父のためを思って毎日必死に鍛錬に励んだが、ある日突然死んでしまった。朝起こしにいくと部屋で眠るように死んでいた。医者の診断は、自殺や事故死ではなく心機能の突発的な異常による死だという。父はそれを聞いてとてもじゃないが納得出来ず、医者に襲いかかろうとした。
それから、我がドグナー家は地獄のような日々を送るようになった。父は唯一の光を失い精神的におかしくなり、そんな状態の父を相手にどんどん母や俺や弟たちも憔悴しきっていった。
「それを考えると…俺はきっと、心の底では父に戻って欲しいとは思えないんだろうな…」
「家族をめちゃくちゃにした張本人だから恨んでるの?」
「……そうだ。そもそも父が、呪いを受けなければこんなことにはならなかったかもしれない。弟をあそこまで追い詰めなければ死ななかったかもしれない。父が少しでも心を許してくれたら、家族で支えることもできたかもしれない。あの時ああしててくれればって…いろいろと恨み言が出てきてしまう。こんな事思っても仕方ないのに」
「大丈夫。お父上のことで苦しんできたかもしれない。でも、ずっと幼い頃から尊敬してきたんだよね?今は恨んでるかもしれないけど、愛してる気持ちはちっともないの?そんなはずないよ。だったら、僕に頼んでくるはずないもん。でしょ?」
シュレイの濁りないピンクの瞳が俺に問いかけてきた。
「そうだな…」
俺は昔の頃の父の姿を思い出して、そう答えた。
「コンコンコン、失礼します」
後ろから、聞きなれない声が聞こえてきた。
俺は咄嗟に後ろを振り向くと、なぜここにいるのか分からない人物が2人いた。
「シアンさんにイブリンさん!」
「なぜお前たちがここに!」
俺は2人の姿に驚いて、立ち上がった。
「すみません、一応ノックはしたのですが、聞こえなかったみたいなので口で言いました」
シアンは冷たい紫の瞳で淡々とそう返した。
「それよりも、なぜいるのかと聞いている」
「いえ、私も出来るなら来たくなかったのですが…忘れ物を届けにきました」
「忘れ物?」
シュレイが間の抜けたような声で聞いた。
「これです」
「そっそれ!」
彼は懐から見覚えのあるナイフを取り出して見せてきた。
「…なぜお前がもっている?それは、シュレイに貸して…無くしてしまったと聞いていた」
シアンが持っているナイフは、魔獣討伐大会でシュレイに護身用として渡したナイフだった。だが、大会翌日にシュレイに縄を切って使ったものの泉の中で恐らくなくしてしまったのだと泣きながら謝罪された。俺は、少しでも彼の役に立てたのならそれで十分だと思っていたし、無くしたとしたならそれはそれで良い心の区切りになるような気がしていた。
「いえ…実は魔獣と戦う時に使わせてもらっていたんですが、返すのをすっかり忘れていてしまって…。すみません、これはサイラス様のものなんですよね。お返しいたします」
「必要ねぇよ。お前が使ったものなら尚更」
俺はそう言い捨て、扉の前にいるシアンを睨みつけて部屋を出た。
----------------------------------
「サイラス…どうしてあんなこと…」
シュレイがベッドから降りて、そう呟いた。
「さぁ…なぜだろう」
まだシュレイは、俺シアン・シュドレーがなぜずっとサイラスに嫌われているのか教えられていないようだ。
恐らく、攻略対象の中なら彼が一番シュドレー家を憎んでいるだろう。
というのも、彼の父ドグナー団長が呪いを受けた原因は俺の父であるシュドレー公爵も関わっているからだ。実は、父は何人かお抱えの呪師を隠していて、呪いの類は割と詳しい人だ。だからこそ、どこかに呪師が現れれば父が直結してくる。つまり、5年前ドグナー団長を恨む盗賊団の長と父が共謀して、あの事件は起こった。結果、盗賊団の長は復讐ができて、父は襲った場所の魔石洞の魔石をゲットした。しかし、誰が隠れて手を回し、自分の家を滅茶苦茶に潰したのか明らかであったとしても、公爵である父が脅かされることは一切なかった。そんな憎き男の憎き息子である俺に、何度も突っかかってくる気持ちは当然だろう。
