31 / 49
4章
女神の夢
しおりを挟む
目を開けると、そこは黒い虚空の空間だった。
「…ここは?」
周りを見渡しながら発した言葉は淋しく谺した。
「ここはあなたの夢の中です」
背後から声がして後ろを振り向くと、美しい女性がいた。髪も肌も身に纏う服も全てが真っ白で、輝きを放っていた。
「あなたは?」
「私は女神リース。あなたをずっと待っていました」
「なぜ、女神が俺を?」
「…どうしてもあなたに伝えなければいけないことがあり、私はあなたの夢の中へ入りました」
伝えたいこととは何だろうか?いや、それよりも女神って本当に存在したのか、など思うことは色々とあった。
「あなたが今後どのような選択をしていくかは分かりません…。しかし、ユーリアス・クラインが持つあの懐中時計だけはなんとしてでも取り返すのです」
「ま、待ってください。取り返す、と仰いましたか?まさか、あの懐中時計は本当に…」
「えぇ。あなたが推測している通りです。あの懐中時計は、私がシアン・シュドレーに与えた時空を操る能力を覚醒させるためのアイテムで、元はあなたが持っていたものです。いえ…正しくはあなたの本当の身体の持ち主が持っていたもの…。しかし、彼は時計を手放し、今はあの男が持っている…非常に厄介なことです」
「どういうことですか?時計を持っていないと、なにか問題があるのですか?」
「時空を操る能力を使うにあたって、最も重要なことは記憶です。実は、あの懐中時計は時空を操る能力を使った時に記憶を呼び起こすためのものでもあります。だからこそ、あの懐中時計を手放してしまえば自分が時空を操る能力を使えるということもそれに関する記憶も忘れてしまい、能力は使えなくなってしまいます。いえ、そうであるはずだったのですが…」
女神リースは神妙な面持ちで目を瞑った。
「…大丈夫ですか?」
「えぇ…」
「あの…では、つまり…私は今懐中時計を持っていないから、あなたからいただいた能力のことを忘れていたということですか?」
「その通りです」
しかし、そうなると…シアン・シュドレーはいつ時空を操る能力を覚醒させ、使ったのだろうか?それに、ユーリアスに懐中時計を渡したタイミングも分からない。それに、俺があいつに時計を渡したことを朧気ながらもあいつが覚えているということは、俺も覚えていて当然のはずなのに…なぜだ?謎は生まれていくばかりだ。
「…そろそろ時間のようです。ごめんなさい。私の口からあなたに全てを話すことは出来ません。ただ、あなたが元の世界へ戻りたいか、それともこの世界でシアン・シュドレーとして生きるかいずれかの選択を選ぶとしても、必ずあの懐中時計を取り戻し記憶を呼び起こす必要があります。これだけは絶対に忘れてはなりません…お願い…どうか、彼の分まで…」
「待ってくれ、元の世界って…」
俺の言葉に耳を傾ける様子はなく、女神リースは蝋燭の火がフッと消えるように姿を消してしまった。
そして、目を開け飛び起きると、そこは朝日が差し込む寮の自分の部屋だった。
「シアン?」
隣でイブリンが起き上がって、心配そうに声をかけてくれた。
「…大丈夫だ。少し、夢を見ていた…。起こして悪い」
「ううん、もう起きてたから大丈夫」
「そうか…」
「シアン、おはよ」
ちゅ、と不意にイブリンが俺の頬にキスを落としてきた。
「な…にすんだ、お前」
「ふふ、昨日の上書き足りなかったかなと思って…」
「っ…!離れろ!許可してないことを勝手にするな!!」
俺はこの異常な近さを見て今更になって正気を取り戻した。枕をイブリンの顔に押し付け、距離を取らせる。
「可愛かったなぁ、昨日のシアン」
「反芻するな。もう出てけ!」
「まぁまぁ、そう怒らず。一夜を共にしたんだから、もっとイチャイチャしようよ」
「変な言い方をするな!」
「ふふっごめん。つい楽しくなっちゃって…。お願い、顔見せて」
耳が溶けそうな程優しい声色が聞こえて、俺はイブリンの顔に押し付けていた枕を渋々退かした。
イブリンは俺の顔に手を触れて、まじまじと見てきた。
「眠れた?」
「ん、まぁ…」
「なら良かった。さ、一緒に朝ごはん食べよう」
イブリンはそう言って、ベッドから降りて俺に手を差し伸べた。
夢で見たことは鮮明に覚えていた。これからの不安は、きっとこいつにも勘づかれている。それぐらい彼は、俺のことをよく見ている。けれど、いつだって彼は俺の不安を払い除けようとしてくれるのだ。
今なら、その優しさがよく分かる。そして、なぜそうしてくれるのかも…。
だから、俺は彼が差し伸べてくれたその手を掴もう。
「ありがとな…」
ありふれた言葉だが、自分が今感じている心からの思いを彼に伝えた。
「…ここは?」
