獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

ロダの成長①

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 蝉が大合唱をしている夏の日に、村の池では日課となった光景が見られました。
 ミナミがロダに魔法を教わっているのです。

 「うん、そう、その調子。
 やっぱりミナミは凄いなぁ、もう池の水を蒸留濾過出来る様になって」
 「ありがと。武術は全然ロダに敵わないけど、魔法は得意だから負けないわよ」

 快活と笑い合う二人は近くで見れば気心の知れた友人同士です。けれど遠目に見るとまるで恋人同士に見えなくもありません。
 二人の恋のお相手を理解している大人達は何とも思いませんが、ロダを呼びに来たロハスにはそうはいかなかったようです。

 「ロダ兄ちゃんのバカーーー!!」

 遠目にイチャイチャしている様に見えたロハスが、両手を前に突き出して猛突進してきました。

 「え?」
 「は?」

 そのあまりの勢いに、呆気に取られたロダとミナミは振り返った姿勢で固まります。

 どーーーん!

 ロハスの突進は勢いそのままに、ロダに激突すると一緒に池に落ちそうになりました。ロダが足を踏ん張ったので、落ちませんでしたが。

 「あぶっ、あぶなっ」

 涙目でポカポカ殴ってくるロハスを支えながら、ロダはバクバクと音を鳴らす心臓を宥めました。

 「いや~、惜しいね。もうちょっとでコントみたいで面白かったのに」

 子供だって池に落ちた位でどうこうなる山の民ではありません。
 ミナミは快活に笑って指を鳴らし、悔しがる振りをしました。 

 「ミナミ~っ、僕だけなら兎も角、ロハスもいるんだよ!?」
 「あら、その時は私が責任持ってロハスを守るから安心して?」
 「うわーーーん!ロダ兄ちゃんのうわきものー!」

 ロハスの頭上で軽口を言い合うロダとミナミに、ロダは到頭怒ってしまいました。拳を握りしめてドンドンポカポカ叩いています。

 「は?浮気者??へ?何で?」

 対するロダは意味がわかりません。暴れるロハスを宥めながら混乱しています。
 ミナミはそんな二人のやり取りを理解して「ぷーっ」っと吹き出してしまいました。

 「あはははっ!そっかー、ロハス私とロダの仲を勘違いしちゃったんだね!」
 「ええ!?ちょっ!違うよ!?僕が好きなのはリリだけだよ!」

 やっとロハスが何に怒っているのか理解したロダは、慌てて否定をします。

 「ぐすっ、だって、ミナミ姉ちゃんとイチャイチャしてた」
 「してないしてない!ミナミに水分確保の魔法を教えてただけだよっ」

 ミナミとロダを交互に見やったロハスは、グズグズと鼻をすすりながら自分が見た光景を伝えます。
 ロダは泡を食って否定の言葉を繰り返し、一生懸命に真実を伝えようと必死です。
 ロハスはキョトンとして、もう一度ミナミとロダを交互に見ました。そして池の水を見てから指をさしてロダを仰ぎ見ます。

 「ロダ兄ちゃんがいつも練習してるやつ?
 ロダ兄ちゃんも出来ないから練習してるんだろ?教えれるの?」
 「あら、ロダはもう飲料水作りの魔法は出来るわよ。以前一緒に仕事した時やってたもの」
 「??出来るのに練習するのか?何でだ?」

 尤もな疑問を呈するロハスに、ミナミが呆気らかんと教えます。けれどそれが更に疑問となってロハスは訳がわかりません。

 「色々と改良しようと思って練習してたんだよ」

 ロダは意気消沈と肩を落として言いました。

 「へー!よくわかんないけどロダ兄ちゃんすげー!」
 「うん、誤解が解けたなら良かった。
 それでロハスは何か用があったのか?」

 場の空気が落ち着いた所で、ロダは一つ息を吐き出しロハスに聞きました。
 ロハスはハッと思い出してロダの手を取って引っ張ります。

 「そーだった!ロダ兄ちゃんヘタレだと三巳姉ちゃんにリリ姉ちゃん貰えないんだぞ!リリ姉ちゃんに混ぜてって言わなきゃなんだ!」

 大振りに手足をバタつかせて捲し立てるロハスに、ロダは意味がわからず首を傾げてしまいます。

 「落ち着いてロハス。落ち着いて何があったか説明してくれ」

 ロダは腰を落としてロハスに目線を合わせて問い掛けます。
 ロハスはロダの目を見る事で、少し落ち着けた様です。バタつく事を止めて、両手に力を込めて握りしめました。大きく深呼吸を二回して、改めてロダを見ます。

 「三巳姉ちゃんが言ってたんだ。
 ロダ兄ちゃんがヘタレてたらリリの姉ちゃん任せらんないって。それで今度の休みに三巳姉ちゃんとリリ姉ちゃんが二人で山にお出かけするんだって。それでロダ兄ちゃんが自分から混ざりに来れないのはヘタレなんだって」

 ロハスがフンスと鼻息荒く訴えかけます。
 最後まで事情を聞いたロダは、うぐっと息を詰まらせました。そして瞑目するとグルグルと葛藤を始めます。

 (確かにリリの為に強くなるって決めたのに!
 僕は未だに自分から言えてないっ。言わなきゃ!言わなきゃっ。言う……。
 うわあああっ!)

 頭の中で何度も何パターンもシュミレートをしていたロダは、真っ赤に茹って湯気を出しながらパニックを起こしてしまいました。

 「落ち着きなさいよ」

 そこに空かさずミナミの合いの手がスパーン!と小気味良い音を奏でます。
 正気に戻ったロダは背中を摩りながらお礼を言いました。

 「全く。格好なんて付けなくて良いのよ。
 ただ、一緒に行きたいって言えば良いの。ありのままを受け入れて貰えなきゃ意味なんてないでしょうに」
 「うん……ごめん、ありがと」
 「わかったらサッサと行って来なさいよ。
 私はここで自主練してるからさ」
 「うんっ、ありがとう!」

 ロダはミナミにお礼を言うと、気合を入れて走り去って行きました。
 それを見送るミナミとロハスでしたが、ロハスは三巳と遊ぶ予定を思い出して慌てて後を追い掛けました。

 「待ってー!オレも戻るからー!」
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