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トを追って
序開
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少女は、森の前に立っていた。何故そこに居るのかは、少女も知らない。そして、何故隣に2本足で立ったウサギが居るのかも知らない。
「サリュ!! なにぼっーとしてるんだい!? はやく森の中に入ろうよ!! 」
サリュ? それは私の名前か、と少女は思った。少女は自分の名前さえも知らなかったからだ。状況を飲み込めない少女は、そのウサギをじっと見つめた。すると、ウサギは何かを悟ったように
「まさか、記憶をなくしてしまったのかい? サリュ。まあ仕方ないかあ。すこし働きすぎたよね。でもね! 悪いけどね! 時間がないんだよ。つぎの世界を救いに行かないと! 」
と物忙しそうに言った。つぎの世界とは、そして救いとは、と疑問に思った少女であったが、そんなことを聞く時間もなく
「とにかく、森に入ろう! そしたら、一から説明してあげるよ! 」
と続けてウサギは言った。少女は言われた通りに森へ入った。なぜなら、状況が飲み込めない今、ウサギに従うことが賢明だと思えたからだ。そして、森の中に小道が見えたからだ。少女は、道に沿って歩くことがどれだけ簡単でどれだけ責任を感じなくて良いのか知っていた。
森に入り、小道に沿って歩く。ウサギは、先程言った通りに、一から説明した。甲高く思える声は、少女にとって鬱陶しかった。しかし、少女は聞いた。むしろ、聞くしかなかった。だって耳は他に使っていなかったのだから。
「きみの名前はサリュって言うんだ! 歳はね、知らないけどね、興味はないって言ったらウソになるなあ! うーんとね、たぶん人間で言ったら16歳とか、17歳だと思うけど、いくらサリュでも、女の子に歳を聞くのって失礼だと思うんだよねえ 」
サリュは笑いもしなかった。このウサギが常識を持っているか分からなかったからだ。ウサギは、ひたすら喋る。このウサギには何かボタンがあって、それを押すまで止まらないのではないかとサリュに錯覚させるほどに。
「サリュは選ばれた。まあ、よくある話だけど、サリュは選ばれたから色々な世界を救わなきゃいけない。世界とは言っても、そんなスケールが大きいモノじゃないかもしれない。それはこの森を抜けるまで分からないことさ! 人間は老人の荷物を持ってあげるんだろう? 今回はそんなスケール小さな救いかもしれないね。分からないけど! と に か く!! 全てはこの森を抜ければ分かることさ! サリュ、きみは世界を救えばいい。それがきみの使命さ」
サリュは、いまいちピンと来なかったが、この先の心配はあまりしていなかった。このウサギにずっと従っていればいいと思ったからだ。言われた通りにしてればいいと。ウサギは、そんなサリュの思いに気付くはずもなく喋り続けた。
「あ! 記憶をなくしているってことは、ぼくの名前も忘れちゃったんだね。悲しいなあ。サリュはクールだけど、ぼくの名前を呼んでくれるときだけは、温かさを感じていたのに。ぼくの名前はね、ブランシュ! だからね、ブランって呼んでよ! 」
と言いながら、ウサギはサリュの顔を見上げた。
「呼び方は、自分で決めるわ。」
サリュは、この物語が始まって以来、初めて口を開いた。何故この言葉を口にして、何故ウサギに楯突いたのかは、サリュ自身にも分からなかったが、サリュはようやく口を開いた。
名前などに価値があるのか。名前は与えられる物だ。このサリュという名前は誰がサリュに与えたのか、サリュは知らない。だから、サリュはこの名前に価値があるとは思えなかった。
そんなことを思っていると、サリュはウサギが黙っていることに気が付いた。どうやら一からの説明は終わったらしい。ウサギは真っ直ぐ前を向いて、サリュの横をぴったりと歩いていた。
何時間か歩いただろうか。ふとウサギは、小道に落ちている石を拾っては、茂みに投げ始めた。
「サルか!? サルか!? 」
などと言って石を拾っては投げている。サリュは不思議に思った。茂みからは、何かいる気配もない。ただ、石が落ちる音がするだけだった。幻覚でも見えているのか、こちらまでもが可笑しくなりそうだと思い、不意にサリュはウサギに聞いた。
「私は世界を救うために、この命を使うのか? 」
と。ウサギは石を投げるのを止め、サリュの疑問に答えた。
「さっきも言ったろう。それがサリュの 使命 だって。」
サリュ自身、この質問に意味があるとは思えなかった。ただただ、ウサギに石を投げるのを止めて欲しかった。この闇のような茂みから何かが襲ってくるのではないかと思って。