「あの…そのナイフ…僕が渡してきます」
シュレイが俺の前へ来て言った。
「…俺が触ったものだから、受け取らないと言っていたが…」
「でも、彼にとって…きっと大事なものだから」
「…分かった」
俺はそう言って、シュレイにナイフを渡した。
「さ、シアン早く帰ろう」
部屋を出ると、隣をついてくるイブリンが声をかけてきた。
「あぁ、そうだな。ていうか、なんでお前いるんだっけ」
「えぇ…ドグナー家に来たのは俺の責任もあるなって思ったからきたんだよ?」
「…そうだったな」
そう、ことの発端はこの大型犬のせいだった。
魔獣討伐大会翌日、放課後になってこいつは俺に聞いてきた。
「そういえば、このナイフなんだけど、シアンのだよね?返すの忘れててごめん」
そう言われて、あるナイフを渡された。このナイフは、もちろん俺のものではない。シュレイがサイラスに護身用に渡されたナイフを俺が使って持っていたようなのだが、問題はここからだった。シュレイは早速国王陛下の謁見のため午後の授業は早退して学園にいない。かと言って、明日からは長期の休みが入るから、渡せるとしたら1ヶ月後だ。だが、このナイフは休み中にサイラスの父の呪いを解くためには重要なアイテムとなっている。1ヶ月後では当然遅い…となると、どうするか。
俺は悩みに悩んだ。このナイフが無いせいでシナリオ通りにいかない、ということは最悪の事態だ。そう考えると責任を感じざるを得なくなり、俺はサイラスの屋敷へ来たのだ。
仕方ない、と腹を括って決意すると何故かイブリンもついてきていた。何も言ってないのに、朝寮の部屋の前で待っていた。思わず心が読めるのかと疑ってしまったものだ。
「…必要ないと言ったはずだ!」
「で、でも…これってサイラスにとって大事なものなんでしょ?貸してくれた時、お守りみたいなものって言ってたの覚えてるよ」
「っ…それは…」
階段を降りると、応接室の方からサイラスとシュレイの声が聞こえてきた。
「…シュレイ、どうだ?もう5日経つが…」
俺はシュレイと一緒に父に治癒魔法を使い終えると、すかさず聞いた。
「…えっ、あっ…うん…みんなが交代で手伝ってくれるから、一応兆しは見えてる。でも…1週間って言ったけど、もしかしたらもう少しかかるかもしれない」
「…そうか…もう少しかかるのか」
「うん…ごめんね」
「いや…正直心配なのはシュレイ、お前のほうだ。俺たちは、4人で回して魔法を使っているから疲れは何とかなる。だが、シュレイは毎日ずっと…魔力が切れるまで治癒しているじゃないか。このままでは、危ない」
「僕大丈夫だよ!心配しないで、サイラス」
「だが…せめて…1日でも休んでほしい。俺には、お前も大事なんだ」
「サイラス…。ありがとう。でもね、ここで中断したら、その分呪いが戻っていくと思う。そんなの、嫌なんだ。目の前に苦しんでる人がいて、僕に出来ることがあるのにやらないなんて…僕自身が許せないから」
「シュレイ…」
「だから、ね。サイラス…ここは…僕に任せ…」
「シュレイ!!」
シュレイは急にふらっと体の力が抜け倒れそうになり、俺は即座に彼の体を支えた。
-----------------------------------
ベッドで眠るシュレイを俺は黙って見ていた。
気絶したシュレイを空いている部屋へ運ぶと、俺は医者とユーリアスたちを呼んだ。
医者からは、連日に渡る魔力の使い過ぎによる過労だと言われ、しばらく休ませておくようにと注意を受けた。
ユーリアスたちは、俺のせいにも関わらず何も言わずただ励ますように肩を叩いて部屋を出ていった。
「お前は優しい奴だから、頑張り過ぎると分かっていたのに、俺はそれを利用したんだ…。すまない…シュレイ…」
眠るシュレイの手を握り、俺は小さく謝ることしか出来なかった。
数時間後、シュレイは目を覚まし眠たげな目で俺を見た。
「シュレイ!大丈夫か?水を飲め」
俺は水差しからコップに水を注ぎ、彼の体を少し起こして飲ませた。
「……お父上のところに…行かなきゃ」
