獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

リファラへ出発

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 ウィンブルドン領へ来てから早半月が経ちました。
 伯爵令嬢もリリの処方ですっかり元気を取り戻し、後は街医者だけで対応出来る様になりました。
 リファラとの連絡も付き、迎えに来るというのを行った方が早いと断るのに少々骨が折れましたが、やっとリファラに向けて出発です。

 「行ってしまうんだな」

 街の門の前でダーナーとウィンブルドン伯爵が寂しそうな顔をしています。

 「お嬢ももう元気だしな。リリも三巳もなるたけ早くリファラ行きたいんだよ」

 三巳も耳がしょげてて寂しそうです。

 「そうだな。リファラの民も心待ちにしているだろう。
 長く引き留めては私がリファラの民に恨まれそうだ」
 「ふふ。リファラの民なら大丈夫です。みんな優しいから」

 ウィンブルドン伯爵が「そうだね」と優しい笑みを浮かべました。

 「さて、そいじゃそろそろ行くな」
 「お嬢様にも宜しくお伝えください」
 「おじさん達ありがとう」
 『ご飯美味しかったぞ』

 三人と一匹は元気良く手を振ってウィンブルドンの街とお別れです。
 小さな三つの背中がさらに小さくなっていく様子を、ダーナーとウィンブルドン伯爵は見送ります。

 「あの元気な三人組が居なくなると静かになってしまいますね」
 「そうだな。せめて護衛でも付けてやりたかったんだが」
 「仕方ありませんよ。断られてしまいましたし、何より彼女達の旅の目的にそぐわなくなってしまいます」
 「だなぁ」

 語らう大人の心配を他所に、三巳達は前に向かって進み続けます。

 「街、楽しかったね」
 「本当にそうね。こんなに穏やかな気持ちで街に滞在出来たのなんて何年振りだったかしら」
 「……いっぱい、いっぱい大変だったね……」
 「うん……。でもみんなに出会えたから、今幸せなの」

 何も無い外道を進みながら会話は進みます。

 「そうだな。そんでリリはもっと幸せになんなきゃな」
 「ふふ。これ以上の幸せってあるのかしら」
 「あるさ。手始めにリファラのみんなに会えるだろ」
 「うん。うん、そうね。とっても楽しみ」

 時折旅商人らしき馬車が通り、乗っていくかと誘われますが断りつつ歩み続けます。

 「馬車旅も面白そうだけどなー」
 「三巳のが速いもんね」
 『おれも馬より速く走れるぞ』
 「人目が無くなったらまた獣神姿になるの?」
 「おー。場所もわかったし、早くリリをリファラに連れてったげたいんだよ」
 「三巳!」

 感激して抱きつくリリに、三巳は尻尾を大きく振ります。
 街の外壁もとっくに見えなくなり、人気も無くなった頃合いに、三巳は早速獣神姿に戻りました。

 「はわ~可愛い~っ」

 そしてまたしても巨大モフにメロメロになったリリを、ロダがお姫様抱っこで三巳の背中に連れて行きます。
 みんな乗ったらさあ出発です。
 寄り道散歩もしたい気持ちを、リリの為に一直線でリファラに向かいます。
 ビュンビュかビュンと風を切って疾り抜けます。
 ウィンブルトン伯爵から場所は教えて貰えたので迷わず真っ直ぐ進んでいきます。

 『疲れたら言ってなー休憩しゅるからー』
 「三巳こそ大丈夫?疲れてない?」
 『大丈夫だじょ。三巳は一日中はちってられるんだよ』
 「三巳って本当にいつも元気だよね」
 『楽ちいは無限に力湧くんだよ』
 「「それはわかる」」

 キャラキャラ笑い声を上げて猛スピードで駆け抜ける巨大モフは、進路に人を発見する度にピョーイと高く飛び越えていきます。
 そしてその度にジェットコースター気分になって、リリもロダもネルビーも「キャー♪」と楽しい悲鳴を上げています。

 『んあ、森だ。
 おーい、森に入るから歩くんだよ』

 大地は広大です。何も無いエリアも有れば勿論の事、森林が覆っているエリアも有ります。
 そして森を行くには三巳の体は巨大過ぎました。小さくなったとしても新幹線の様には走れません。

 「森ってどれくらいあるんだろ」

 ロダが三巳の上から見える地平線を確認します。けれども端から端まで見えるのは森でした。

 「リファラは自然豊かな国なの。もし近く迄来てたなら多分殆ど途切れないと思うわ」

 リリも森の先にリファラが見えないかと、背をうんと伸ばして探しながら言いました。

 『しょーかー。んー。しょーだなー、このしゃきに生き物がいっぱい居る場所があるんだよ』

 三巳が奥の奥まで気配を読んでみると、確かに集落が有ると思しき気配が集まっていました。

 『リファラの匂いだ!』

 同じく匂いを嗅いでいたネルビーが耳をピーンと立たせて飛び跳ねました。そして勢い良く三巳から飛び降りると、クルクル駆け回りながら森の奥に向かって「わんわん!」と元気良く吠えます。

 「本当!?ああ……っ、帰ってきたのねっ、帰って……っ」

 三巳とネルビーの言葉を聞いたリリは、目には見えない森の奥の故郷に想いを馳せて、ドキドキとする胸を押さえて俯きました。ギュウっと瞑った目からはキラリと光る涙が溢れてきます。

 「リリ……」

 ロダはリリを慮ってそっと背を撫でました。そして動けないでいるリリを抱えて三巳からゆっくりと降りて行きます。

 「リリ、まだ先は長そうだ。その涙はリファラのみんなに会えるまで取っとくといい」
 「うん……!」

 人型になった三巳もリリの背を優しく撫でて先を促します。

 こうしてネルビーに先導され、三巳とロダに励まされながら、リリは逸る気持ちを力にして故郷に向けて足を踏み出したのでした。
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