更に何時間か歩いただろう。突然、光が差しサリュは何も見えなくなった。このとき、サリュはようやく森を抜けたと思った。半日くらい歩いただろうと思った。一方のウサギは、小一時間ほどしか歩いていないと思っていた。
「サリュ!! なにぼっーとしてるんだい!? はやく森の中に入ろうよ!! 」
サリュ? それは私の名前か、と少女は思った。少女は自分の名前さえも知らなかったからだ。状況を飲み込めない少女は、そのウサギをじっと見つめた。すると、ウサギは何かを悟ったように
「まさか、記憶をなくしてしまったのかい? サリュ。まあ仕方ないかあ。すこし働きすぎたよね。でもね! 悪いけどね! 時間がないんだよ。つぎの世界を救いに行かないと! 」
と物忙しそうに言った。つぎの世界とは、そして救いとは、と疑問に思った少女であったが、そんなことを聞く時間もなく
「とにかく、森に入ろう! そしたら、一から説明してあげるよ! 」
と続けてウサギは言った。少女は言われた通りに森へ入った。なぜなら、状況が飲み込めない今、ウサギに従うことが賢明だと思えたからだ。そして、森の中に小道が見えたからだ。少女は、道に沿って歩くことがどれだけ簡単でどれだけ責任を感じなくて良いのか知っていた。
森に入り、小道に沿って歩く。ウサギは、先程言った通りに、一から説明した。甲高く思える声は、少女にとって鬱陶しかった。しかし、少女は聞いた。むしろ、聞くしかなかった。だって耳は他に使っていなかったのだから。
「きみの名前はサリュって言うんだ! 歳はね、知らないけどね、興味はないって言ったらウソになるなあ! うーんとね、たぶん人間で言ったら16歳とか、17歳だと思うけど、いくらサリュでも、女の子に歳を聞くのって失礼だと思うんだよねえ 」
サリュは笑いもしなかった。このウサギが常識を持っているか分からなかったからだ。ウサギは、ひたすら喋る。このウサギには何かボタンがあって、それを押すまで止まらないのではないかとサリュに錯覚させるほどに。
「サリュは選ばれた。まあ、よくある話だけど、サリュは選ばれたから色々な世界を救わなきゃいけない。世界とは言っても、そんなスケールが大きいモノじゃないかもしれない。それはこの森を抜けるまで分からないことさ! 人間は老人の荷物を持ってあげるんだろう? 今回はそんなスケール小さな救いかもしれないね。分からないけど! と に か く!! 全てはこの森を抜ければ分かることさ! サリュ、きみは世界を救えばいい。それがきみの使命さ」
サリュは、いまいちピンと来なかったが、この先の心配はあまりしていなかった。このウサギにずっと従っていればいいと思ったからだ。言われた通りにしてればいいと。ウサギは、そんなサリュの思いに気付くはずもなく喋り続けた。
「あ! 記憶をなくしているってことは、ぼくの名前も忘れちゃったんだね。悲しいなあ。サリュはクールだけど、ぼくの名前を呼んでくれるときだけは、温かさを感じていたのに。ぼくの名前はね、ブランシュ! だからね、ブランって呼んでよ! 」
と言いながら、ウサギはサリュの顔を見上げた。
「呼び方は、自分で決めるわ。」
サリュは、この物語が始まって以来、初めて口を開いた。何故この言葉を口にして、何故ウサギに楯突いたのかは、サリュ自身にも分からなかったが、サリュはようやく口を開いた。
名前などに価値があるのか。名前は与えられる物だ。このサリュという名前は誰がサリュに与えたのか、サリュは知らない。だから、サリュはこの名前に価値があるとは思えなかった。
そんなことを思っていると、サリュはウサギが黙っていることに気が付いた。どうやら一からの説明は終わったらしい。ウサギは真っ直ぐ前を向いて、サリュの横をぴったりと歩いていた。
何時間か歩いただろうか。ふとウサギは、小道に落ちている石を拾っては、茂みに投げ始めた。
「サルか!? サルか!? 」
などと言って石を拾っては投げている。サリュは不思議に思った。茂みからは、何かいる気配もない。ただ、石が落ちる音がするだけだった。幻覚でも見えているのか、こちらまでもが可笑しくなりそうだと思い、不意にサリュはウサギに聞いた。
「私は世界を救うために、この命を使うのか? 」
と。ウサギは石を投げるのを止め、サリュの疑問に答えた。
「さっきも言ったろう。それがサリュの 使命 だって。」
サリュ自身、この質問に意味があるとは思えなかった。ただただ、ウサギに石を投げるのを止めて欲しかった。この闇のような茂みから何かが襲ってくるのではないかと思って。
更に何時間か歩いただろう。突然、光が差しサリュは何も見えなくなった。このとき、サリュはようやく森を抜けたと思った。半日くらい歩いただろうと思った。一方のウサギは、小一時間ほどしか歩いていないと思っていた。
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