獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

待ち人来たる

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 草木が生い茂り、天空より降り注ぐ陽の光が木の葉に当たってキラキラと緑の光を大地に注いでいます。
 その間を草木の生えていない踏み固められた道が奥へ奥へと伸びています。

 「こんだけ草も生えてないってことは人通りが多いか、こまめに整備してるってことかな」

 三巳が平坦な道をぽーんぽんと跳ねて踊りながら言いました。

 「森に入ったばかりの所はもう少し草が生えてたよね」

 ロダが道の真ん中を見ながら言いました。森の入り口近くは道の真ん中に列をなす様に草が生えていたからです。

 「少し前にあった休息小屋から無かったからきっとリファラの民だな」

 三巳は両手を目の上にやり、来た道の遠く奥の方にある小屋を見やりました。
 途中で寄った小屋は手入れが行き届いており、道行く旅人が休み易い様に工夫がなされていました。三巳達もそこで気持ち良く小休止を取ることが出来ました。

 「ええ、あの小屋は私の遊び場でもあったの。
 あの時に無くなっていたと思っていたけど、まだ残っていて嬉しい」

 小さなリリが遊びに来れた場所という事も有り、それはもう直ぐリファラに着くという示唆でも有りました。

 「ああいうの有ると良いね。山にも作れないかな?」

 ロダが山のいくつかの場所をピックアップしながら三巳に相談します。

 「それ面白いな!山小屋もワクワクするんだよ」

 三巳は尻尾をブルンと振って大ジャンプで興奮しました。

 「素敵!私も参加出来るかしら」

 リリも両手をポンと打ち鳴らして大賛成です。
 そのリリの反応に三巳とロダは顔を見合わせてニッコリです。だってリリはリファラに帰ったら山に帰らなくなるんじゃないかと不安だったのです。

 「「勿論!」」

 三巳はリリの腕に絡みついて満面の笑みを、ロダは反対の手をギュッと握って満面の笑みを咲かせます。

 『おれも!おれも!』

 そこにすかさずネルビーがリリのお腹にドーン!とのし掛かって参戦してきました。ネルビーも満面の笑顔です。

 「おー♪ネルビーも一緒だぞっ」
 「ふふふ。楽しみっ」

 笑い声高らかに楽しい足取りで、真っ直ぐリファラに向かって進んで行きます。
 すると前方から何者がやって来ました。
 三巳達はお喋りをやめて前方を注意深く見やります。

 『ふんふんふん』

 ネルビーが前に躍り出て風に乗ってやってきた匂いを嗅ぎました。

 『あ!』

 そしてその匂いが何か分かると、そのままター!っと何者かに向かって猛烈ダッシュを決め込みました。
 そのあまりの勢いに、三巳もロダもポカーンと口を開けています。そして苦笑いでリリを見ると、なんとリリは大粒の涙を溢していました。

 「ど!?どうしたリリ!」
 「大丈夫!?」

 粟を食ってワタワタとリリの心配をしだす三巳とロダを尻目に、リリは顔をくしゃりと歪ませるとネルビーの後を追って駆け出してしまいました。
 三巳とロダはどうしたものかと顔を見合わせて困惑します。

 「取り敢えず三巳達も追いかけるんだよ」
 「うん。そうだね」

 訳がわからずともリリを一人行かせる訳にはいきません。三巳とロダもリリの後を追いました。

 「ハンナ!」

 そして追い付く頃にはリリは何者かに向かい、両手を広げてダイブする所でした。

 「姫様!」

 何者かはリリを受け止めようと両手を広げて迎えます。そしてリリがその胸に飛び込むと力強くギューっと抱きしめました。

 『ハンナ!ハンナ!無事だった!』

 その周りをネルビーが遠吠えしながらグルグル駆け回っています。

 「ハンナっ!ハンナ怪我は無い!?ああ……!ハンナ生きててくれた!嬉しい……!」
 「姫様こそ何処も悪くしておりませんか?」

 ハンナと呼ばれた何者かは、胸に顔を埋めて泣きじゃくるリリの頭を優しく慈しみを込めて撫でました。

 「私は大丈夫よ」
 「わたくしも大丈夫でございます。ネルビーも健勝そうですね。寧ろ前より元気かしら?」
 『おれ!おれ!リリの守護獣なったんだ!』
 「まあ!それは喜ばしい事!」
 「ネルビーの言葉がわかるの!?」
 『おれの言葉わかるのか!?』
 「ええ、ええ。わかりますとも。ネルビーならやるとわたくしは信じておりましたよ」
 『おれ頑張った!』

 なんだかとっても感動の再会を果たした様子のリリです。ネルビーも甘えるように鼻を押しつけているのでとっても親しい間柄であると予測されます。
 三巳は邪魔をしないように付かず離れずの距離で耳をそよがせました。

 「うぅ。僕だけネルビーの言葉がわからない」

 三巳の隣でロダが悔しそうに嘆きました。

 「いっぱい一緒にいればわかるようになるさ。……多分」

 慰める三巳ですが、最後に遠くそっぽを向いて呟きたした言葉は、しっかりロダの耳に聞こえているのでした。
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