獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
54 / 372
本編

山の巡回②

しおりを挟む
 急流に住むリヴァイアサンの亜種、チロチロと別れた三巳は軽快な足取りで山頂付近にある地獄谷に向かって歩いています。
 
 「んー。とは言え急ぎの案件ぽくは無かったし、巡回しながら向かうとしよう」

 そう言うと三巳はクルンと一回転して方向を微修正しました。
 着いた先は洞窟です。中からヒンヤリとした空気が流れてきます。

 「ここも久し振りだな。三巳の寝床まだあるかな?」

 洞窟の中は広く、まだ今より小さかった頃の三巳なら獣姿でも十分に入れます。

 「流石に今は獣姿じゃ入れそうにないなー」

 神としてはまだまだ子供の部類でも、獣姿は随分大きくなった三巳です。今はもう入り口で引っ掛かること請け合いです。
 三巳は人型のまま洞窟の中へ入っていきました。

 「村が出来てから暫くは使えてたんだけどなー」

 成長してないようで、少しは大きくなったことを感じられて少し誇らしくなる気分です。
 洞窟の入り口は開けていて、床は平らになっています。その床には藁の残骸が散らばっていて、暫く誰も使っていないことが見てとれます。
 三巳はその様子を懐かしさに胸を温めながらさらに奥へと足を踏み入れました。

 「お?よかったよかった。通路塞がってないや」

 洞窟の奥には熊が楽に通れる程度の広さの通路が奥に伸びています。

 「やっほーい」

 ほーいほーい……言葉が反響して聞こえる中を三巳は耳を澄ませて聞いています。

 『なんでい。餌が自ら来たかと思えば獣神かい』

 ぐるると喉を鳴らして反響と一緒に牙と爪の鋭い熊がのっそりとやってきました。

 「およ?ぐっさんじゃない?」

 お腹をボリボリ掻く熊型モンスターのグリズリーに、知った顔じゃないことに首を傾げる三巳です。

 『ぐっさん?爺さんのことか。爺さんなら輪廻の輪に入ったぜ』
 「なんと!それはお悔やみ申し上げる。次はどんな形で逢えるか楽しみにしてる」
 『ぐっぐっぐ!そういうや爺さんにそんな伝言頼まれてたな』

 三巳の言葉にお腹を抱えて笑うぐっさんの孫に、三巳もにっと笑って「そうか」と答えました。

 「それじゃあ、ぐっさん……孫だと三代目?ぐっさん三世?」
 『……別のにするって選択肢はねえのかい……』
 「む?むー、じゃあグリリン?」
 『それは何でか知らねえがいろんな方面から非難が出そうだから却下だ』

 ぐっさんの孫に真顔で全力否定をされて、三巳は目をパチクリさせてキョトンとしました。

 「いろんな方面?」
 『だから何でかは知らねえっての』

 お互い良くはわからずともそれじゃあそれは避けとこうと頷きあいました。

 「んじゃーくまも」
 『却下』

 食い気味で却下されました。

 「……仕方ないなーもー。じゃあグっちん。これ以上却下無し。
 三巳もこれ以上は頭湯気出るぞ」
 『わかった』

 こうして新たな洞窟の通路の住人。ぐっさん三世こと、グっちんとの邂逅を終わらせました。

 「で。他に何か起きてないか?」
 『爺さんが言ってた巡回か。こっちは特に無いが、モクモク谷が騒がしい』
 「やっぱりそこなのか。チロチロも言ってたんだけど。何があったんだ?」
 『さあな。俺は縄張りから出ないから詳しくは知らん』
 「?でもこの通路って地獄谷に繋がってるんだろ?」
 『あそこは暑いから近寄らない』
 「ぐっさんは良く湯治に行ってたのに」
 『ありゃ歳だからだ。俺はまだ若い』

 人間は老いも若きも温泉三昧です。全員ではないですが。
 グっちんの風呂無精を聞いた三巳は、心持ち距離を取りました。

 「そうかー。ま、行ってみればわかるさー。
 じゃあ、またなー。体は大切になー」

 そう言うと三巳はグっちんを遠回りで避けながら奥へと行くと、たー!っと駆けて行ってしまいました。
 

 『?んん?……あ。
 おーい!言っとくが水浴びはしてるからなー!』

 三己が消えた方を不思議そうに見ていたグっちんは、三巳の行動の意味を理解して大声で弁明しました。

 もう随分奥まで進んでいた三巳です。

 「そっかー。猫肌なだけかー」

 ちゃんと聞こえていた三巳は、ほっとして歩を緩めます。

 「それにしても何だろな?騒がしいって」

 三巳は何があっても良い様に、全身を研ぎ澄ませて鍾乳石の生える洞窟を進みます。
 洞窟の通路は光苔や鍾乳石までも鈍く光を発していて、足取りに不安が起きない位には明るいです。
 三巳は獣時代には見れなかった発見を人型になって出来て興奮しています。

 「凄いな。あの頃は流石にここまで入れなかったからなー。物理的に。
 鍾乳石も光るのは今更ながら流石異世界だなー」

 地質学的な趣味はありませんが、観光は前世から大好きです。大切なストレス解消です。ここではストレスのスの字も起きませんが。
 そんな訳でキラキラと目を輝かせながら久し振りの観光気分を味わいながら出口に向かって進みます。
 途中で分かれ道もありましたが研ぎ澄ませた三巳の感覚の前では間違う事はありません。さくさく奥へと進みます。

 「今度リリも連れて探検しよう。そうしよう」

 プチ観光計画を立てつつも、三巳は確実に出口に近づいていました。
 地熱の影響か、マグマが近いのか。少しづつ確実に暑くなっています。

 「うーん。真夏のコンクリートジャングルとどっちが暑いだろうか」

 確実に大汗確実な温度で、でも三巳はケロリと汗一つ掻かずサクサク先へと進みます。
 因みに出口の光が見え始めた現在、明らかに真夏の大都市と比べられない位暑くなっています。

 「ま、今は魔法使い放題だからなー」

 CO2にも優しいので使いまくっています。環境に優しい仕様です。
 出口が近づくにつれて、三巳の顔は険しくなってきました。

 「んーでかい気配がするなー。チロチロとグっちんが言ってたのかな?
 っと言ってる間に出口だけど……おおお?」

 明るい日差しを目の上に手を当てて遮りつつ、外へと一歩を踏み出した三巳ですが、その光景を見て歩みを止めてしまいました。
 
 「サラ、マンダー……?」

 眼下に広がる地獄谷、そこに悠然と佇む真っ赤な鱗を持つドラゴンが三巳を見下ろしていました。
 三巳の驚きの呟きは、本来無いものが有った時の驚きでした。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

うるせえ私は聖職者だ!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
ふとしたときに自分が聖女に断罪される悪役であると気がついた主人公は、、、

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

処理中です...