「……シュレイ。もういい。父上のことは…」
「…大丈夫。お父上は絶対助かるよ。夢を見たんだ」
「夢?」
「…夢でね、女神に会った」
「本当か?」
「うん。治癒の魔法の源は、治したいと願う人の心が大事なんだって。治したいと願う人の思いが強ければ強い程、強力だって仰ってた。だから、サイラス……サイラスの思いがあればきっと大丈夫だよ…」
「………そうか。それなら、やっぱりもうやめよう」
「えっ、なんで!?」
「これでなんとなく治りが遅い理由が分かった。お前の力不足じゃない。俺の…父上への思いが足りないから、きっと治らないんだ。このままじゃ、いつまで続くか分からない…やめよう。もうシュレイやユーリアスたちに迷惑をかけたくない」
「何言ってるの?サイラスが頼んできたのに…どうしてそんなこと…。何か理由があるの?」
「…俺はきっと…心のどこかでは父上に治ってほしくないと思っているんだ」
「どうして…?」
「……実は、俺には双子の弟がいた」
名は、ライアン・ドグナー。
ライアンは、俺とは違って優しい性格で誰にでも好かれるタイプの男だった。俺と一緒で父上を目標にし、同じだけの時間を剣の稽古に捧げてきた。だから俺にとって昔から、弟はライバルで対等な存在であった。しかし、少しずつライアンと俺の実力差が見え隠れするようになっていった。それを父は早くから気づき、俺よりもライアンの剣術の指導に熱心になっていった。その熱心さのおかげもあり、ライアンはめきめきと剣術の腕を上げ、周りからは将来は勇猛な騎士になると称えられるようになっていった。だからこそ、父上は呪いを受けた後、特にライアンへの期待は凄まじいものになった。恐らく、自分はもう騎士団の団長に戻ることはない、それなら自分の優秀な息子を育てあげることだけが自分に残された人生の意義だと思ったのだろう。
ライアンも哀れで尊敬する自分の父のためを思って毎日必死に鍛錬に励んだが、ある日突然死んでしまった。朝起こしにいくと部屋で眠るように死んでいた。医者の診断は、自殺や事故死ではなく心機能の突発的な異常による死だという。父はそれを聞いてとてもじゃないが納得出来ず、医者に襲いかかろうとした。
それから、我がドグナー家は地獄のような日々を送るようになった。父は唯一の光を失い精神的におかしくなり、そんな状態の父を相手にどんどん母や俺や弟たちも憔悴しきっていった。
「それを考えると…俺はきっと、心の底では父に戻って欲しいとは思えないんだろうな…」
「家族をめちゃくちゃにした張本人だから恨んでるの?」
「……そうだ。そもそも父が、呪いを受けなければこんなことにはならなかったかもしれない。弟をあそこまで追い詰めなければ死ななかったかもしれない。父が少しでも心を許してくれたら、家族で支えることもできたかもしれない。あの時ああしててくれればって…いろいろと恨み言が出てきてしまう。こんな事思っても仕方ないのに」
「大丈夫。お父上のことで苦しんできたかもしれない。でも、ずっと幼い頃から尊敬してきたんだよね?今は恨んでるかもしれないけど、愛してる気持ちはちっともないの?そんなはずないよ。だったら、僕に頼んでくるはずないもん。でしょ?」
シュレイの濁りないピンクの瞳が俺に問いかけてきた。
「そうだな…」
俺は昔の頃の父の姿を思い出して、そう答えた。
「コンコンコン、失礼します」
後ろから、聞きなれない声が聞こえてきた。
俺は咄嗟に後ろを振り向くと、なぜここにいるのか分からない人物が2人いた。
「シアンさんにイブリンさん!」
「なぜお前たちがここに!」
俺は2人の姿に驚いて、立ち上がった。
「すみません、一応ノックはしたのですが、聞こえなかったみたいなので口で言いました」
シアンは冷たい紫の瞳で淡々とそう返した。
「それよりも、なぜいるのかと聞いている」
「いえ、私も出来るなら来たくなかったのですが…忘れ物を届けにきました」
「忘れ物?」
シュレイが間の抜けたような声で聞いた。
「これです」
「そっそれ!」
