獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

??の夢の中

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 三巳は現在身動きが取れません。
 木陰で幹を背にチョコンと座る三巳ですが、そこから横にクルンと出てる尻尾が固定されているのです。

 「むにゃ……」

 丸まったフワフワ尻尾に包まれたリリが、気持ち良さそうに寝ています。
 リリの両手が三巳のフワフワ尻尾を掴んでモフモフさせています。
 三巳がそ~っと尻尾を抜こうとすると「む~っ!」と唸ってギュっと掴まれます。
 仕方なく三巳は尻尾をフワフワポンポンさせてリリを包んでいるのです。

 (まー、辛い記憶思い出させちゃった後だし、ゆっくり寝かせてやろー)

 「ふー」とゆっくり息を吐き出して、今日は一日ここで過ごす覚悟を決めました。
 するとリリに釣られたのか、三巳は「ふわあ~~」と大きな欠伸をしました。
 お日様はポカポカ気持ち良いし、木陰は適度に涼しいし。更に近くで気持ち良さそうに寝られては釣られてしまうのも無理はありません。
 ウトウト舟を漕いだと思ったら、あっと言う間に夢の中に旅立ちました。


 ~??の夢の中~

 「むふん?何処だココー」

 三巳はキョロキョロ辺りを見まわします。
 先程まで凭れていた木は何処にも有りません。
 代わりに周囲は色取り取りの草花や建物が有ります。

 「こりゃー夢の中だなー。
 でもこんなに色取り取りな夢は初めて見るなー」

 手を伸ばすと指先に虹色の蝶々がチョコンと止まりました。

 「うーん、ファンシーだ。
 こりゃ三巳の夢じゃ無いなー」

 楽しいが溢れて尻尾がバフバフ元気良く暴れ出します。
 蝶々を指に乗せたまま、三巳は気の向くままに歩き出します。
 すると前方に小さな影が見えてきました。
 近づくにつれてそれが小さな少女だと判ります。
 少女は仔犬と楽しく追いかけっこして楽しそうにキャラキャラ笑っています。

 「楽しそうだなーリリ。三巳も混ぜてくれ」

 三巳が声を掛けたのは、小さな子供のリリでした。
 小さなリリと仔犬は動きを止めて振り返ります。

 「わあ!獣人のお姉様ですわ!
 初めまして、わたくしはリシェイラ・リズ・リファラですわ!
 お姉様のお名前は……あら?三巳?何故判るのかしら?」

 小さなリリは可愛らしくカーテシーを決めます。
 しかし聞こうと思った三巳の名前が、聞く前から知っていた事にコテンと首を傾げました。

 「まー細かい事は良ーじゃないかー。
 それより一緒に遊ぼう」

 どうやら過去の自分に戻っているリリの目の前に、尻尾をパサンパサンと揺らして誘惑します。
 その見事な毛並みと大きさに目を輝かせるリリです。視線は尻尾を追っています。

 「ネルビーもご一緒しても宜しいかしら」
 「勿論だともー♪」
 「きゅーん♪」

 三巳が元気いっぱいに両手を高く上げると、合わせて仔犬もピョーンと高く跳ねました。
 モフモフ尻尾が2倍になったリリは、大興奮です。

 「では、わたくしの取って置きのお花畑にご招待致しますわ!」

 言うが早いか、リリはネルビーを連れて駆け出しました。
 三巳もその後ろを付いて行きます。
 
 「ほら!もう直ぐそこですわ!」

 視線の先に見えてきたのは様々な形態、様々な色のお花達です。
 お花達は楽しそうにニコニコ笑顔で揺れています。
 けれど見えてきたのはお花達だけでは有りませんでした。
 もう一人、少年が立ってこちらを見ていたのです。

 「んん?あの子はお友達かー?」

 三巳が尋ねる事で初めて少年に気付いたリリは華やいだ顔をしました。
 しかしその顔がどんどんと陰って行きます。
 陰るのと同時に色取り取りな鮮やかな世界は一転。どんよりと色を失っていきます。
 それだけではありません。リリもどんどん今の歳に成長していきます。

 「い、嫌……止めて……」

 リリが震えて呟くと、世界は赤く染まり、彼方此方で火の手が上がります。

 「止めて――――!!!!!」

 到頭リリは絶叫し恐慌状態に陥ってしまいました。

 「リリ!」

 このままでは不味いと思った三巳は全身。それこそ大きな尻尾も活用してリリをすっぽり包みます。

 (これはリリの心の闇で、魘される原因か!)

 三巳は一生懸命に震えて言葉にならない悲鳴をあげるリリをあやします。

 「リリ、リリ落ち着けっ。大丈夫だ。三巳が側に居るぞっ。ほら、三巳を見て」

 ゆっくりと優しく撫でながらリリの目に視線を合わせます。
 ゆっくりと、優しく声を掛け続けると、少しづつリリの視線が定まって来ました。

 「三……巳」

 視線が三巳を捉えて弱く呟くと、コテンと意識を手放してリリは消えて行きました。
 と同時に世界は何時もの三巳の夢に戻りました。

 「起きたか……」

 三巳は瞠目すると軽く尻尾を振って意識を浮上させます。


 三巳が目を覚ました時、リリはキョトンとした面持ちで三巳を見ていました。

 「リリおはよう」
 「おはよう。三巳も寝てたのね」

 リリは夢の出来事を反芻しつつ、三巳を一頻り見つめます。
 それから三巳の尻尾を見て、サワサワと撫で梳かし始めました。
 何処かボーとした面持ちで撫で続けるリリに、三巳は好きな様にさせてあげました。

 (いつもの悪夢だったのに……きっと三巳が一緒に寝てくれたから悪い物が消えてくれたのね)

 リリはジンワリとする胸を心地よく感じながら、心が落ち着くまで三巳の尻尾を撫で続けました。
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