獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
122 / 372
本編

貴族令嬢を助けよう③

しおりを挟む
 ウィンブルドン伯爵に連れられて、やって来たのは街一番の大きなお屋敷でした。
 ロダは初めて見る三階建ての大きなお屋敷に、目をいっぱいに見開いて興奮しています。

 「さあ、来たばかりで申し訳ないのだがね。早速娘を診て欲しい」

 馬車を降りると直ぐにウィンブルドン伯爵の娘の部屋に通されました。
 部屋は中にも外にも厳重な警戒態勢で保護されています。
 そして大きな天蓋付きのベットには、リリと同年代位の女の子が青い顔でうなされていました。

 「っ!直ぐ診ます!」

 その余りにも苦しそうな姿に、リリの方が泣きそうな顔で駆け寄ります。そしてロキ医師の教わった通りに順を追って丁寧に診ていきます。
 その様子をウィンブルドン伯爵はハラハラしながら祈る様に見守っていました。

 「大丈夫だぞ。三巳の見た感じ、今のリリなら対処出来そうだ」

 子を持つ親の気持ちもわかる三巳がそっと寄り添い肩……は届かないのでポンと手を叩きました。
 その三巳の確信を持った声に、ウィンブルドン伯爵は励まされ、小さく頷きます。揺れる目をそっと閉じ、開いた時には希望を胸に見守りました。

 「……うん。これなら……。
 あの、ウィンブルドン伯爵様。今から薬を処方しようと思います。出来れば作業台をご用意頂きたいのですが」

 リリのお願いは直ぐに叶いました。
 使用人が数人やって来て、広くて大きな机を置いて行ってくれました。
 早速そこに持ってきた薬草達や、調薬用の道具を並べます。道具は旅仕様にコンパクトで、ロキ医師がリリの為にプレゼントしたものでした。
 リリは道具を人撫でし、心の中でロキ医師に感謝の気持ちを捧げました。

 「よしっ」

 気合も新たに調薬開始です。

 ゴリゴリ。パラパラ。ゴリゴリ。トロトロ。ネリネリ。

 丁寧な手順で薬剤が合わさっていきます。その中には勿論ホロホロも含まれています。
 ウィンブルドン伯爵はホロホロを目にし、フード越しにリリの顔を、そしてピンと立った耳がフードを押し上げていた三巳を見ました。その意志の強い目は、どちらも絶対に助かると物語っています。
 ウィンブルドン伯爵は静かにそっと、安堵の涙を流すのでした。



 ウィンブルドン伯爵の娘が落ち着いた寝息を立てています。
 リリの処方した薬を飲んで容態が落ち着いたのです。

 「すまない……。有難う。本当に、何と感謝をすれば良いのか……」

 顔色も幾分良くなった愛娘を見て、ウィンブルドン伯爵は嗚咽を噛み殺して静かに涙を流しています。

 「いいえ、当然の事をしただけです。困った時はお互い様です」

 そう言ってリリは慈愛の微笑みを浮かべます。

 「いいや、当然では無い。当然では有りません。
 私共は貴女がお辛い時に手を差し伸べる事が出来ませんでした」

 ウィンブルドン伯爵は胸に手を当てリリに対して膝を付きました。
 これにはリリはビックリです。
 背後で「良かった良かった」と見守っていた三巳もロダもビックリです。

 「貴方は……」

 リリは悲しみにくれた顔で半歩下がりました。
 その顔にロダはいち早く駆け付けリリの前に守る様に立ちます。
 三巳とネルビーも警戒は見せましたが、ウィンブルドン伯爵から嫌な感じがしなかったので注意深く見詰めるだけに留めています。

 「私は貴国のパーティーに参加した事があるのです」

 ウィンブルドン伯爵のその言葉だけで、リリが理解するには充分でした。
 リリは目を潤ませて、それでも毅然と前を向いて微笑んでみせます。

 「いいえ。いいえ、ウィンブルドン伯爵様。
 あの事はこの国に直接的に関係する事では御座いません。今、その様に心を向けて下さるだけで充分です。
 ですから、その様にお辛そうな顔をなさらないで下さい」

 リリは近寄りウィンブルドン伯爵の手を取りました。そして立つ様に促します。

 「その想いは、今はお嬢様へ向けてあげてください」

 ギュっと握り締める小さな手の暖かさ。ウィンブルドン伯爵はその暖かさに両目を見開き、

 「……はい。有難う御座います」

 と震える目蓋で瞑目しました。
 何だか良い話しで終わりそうな空気に、三巳もロダも訳もわからず警戒を解きます。

 「ええっと?結局大丈夫なの?」

 後ろを振り向き小声で尋ねるロダに、リリはクスリと気の抜けた笑みを返します。

 「うん。この方は私のお父様の知り合いみたい」

 リリが穏やかに嬉し気に頷きます。
 それならばと、三巳はウィンブルドン伯爵に近寄り見上げました。尻尾をパタパタ振ってコートの裾がはためいています。

 「そうか、それじゃあリリの国が今どうなってるか詳しいのか?」
 「もしかして、旅の目的はそれですか?」

 三巳の問い掛けに、ウィンブルドン伯爵は意味あり気にリリを見ました。

 「……ええ」

 リリは震える手を握り締め、悼みを堪えて目を伏せて肯定します。
 その様子にウィンブルドン伯爵の方が痛みを堪える様に、眉尻を下げて眉間に皺を寄せました。

 「わかりました。私の知る限りの事をお話し致します」

 恭しく礼を取ったウィンブルドン伯爵は、三巳達を応接間へ案内するのでした。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

みんなが嬉しい婚約破棄

あんど もあ
ファンタジー
王子の婚約破棄宣言を皆が待っていた!、というコメディ。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

幸福なる侯爵夫人のお話

重田いの
ファンタジー
とある侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢。 初夜の場で、夫は「きみを愛することはない」というけれど。 最終的にすべてを手にした侯爵夫人のお話。 あるいは、負い目のある伯爵令嬢をお飾りの妻にして愛人とイチャイチャ過ごそうと思ったらとんでもないハズレくじを引いちゃった侯爵のお話。

処理中です...