彼は懐から見覚えのあるナイフを取り出して見せてきた。
「…なぜお前がもっている?それは、シュレイに貸して…無くしてしまったと聞いていた」
シアンが持っているナイフは、魔獣討伐大会でシュレイに護身用として渡したナイフだった。だが、大会翌日にシュレイに縄を切って使ったものの泉の中で恐らくなくしてしまったのだと泣きながら謝罪された。俺は、少しでも彼の役に立てたのならそれで十分だと思っていたし、無くしたとしたならそれはそれで良い心の区切りになるような気がしていた。
「いえ…実は魔獣と戦う時に使わせてもらっていたんですが、返すのをすっかり忘れていてしまって…。すみません、これはサイラス様のものなんですよね。お返しいたします」
「必要ねぇよ。お前が使ったものなら尚更」
俺はそう言い捨て、扉の前にいるシアンを睨みつけて部屋を出た。
----------------------------------
「サイラス…どうしてあんなこと…」
シュレイがベッドから降りて、そう呟いた。
「さぁ…なぜだろう」
まだシュレイは、俺シアン・シュドレーがなぜずっとサイラスに嫌われているのか教えられていないようだ。
恐らく、攻略対象の中なら彼が一番シュドレー家を憎んでいるだろう。
というのも、彼の父ドグナー団長が呪いを受けた原因は俺の父であるシュドレー公爵も関わっているからだ。実は、父は何人かお抱えの呪師を隠していて、呪いの類は割と詳しい人だ。だからこそ、どこかに呪師が現れれば父が直結してくる。つまり、5年前ドグナー団長を恨む盗賊団の長と父が共謀して、あの事件は起こった。結果、盗賊団の長は復讐ができて、父は襲った場所の魔石洞の魔石をゲットした。しかし、誰が隠れて手を回し、自分の家を滅茶苦茶に潰したのか明らかであったとしても、公爵である父が脅かされることは一切なかった。そんな憎き男の憎き息子である俺に、何度も突っかかってくる気持ちは当然だろう。
「あの…そのナイフ…僕が渡してきます」
シュレイが俺の前へ来て言った。
「…俺が触ったものだから、受け取らないと言っていたが…」
「でも、彼にとって…きっと大事なものだから」
「…分かった」
俺はそう言って、シュレイにナイフを渡した。
「さ、シアン早く帰ろう」
部屋を出ると、隣をついてくるイブリンが声をかけてきた。
「あぁ、そうだな。ていうか、なんでお前いるんだっけ」
「えぇ…ドグナー家に来たのは俺の責任もあるなって思ったからきたんだよ?」
「…そうだったな」
そう、ことの発端はこの大型犬のせいだった。
魔獣討伐大会翌日、放課後になってこいつは俺に聞いてきた。
「そういえば、このナイフなんだけど、シアンのだよね?返すの忘れててごめん」
そう言われて、あるナイフを渡された。このナイフは、もちろん俺のものではない。シュレイがサイラスに護身用に渡されたナイフを俺が使って持っていたようなのだが、問題はここからだった。シュレイは早速国王陛下の謁見のため午後の授業は早退して学園にいない。かと言って、明日からは長期の休みが入るから、渡せるとしたら1ヶ月後だ。だが、このナイフは休み中にサイラスの父の呪いを解くためには重要なアイテムとなっている。1ヶ月後では当然遅い…となると、どうするか。
俺は悩みに悩んだ。このナイフが無いせいでシナリオ通りにいかない、ということは最悪の事態だ。そう考えると責任を感じざるを得なくなり、俺はサイラスの屋敷へ来たのだ。
仕方ない、と腹を括って決意すると何故かイブリンもついてきていた。何も言ってないのに、朝寮の部屋の前で待っていた。思わず心が読めるのかと疑ってしまったものだ。
「…必要ないと言ったはずだ!」
「で、でも…これってサイラスにとって大事なものなんでしょ?貸してくれた時、お守りみたいなものって言ってたの覚えてるよ」
「っ…それは…」
階段を降りると、応接室の方からサイラスとシュレイの声が聞こえてきた。
359
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる