獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

貴族令嬢を助けよう②

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 「成る程。大人に近付く為の社会勉強か。凄い事をする村だね。流石あのローガの村だな」

 門番の隊長が然もありなんと頷いています。
 三巳の事情を聞いて、ロウ村長と知り合いな門番の隊長が、疑う事なく理解を示してくれたのです。

 「しかもこの街に寄った理由が休息ではなく、あの貴族のご令嬢を救う為とか」

 門番の隊長は純粋な目で訴えるリリに、感動と関心でウルリと目を潤ませます。

 「とは言えあの方の症状は酷くてね。迷いの森深くに自生するホロホロでなければ治せないと言われているんだよ」
 「そのホロホロを正しく調薬出来る方はいらっしゃいますか?」
 「いや……。そもそもが先ずお目に掛かれない代物だからね。件の貴族様もわかっていても縋りたいのさ」
 「私はホロホロの調薬をした事があります。でもそれも症状に合わせて調薬方法が変わるんです。だから一度診させて欲しいんです」

 リリの訴えに門番の隊長は目を見張りました。
 それはそうでしょう。およそ知識も経験も浅そうな少女です。そんな子がホロホロを扱える。それだけでその希少性は計り知れません。

 「そうかい……。気持ちはわかったよ。
 でもねお嬢ちゃん。その事は余り吹聴しない方が良い。街には良くない事を考える悪~い大人がいるからね」

 門番の隊長は神妙な顔で手を組み言いました。
 余りに真剣に言うものだからリリだけじゃなく、三巳まで毛を逆立ててびびります。
 真剣な顔でブンブン頷くふたりに門番の隊長はニッコリ微笑みました。

 「それで良い。
 さて、話はわかった。街には滞在目的では無いみたいだし、直接貴族様に確認の連絡を取ってみよう。
 かの方も藁にも縋りたがっているから恐らく何とかなるだろう」

 そう言って門番の隊長は席を離れました。
 リリは何とか診させて貰えそうでホッと安心しました。

 「それにしても、僕達フード外さなかったけど、失礼じゃなかったのかな?」
 「それは大丈夫よ。お国柄で顔すら見せられない人達もいるから、門番さんは大抵慣れているみたい」

 リリの言葉に三巳は地球の某国の宗教を思い出しました。つまりはそう言う事なのでしょう。
 暫くして門番の隊長が戻ってきました。

 「話は通ったよ。迎えの者が来るからここで待っていて貰えるかい?
 それと君達は通常の通行許可じゃないから街中は自由に出歩けないのと、仮保護者として私も付いて行くからね」
 「おおっ、それはとっても心強いんだよ。
 三巳達こんな大きな街は初めてだから不安だったんだよ」

 門番の隊長がとても気持ちの良い人で、外の人族に不安意識があった三巳もすっかり懐きました。
 門番の隊長も三巳のコートの裾がユサユサとはためいているのを見て、上機嫌でうむと頷きました。
 そんなこんなで待つ事暫し、カラカラと石畳を通る車輪の音が聞こえてきました。

 「ん、ご到着された様だな」

 窓枠に手を掛け覗いた門番の隊長が、音の元を確認すると三巳達を連れて外に出ました。
 外へ出てみると広い通りから一台の馬車が丁度到着したところでした。
 門番の隊長が馬車の扉横から中の人と何やら話しています。そして心底驚愕し、恐縮し、困った様に三巳達を見ました。

 「?どうしたんだろう」
 「さあ?」

 話の聞こえないロダとリリが不安気に首を傾げます。

 「あー」

 バッチリ聞こえていた三巳は門番の隊長の心労を慮って遠い目をしました。
 勿論ネルビーも聞こえていましたが人族の上下関係など知った事では無いので、興味なくリリの横にピッタリ寄り添っています。

 「すまん」

 話を終えた門番の隊長が疲れた目で三巳達に謝罪しました。
 背後に馬車から降りて来た身なりの良い御仁が立っています。

 「いや、門番のおじさんも大変だな」

 前世で社会人を経験していた三巳は、わかり過ぎる思いに同情しました。

 「やあ、君達がそうだね。
 私はウィンブルドン。一応この一帯の領地を任されている者だよ」

 身なりの良い御仁がステッキ片手に口髭を撫でながら声を掛けて来ました。
 三巳とリリはその自己紹介にビッと背筋を正しました。

 「??どうしたの?」

 一人理解が出来ないロダが二人を見て首を傾げます。

 「お初にお目に掛かります。ウィンブルドン伯爵様。
 私はリリと申します」

 リリが今まで見せたことのない令嬢然とした表情で挨拶を返しました。両手はコートの裾を摘み、綺麗なカーテシーをしています。

 「三巳は三巳というんだよ」

 その横で四十五度角に腰を曲げて三巳も挨拶を返します。名刺があったら「こういう者です」と差し出す勢いです。

 「え?え?
 あ、あのっ、ロダです。宜しくお願いしますっ」

 更にロダが状況がわからないまでも二人に倣ってお辞儀をしました。
 一瞬カーテシーを真似ようとしましたが出来そうに無いのでやめました。お陰で恥を掻かずに済んだ事は誰にもわかりません。

 『おれはネルビーだ。リリの守護獣なんだぞ。エッヘン』

 そしてネルビーが一番偉そうに胸を張って自己紹介です。
 とはいえ三巳とリリ以外にはワンコが「わんわん」主張してるだけにしか見えません。

 「これは……。丁寧なご挨拶を有難う」

 ウィンブルドン伯爵は軽く目を見張り、直ぐにニッコリ笑い皺を深めました。
 そして三巳とリリを馬車にエスコートしてくれます。
 その後ろからロダとネルビーが付いて行き、最後に門番の隊長が馬を連れてやってきました。

 「門番さんは乗らないの?」

 ロダは馬車に乗り込む手前で門番の隊長が馬に跨るのを見て、ネルビーを先に入らせて聞きました。

 「とんでもない。しがない一介の門番が伯爵様と同席出来るもんかい」

 門番の隊長は表情の抜け落ちた顔で全力否定します。そして馬車の中から面白気に笑みを浮かべるウィンブルドン伯爵が目に入り、まな板の上の魚な気分になるのでした。
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