悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちぁみ

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6章

シアン・シュドレーの罪⑤

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「シアン、外へ出よう」

監禁されてから、恐らく3ヶ月が経った。
俺の処刑の日は一向に決まらない。多分そろそろ卒業だろうと言うのに、ユーリアスは平気な顔で俺を監禁し、朝から信じられない言葉を投げかけてきた。

こいつが初めて俺が外へ出ることを許可した…?ありえないと思いながらも、もはや大きなリアクションをする気力が俺には残っていなかった。

俺は何も言葉を発さなかったが、ユーリアスは穏やかな表情で俺をお姫様抱っこした。

「やはり随分と軽くなったな…」

彼はそう呟いた後、俺の右腕にあった枷を外してそのまま隣の部屋にある魔法陣の上に乗って呪文を唱えた。

すると、見に覚えがある場所へ移動していた。

「ここ、覚えているか?私たちが出会った教会だ」

そう言われて、少しだけ目線を動かした。
けれど、やはり俺は何も発する気分にはなれなかった。

「…ここはもう廃墟になってしまったが、それでも私とそなたの思い出がたくさん詰まっている。だから、もう一度あの頃のことを思い出して欲しくてな…」

「……」

「あの森もまだある。行ってみよう。そなたが魔石のペンダントを埋めたあの場所だ。きっと……」

「…?」

急に不思議な感覚に陥った。
饒舌に喋っていたユーリアスが静かになった。そして、風や空気の感触も、草木が揺れる音も虫や鳥の声も全て唐突に聞こえなくなった。

気味悪さを覚え、周りを見ると、何故か全ての空間が止まっているようだった。

俺はユーリアスの腕からすり抜け、久しぶりに地面に足をつけた。若干覚束無い足を動かして、俺は導かれるようにして廃れた教会の中へ入った。

中には何故か最近使われていたように祭壇が飾られており、不思議に思いながらもそこに足を踏み入れた。

祭壇のテーブルには大量の古い書物が乗っており、その一枚の文書に気になることが書いてあった。それは聞いたことのある文言であった。

"私の能力を生まれ持った者が私に代わって必ずこの国の悪を滅ぼすだろう"

そして、その文書の近くには金色の古い懐中時計が置いてあった。

俺は、何故かそれに触れなければいけないような気がしてならなかった。
まるで催眠に近い誘いに俺は負け、懐中時計に触れた。

すると…急に金色に光り輝き、目を瞑ってしまった。
次に目を開けた時には、信じられない光景が目の前にあった。

自分はいつものようにユーリアスの寝室のベッドに体を置いていて、右腕には重い枷が着いている。そして、目の前には制服を着て学園に行く準備をしているユーリアスがいた。

「ユーリアス…?」

「…?どうした、シアン」

ユーリアスが驚いた顔をして、俺の頬に触れた。

「…俺たち、昔出会ったあの教会にいなかったか?」

「教会…?何を言っているんだ?そんな所に行った覚えはない。疲れているのか?」

「……そうか」

ユーリアスの表情を見るに、嘘はついていない。しかし…確かに俺には覚えがあった。あの土を踏んだ感触、外の空気、そして祭壇の光景…。

「本当に大丈夫なのか?」

「…あぁ。早く行け」

俺はユーリアスの心配をよそに、布団にくるまった。

ユーリアスが黙って部屋を出る音が聞こえ、俺はベッドから起き上がった。

右手には例の懐中時計が握られていた。
俺はこの懐中時計が何なのか、もう既に分かっていた。そして、あの文書に書かれていたことの意味も。

あれは、確かに女神からの神託だ。つまり、自分はシュレイと同じように、女神から特別な能力を受け取ったのだ。この懐中時計はそれを覚醒させ、ついさっき自分はその能力を使った。
そう、ユーリアスが教会に俺を連れていったというあの時間を俺は無意識に切り取った。だから、俺は覚えているのにユーリアスは覚えていない…。
女神がこの時空を操る能力を俺に与えた理由は明白だ。

"私の能力を生まれ持った者が私に代わって必ずこの国の悪を滅ぼすだろう"

この神託の悪とは、シュドレー家や反逆派のことだけを指しているのではない。何故ならそれはもうシュレイによって裁かれているからだ。では、誰のことか。それはユーリアス・クライン、彼のことに違いなかった。
つまり、女神は俺に時間を操る能力を与え、黒幕であるユーリアス・クラインを止めろと言いたいわけだ。何故か分からないが、俺は今使命感のような感じでそれを確実に理解していた。
この特別な力で、本物の悪を滅ぼすのだ。
不思議とそんな脅迫的な使命感に襲われる。

俺は本当に頭がおかしくなりそうだった。
頭を抱えて、しばらく眠った。

そして、少し落ち着いて、目を覚ました。
考え事をしながら、抜けたような笑みをこぼした。

「今度は女神の下僕になれってわけか。ははっ…舐めんな…クソ野郎!」

俺は懐中時計を壁に投げつけた。
全てがもうくだらなかった。
自分は生きることにとことん疲れてしまった。
この力を使って時間を巻き戻して、ユーリアスに復讐をする?全てをやり直す?自分が思った通りの順風満帆を手に入れる?
それが何なんだ。どうだって言うんだ。
阿呆らしい、人生は一度きりだ。
自分のこれまでやってきた悪事を無かったことになんて出来ない。そして、ユーリアス、あいつがやってきたことも無かったことになんてしてやらない。
だから、俺はこんな能力はいらない。
もう誰かに指図されて、自分の人生を歩むのはごめんだった。
女神が言う愛も正義も知ったこっちゃない。この国が悪に染まったってどうだっていい。
俺は自分勝手に俺の人生を終えたい。それだけが最初で最後に出来うる俺の自由だった。








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