獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

三巳のいない山の民達は

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 三巳達が頑張っている中、山では少し寂しい風が吹いていました。

 「三巳は山一番の賑やかしだったからなぁ」

 久し振りに一人きりのロキ医師の元で、ロウ村長が縁側でお茶を飲んでいます。
 ロキ医師の診療所は利便性が良くなる様に、人々の行き交う量の多い通りにあります。だから縁側に座っていると山の民達の顔がよく見えるのです。

 「ほっほっ、そうじゃのう。誰も彼もが覇気が無いのう」

 同じく縁側でお茶を啜るロキ医師が、自身も寂しそうに背中を丸めて言いました。
 時折り小さな子供達がチョロチョロと覗き込んで来ますが、三巳がいないのを見てションモリ肩を落としてトボトボ去って行きます。

 「みみねぇちゃ、まだかえってこないの?」
 「まだまだだってとうちゃんいってた」
 「そうなんだー……」

 聞こえて来る会話も寂しそうです。
 山の民達は三巳と共に育ってきました。居ないという状況に未だに慣れません。

 「こればっかりはワシらにもどうにもならんしな」
 「三巳もそうだが、リリものぅ」

 リリの心の傷が何かを未だに知らない面々は、ただ無事を祈るしか出来ません。
 ロキ医師は自分の家族なのに何も出来ずに歯痒い思いをしていました。

 「むぅ。いかんな」

 皺が増えていそうな程シュンとしているロキ医師を見て、ロウ村長は低く唸りを上げました。そしてバァン!と振動が伝わる程に両足を叩きます。
 ロキ医師は目をパチクリさせてロウ村長を見上げました。ロウ村長の力技は当たり前なので一々ビックリはしませんでした。

 「ほっ?」

 ションモリしたまま疑問の声をもらすロキ医師に、ロウ村長はニンマリ豪快な笑みを向けます。

 「ここはひとつ偶には村長らしく音頭をとるか」
 「ほう」

 楽しそうに腕を振るロウ村長を、ロキ医師は好々爺として目を細めました。

 (そういえばロウも名を襲名する前は好奇心を行動で示すタイプの人種じゃったのぅ)

 昔、まだ子供だったロウ村長の姿が頭を過り、懐かしさに相好が崩れます。
 瞼を閉じなくても当時の情景は鮮やかに思い出されます。それ程までにロウ村長は特出していたのです。
 フラッと山を出たかと思えばフラッと帰って来て、山の外の話を楽しそうに語る姿は見ているだけで元気を貰えていたものです。

 「そうと決めればこうしちゃおれん。
 ロキ医師、邪魔したな」

 ロウ村長は言うなり意気揚々と軽い足取りで帰って行きました。

 「ほっほっほっ」

 子供ももう大きいというのに、何時迄も子供心を忘れない。そんなロウ村長をロキ医師は若かりし日の姿を重ねて見ました。そして(あの頃も楽しかったが、また今日も楽しい日になるのだな)と、姿が見えなくなるまで温かく見守るのでした。
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