獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
143 / 372
本編

失態と芽生え

しおりを挟む
 リファラには今、三巳を震源地とする局地的地震が発生しています。
 震度的には大地震まではいっていませんが、地面が揺れている事はわかります。
 そんな道のりを、ネルビー先導の元にリリとハンナが全速力で駆け抜けます。目的地は勿論三巳です。
 リリは近付くにつれ、三巳の神気を感じられる様になっている事に気付きました。
 なんと一心に三巳を案じる事で三巳の神気の奔流を肌で感じ、そのお陰か閉じられていた魔力の弁がやっと開いたのです。
 リリは自身の感知能力を頼りに道をひた走りました。

 その頃ロダも「抜けます!」の一言を置いて駆け出していました。
 ロダは高い足場にいた立地条件を生かし、屋根伝いに一直線に駆け抜けます。

 「三巳!!」

 最短距離を駆けていたロダが一番に辿り着きます。そして着いて早々尋常じゃない三巳の様子に息を飲みました。
 いつもはフワモフな温かみのある髪が、今は金色に輝き波を打っています。瞳も同様に金色に輝き、瞳孔は縦に細く鋭くなっていました。
 三巳はロダの声にハッとして自身の置かれた状況に気付いて慌てます。

 「ロダ……ダメ……ダメなんだよ……近寄っちゃ……危ない、から」

 三巳は自身から溢れ出る神気を抑えようと、両腕を掴んで丸まります。大好きな人達を傷付けたくなくて必死です。

 「良かった。正気はあるんだね。大丈夫。実はもしもの時にはって、三巳のお母さんから助言を貰ってるんだ」

 ロダは神気の奔流に逆らわず、流れの線に沿ってゆっくりと近寄ります。

 「そ、なのか……。ロダも、頼りになる男に育って、嬉しいんだよ」

 堂々と三巳の前に立ったロダに、三巳は安心感を得て心に少しの余裕が生まれました。ヘニャリと力なく笑い、毛を逆立て大きくうねっていた尻尾を体に巻き付け落ち着かせました。

 「待ってね。先ずは教わった通りに結界を敷くから」

 ロダは言うなり魔力で三巳の神気を包み込みます。外側から少しづつ範囲を狭めて、最終的には天辺に穴が空いたドーム型の結界が出来あがりました。
 結界で抑えきれない分の神気は天辺の穴からジェット噴射の様に出て行きます。

 「三巳!」

 そうこうしている内にリリ達も到着しました。

 『おれも手伝う!』

 ネルビーは結界を確認するなりターっ!とロダの元へ駆け寄り、強化魔法で結界を強化しました。

 「ありがとうネルビー」

 結界が安定したのを感じたロダは、ネルビーの頭を撫でてお礼を言います。
 結界は神気だけを抑える為の特化型なので出入りは自由です。リリとハンナもそれに気付いて結界の中に足を踏み入れました。
 ハンナは何があっても良い様にリリとロダに気を配ります。
 リリは三巳の真正面に膝立ちで立つと、両腕を抱え込む手に手を重ねました。そしておでことおでこをコッツンコしました。

 「三巳?どうしたの?何かあったのかしら」
 「ごめんな。三巳、自分で抑えれなくて」
 「ううん。大丈夫よ。私はいつだって三巳の助けになりたいと思っているのよ」
 「ありがとう」

 リリの優しさが心に染み込み、それが返って先程聞こえた話しを鮮明に思い出されます。
 三巳は奥歯を噛み締め揺れる力を落ち着かせました。

 「三巳?」
 「大丈夫。ちょっと落ち着かせただけ」
 「けど、今とっても神力が揺れたわ」
 「!リリ、力が戻ったのか」
 「ええ。三巳のこの力が戻してくれたみたいなの。
 不謹慎かもしれないけど……ありがとう、三巳」
 「それは良かったんだよ。三巳の暴走も悪いばかりじゃなかったのはせめてもの救いだなー」
 「暴走……。もしかして……悪い事、もしくは悪い話しを聞いてしまった?」

 リリは三巳をよく見ています。だからこそ三巳が何でもない事で暴走しないと断言出来ます。それなのに暴走が起きたという事は、絶対に何かがあったと直ぐに気付きました。
 三巳は鋭い指摘に思わず両眼を見開いてリリを見ました。そしてリリと視線がガッチリ合うと、今の行動は悪手だったとハッとしました。

 「……私の事……なのね」

 動揺で揺れる瞳には、リリが映し出されています。
 リリは三巳の感じている恐怖を正確に感じ取りました。自分の所為で傷付く三巳に胸を痛めて悲痛な顔になります。

 「何があったのか、話して欲しいな」
 「リリ……」

 三巳はリリを傷付けたくありません。けれども知って傷付く方が良いのか、知らないで傷付く方が良いのか、決めるのは三巳ではありません。決めるのは、リリです。
 三巳は意を決しました。

 「詳しく、知りたいか?」
 「知りたい」
 「知って辛い思いをするかもしれない」
 「知らないで何も出来ない辛さより何倍も良いわ」

 三巳はリリの強さが悲しくなりました。

 (まだまだ親の庇護が必要な子供なのに……。
 なんて強いのだろうか。強くなければ生きていけない世の中なんて、とても、とても悲しい)

 三巳は自分が浅い経験しかしていない、弱くちっぽけな存在に思えました。

 (獣神だ前世だって言っても、三巳は何も出来ていないじゃないか。それどころか自分の感情すらコントロール出来ていない)

 三巳は改めて大人になりたいと思いました。

 (力があるとか関係ない。大切な人達を守りたいなら世界を知らなきゃ)

 世間知らずでも今迄は困りませんでした。ぬるま湯に甘んじて来た結果、何とかしたくなった時にどうしたら良いのかわかりません。
 今から知ろうと努力しても、今の時には間に合いません。
 自分一人でなんて何も出来ないと理解しました。

 「ごめんリリ。弱い三巳でごめん」

 だから今の最善を求めて、三巳は全てを話しました。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

追放悪役令嬢、辺境の荒れ地を楽園に!元夫の求婚?ざまぁ、今更遅いです!

黒崎隼人
ファンタジー
皇太子カイルから「政治的理由」で離婚を宣告され、辺境へ追放された悪役令嬢レイナ。しかし彼女は、前世の農業知識と、偶然出会った神獣フェンリルの力を得て、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。 そんな彼女の元に現れたのは、離婚したはずの元夫。「離婚は君を守るためだった」と告白し、復縁を迫るカイルだが、レイナの答えは「ノー」。 「離婚したからこそ、本当の幸せが見つかった」 これは、悪女のレッテルを貼られた令嬢が、自らの手で未来を切り拓き、元夫と「夫婦ではない」最高のパートナーシップを築く、成り上がりと新しい絆の物語。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

みんなが嬉しい婚約破棄

あんど もあ
ファンタジー
王子の婚約破棄宣言を皆が待っていた!、というコメディ。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

幸福なる侯爵夫人のお話

重田いの
ファンタジー
とある侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢。 初夜の場で、夫は「きみを愛することはない」というけれど。 最終的にすべてを手にした侯爵夫人のお話。 あるいは、負い目のある伯爵令嬢をお飾りの妻にして愛人とイチャイチャ過ごそうと思ったらとんでもないハズレくじを引いちゃった侯爵のお話。

処理中です...