周りを見渡しながら発した言葉は淋しく谺した。
「ここはあなたの夢の中です」
背後から声がして後ろを振り向くと、美しい女性がいた。髪も肌も身に纏う服も全てが真っ白で、輝きを放っていた。
「あなたは?」
「私は女神リース。あなたをずっと待っていました」
「なぜ、女神が俺を?」
「…どうしてもあなたに伝えなければいけないことがあり、私はあなたの夢の中へ入りました」
伝えたいこととは何だろうか?いや、それよりも女神って本当に存在したのか、など思うことは色々とあった。
「あなたが今後どのような選択をしていくかは分かりません…。しかし、ユーリアス・クラインが持つあの懐中時計だけはなんとしてでも取り返すのです」
「ま、待ってください。取り返す、と仰いましたか?まさか、あの懐中時計は本当に…」
「えぇ。あなたが推測している通りです。あの懐中時計は、私がシアン・シュドレーに与えた時空を操る能力を覚醒させるためのアイテムで、元はあなたが持っていたものです。いえ…正しくはあなたの本当の身体の持ち主が持っていたもの…。しかし、彼は時計を手放し、今はあの男が持っている…非常に厄介なことです」
「どういうことですか?時計を持っていないと、なにか問題があるのですか?」
「時空を操る能力を使うにあたって、最も重要なことは記憶です。実は、あの懐中時計は時空を操る能力を使った時に記憶を呼び起こすためのものでもあります。だからこそ、あの懐中時計を手放してしまえば自分が時空を操る能力を使えるということもそれに関する記憶も忘れてしまい、能力は使えなくなってしまいます。いえ、そうであるはずだったのですが…」
女神リースは神妙な面持ちで目を瞑った。
「…大丈夫ですか?」
「えぇ…」
「あの…では、つまり…私は今懐中時計を持っていないから、あなたからいただいた能力のことを忘れていたということですか?」
「その通りです」
しかし、そうなると…シアン・シュドレーはいつ時空を操る能力を覚醒させ、使ったのだろうか?それに、ユーリアスに懐中時計を渡したタイミングも分からない。それに、俺があいつに時計を渡したことを朧気ながらもあいつが覚えているということは、俺も覚えていて当然のはずなのに…なぜだ?謎は生まれていくばかりだ。
「…そろそろ時間のようです。ごめんなさい。私の口からあなたに全てを話すことは出来ません。ただ、あなたが元の世界へ戻りたいか、それともこの世界でシアン・シュドレーとして生きるかいずれかの選択を選ぶとしても、必ずあの懐中時計を取り戻し記憶を呼び起こす必要があります。これだけは絶対に忘れてはなりません…お願い…どうか、彼の分まで…」
「待ってくれ、元の世界って…」
俺の言葉に耳を傾ける様子はなく、女神リースは蝋燭の火がフッと消えるように姿を消してしまった。
そして、目を開け飛び起きると、そこは朝日が差し込む寮の自分の部屋だった。
「シアン?」
隣でイブリンが起き上がって、心配そうに声をかけてくれた。
「…大丈夫だ。少し、夢を見ていた…。起こして悪い」
「ううん、もう起きてたから大丈夫」
「そうか…」
「シアン、おはよ」
ちゅ、と不意にイブリンが俺の頬にキスを落としてきた。
「な…にすんだ、お前」
「ふふ、昨日の上書き足りなかったかなと思って…」
「っ…!離れろ!許可してないことを勝手にするな!!」
俺はこの異常な近さを見て今更になって正気を取り戻した。枕をイブリンの顔に押し付け、距離を取らせる。
「可愛かったなぁ、昨日のシアン」
「反芻するな。もう出てけ!」
「まぁまぁ、そう怒らず。一夜を共にしたんだから、もっとイチャイチャしようよ」
「変な言い方をするな!」
「ふふっごめん。つい楽しくなっちゃって…。お願い、顔見せて」
耳が溶けそうな程優しい声色が聞こえて、俺はイブリンの顔に押し付けていた枕を渋々退かした。
イブリンは俺の顔に手を触れて、まじまじと見てきた。
「眠れた?」
「ん、まぁ…」
「なら良かった。さ、一緒に朝ごはん食べよう」
イブリンはそう言って、ベッドから降りて俺に手を差し伸べた。
夢で見たことは鮮明に覚えていた。これからの不安は、きっとこいつにも勘づかれている。それぐらい彼は、俺のことをよく見ている。けれど、いつだって彼は俺の不安を払い除けようとしてくれるのだ。
今なら、その優しさがよく分かる。そして、なぜそうしてくれるのかも…。
だから、俺は彼が差し伸べてくれたその手を掴もう。
「ありがとな…」
ありふれた言葉だが、自分が今感じている心からの思いを彼に伝えた。
305
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる