143 / 328
本編
失態と芽生え
しおりを挟む
リファラには今、三巳を震源地とする局地的地震が発生しています。
震度的には大地震まではいっていませんが、地面が揺れている事はわかります。
そんな道のりを、ネルビー先導の元にリリとハンナが全速力で駆け抜けます。目的地は勿論三巳です。
リリは近付くにつれ、三巳の神気を感じられる様になっている事に気付きました。
なんと一心に三巳を案じる事で三巳の神気の奔流を肌で感じ、そのお陰か閉じられていた魔力の弁がやっと開いたのです。
リリは自身の感知能力を頼りに道をひた走りました。
その頃ロダも「抜けます!」の一言を置いて駆け出していました。
ロダは高い足場にいた立地条件を生かし、屋根伝いに一直線に駆け抜けます。
「三巳!!」
最短距離を駆けていたロダが一番に辿り着きます。そして着いて早々尋常じゃない三巳の様子に息を飲みました。
いつもはフワモフな温かみのある髪が、今は金色に輝き波を打っています。瞳も同様に金色に輝き、瞳孔は縦に細く鋭くなっていました。
三巳はロダの声にハッとして自身の置かれた状況に気付いて慌てます。
「ロダ……ダメ……ダメなんだよ……近寄っちゃ……危ない、から」
三巳は自身から溢れ出る神気を抑えようと、両腕を掴んで丸まります。大好きな人達を傷付けたくなくて必死です。
「良かった。正気はあるんだね。大丈夫。実はもしもの時にはって、三巳のお母さんから助言を貰ってるんだ」
ロダは神気の奔流に逆らわず、流れの線に沿ってゆっくりと近寄ります。
「そ、なのか……。ロダも、頼りになる男に育って、嬉しいんだよ」
堂々と三巳の前に立ったロダに、三巳は安心感を得て心に少しの余裕が生まれました。ヘニャリと力なく笑い、毛を逆立て大きくうねっていた尻尾を体に巻き付け落ち着かせました。
「待ってね。先ずは教わった通りに結界を敷くから」
ロダは言うなり魔力で三巳の神気を包み込みます。外側から少しづつ範囲を狭めて、最終的には天辺に穴が空いたドーム型の結界が出来あがりました。
結界で抑えきれない分の神気は天辺の穴からジェット噴射の様に出て行きます。
「三巳!」
そうこうしている内にリリ達も到着しました。
『おれも手伝う!』
ネルビーは結界を確認するなりターっ!とロダの元へ駆け寄り、強化魔法で結界を強化しました。
「ありがとうネルビー」
結界が安定したのを感じたロダは、ネルビーの頭を撫でてお礼を言います。
結界は神気だけを抑える為の特化型なので出入りは自由です。リリとハンナもそれに気付いて結界の中に足を踏み入れました。
ハンナは何があっても良い様にリリとロダに気を配ります。
リリは三巳の真正面に膝立ちで立つと、両腕を抱え込む手に手を重ねました。そしておでことおでこをコッツンコしました。
「三巳?どうしたの?何かあったのかしら」
「ごめんな。三巳、自分で抑えれなくて」
「ううん。大丈夫よ。私はいつだって三巳の助けになりたいと思っているのよ」
「ありがとう」
リリの優しさが心に染み込み、それが返って先程聞こえた話しを鮮明に思い出されます。
三巳は奥歯を噛み締め揺れる力を落ち着かせました。
「三巳?」
「大丈夫。ちょっと落ち着かせただけ」
「けど、今とっても神力が揺れたわ」
「!リリ、力が戻ったのか」
「ええ。三巳のこの力が戻してくれたみたいなの。
不謹慎かもしれないけど……ありがとう、三巳」
「それは良かったんだよ。三巳の暴走も悪いばかりじゃなかったのはせめてもの救いだなー」
「暴走……。もしかして……悪い事、もしくは悪い話しを聞いてしまった?」
リリは三巳をよく見ています。だからこそ三巳が何でもない事で暴走しないと断言出来ます。それなのに暴走が起きたという事は、絶対に何かがあったと直ぐに気付きました。
三巳は鋭い指摘に思わず両眼を見開いてリリを見ました。そしてリリと視線がガッチリ合うと、今の行動は悪手だったとハッとしました。
「……私の事……なのね」
動揺で揺れる瞳には、リリが映し出されています。
リリは三巳の感じている恐怖を正確に感じ取りました。自分の所為で傷付く三巳に胸を痛めて悲痛な顔になります。
「何があったのか、話して欲しいな」
「リリ……」
三巳はリリを傷付けたくありません。けれども知って傷付く方が良いのか、知らないで傷付く方が良いのか、決めるのは三巳ではありません。決めるのは、リリです。
三巳は意を決しました。
「詳しく、知りたいか?」
「知りたい」
「知って辛い思いをするかもしれない」
「知らないで何も出来ない辛さより何倍も良いわ」
三巳はリリの強さが悲しくなりました。
(まだまだ親の庇護が必要な子供なのに……。
なんて強いのだろうか。強くなければ生きていけない世の中なんて、とても、とても悲しい)
三巳は自分が浅い経験しかしていない、弱くちっぽけな存在に思えました。
(獣神だ前世だって言っても、三巳は何も出来ていないじゃないか。それどころか自分の感情すらコントロール出来ていない)
三巳は改めて大人になりたいと思いました。
(力があるとか関係ない。大切な人達を守りたいなら世界を知らなきゃ)
世間知らずでも今迄は困りませんでした。ぬるま湯に甘んじて来た結果、何とかしたくなった時にどうしたら良いのかわかりません。
今から知ろうと努力しても、今の時には間に合いません。
自分一人でなんて何も出来ないと理解しました。
「ごめんリリ。弱い三巳でごめん」
だから今の最善を求めて、三巳は全てを話しました。
震度的には大地震まではいっていませんが、地面が揺れている事はわかります。
そんな道のりを、ネルビー先導の元にリリとハンナが全速力で駆け抜けます。目的地は勿論三巳です。
リリは近付くにつれ、三巳の神気を感じられる様になっている事に気付きました。
なんと一心に三巳を案じる事で三巳の神気の奔流を肌で感じ、そのお陰か閉じられていた魔力の弁がやっと開いたのです。
リリは自身の感知能力を頼りに道をひた走りました。
その頃ロダも「抜けます!」の一言を置いて駆け出していました。
ロダは高い足場にいた立地条件を生かし、屋根伝いに一直線に駆け抜けます。
「三巳!!」
最短距離を駆けていたロダが一番に辿り着きます。そして着いて早々尋常じゃない三巳の様子に息を飲みました。
いつもはフワモフな温かみのある髪が、今は金色に輝き波を打っています。瞳も同様に金色に輝き、瞳孔は縦に細く鋭くなっていました。
三巳はロダの声にハッとして自身の置かれた状況に気付いて慌てます。
「ロダ……ダメ……ダメなんだよ……近寄っちゃ……危ない、から」
三巳は自身から溢れ出る神気を抑えようと、両腕を掴んで丸まります。大好きな人達を傷付けたくなくて必死です。
「良かった。正気はあるんだね。大丈夫。実はもしもの時にはって、三巳のお母さんから助言を貰ってるんだ」
ロダは神気の奔流に逆らわず、流れの線に沿ってゆっくりと近寄ります。
「そ、なのか……。ロダも、頼りになる男に育って、嬉しいんだよ」
堂々と三巳の前に立ったロダに、三巳は安心感を得て心に少しの余裕が生まれました。ヘニャリと力なく笑い、毛を逆立て大きくうねっていた尻尾を体に巻き付け落ち着かせました。
「待ってね。先ずは教わった通りに結界を敷くから」
ロダは言うなり魔力で三巳の神気を包み込みます。外側から少しづつ範囲を狭めて、最終的には天辺に穴が空いたドーム型の結界が出来あがりました。
結界で抑えきれない分の神気は天辺の穴からジェット噴射の様に出て行きます。
「三巳!」
そうこうしている内にリリ達も到着しました。
『おれも手伝う!』
ネルビーは結界を確認するなりターっ!とロダの元へ駆け寄り、強化魔法で結界を強化しました。
「ありがとうネルビー」
結界が安定したのを感じたロダは、ネルビーの頭を撫でてお礼を言います。
結界は神気だけを抑える為の特化型なので出入りは自由です。リリとハンナもそれに気付いて結界の中に足を踏み入れました。
ハンナは何があっても良い様にリリとロダに気を配ります。
リリは三巳の真正面に膝立ちで立つと、両腕を抱え込む手に手を重ねました。そしておでことおでこをコッツンコしました。
「三巳?どうしたの?何かあったのかしら」
「ごめんな。三巳、自分で抑えれなくて」
「ううん。大丈夫よ。私はいつだって三巳の助けになりたいと思っているのよ」
「ありがとう」
リリの優しさが心に染み込み、それが返って先程聞こえた話しを鮮明に思い出されます。
三巳は奥歯を噛み締め揺れる力を落ち着かせました。
「三巳?」
「大丈夫。ちょっと落ち着かせただけ」
「けど、今とっても神力が揺れたわ」
「!リリ、力が戻ったのか」
「ええ。三巳のこの力が戻してくれたみたいなの。
不謹慎かもしれないけど……ありがとう、三巳」
「それは良かったんだよ。三巳の暴走も悪いばかりじゃなかったのはせめてもの救いだなー」
「暴走……。もしかして……悪い事、もしくは悪い話しを聞いてしまった?」
リリは三巳をよく見ています。だからこそ三巳が何でもない事で暴走しないと断言出来ます。それなのに暴走が起きたという事は、絶対に何かがあったと直ぐに気付きました。
三巳は鋭い指摘に思わず両眼を見開いてリリを見ました。そしてリリと視線がガッチリ合うと、今の行動は悪手だったとハッとしました。
「……私の事……なのね」
動揺で揺れる瞳には、リリが映し出されています。
リリは三巳の感じている恐怖を正確に感じ取りました。自分の所為で傷付く三巳に胸を痛めて悲痛な顔になります。
「何があったのか、話して欲しいな」
「リリ……」
三巳はリリを傷付けたくありません。けれども知って傷付く方が良いのか、知らないで傷付く方が良いのか、決めるのは三巳ではありません。決めるのは、リリです。
三巳は意を決しました。
「詳しく、知りたいか?」
「知りたい」
「知って辛い思いをするかもしれない」
「知らないで何も出来ない辛さより何倍も良いわ」
三巳はリリの強さが悲しくなりました。
(まだまだ親の庇護が必要な子供なのに……。
なんて強いのだろうか。強くなければ生きていけない世の中なんて、とても、とても悲しい)
三巳は自分が浅い経験しかしていない、弱くちっぽけな存在に思えました。
(獣神だ前世だって言っても、三巳は何も出来ていないじゃないか。それどころか自分の感情すらコントロール出来ていない)
三巳は改めて大人になりたいと思いました。
(力があるとか関係ない。大切な人達を守りたいなら世界を知らなきゃ)
世間知らずでも今迄は困りませんでした。ぬるま湯に甘んじて来た結果、何とかしたくなった時にどうしたら良いのかわかりません。
今から知ろうと努力しても、今の時には間に合いません。
自分一人でなんて何も出来ないと理解しました。
「ごめんリリ。弱い三巳でごめん」
だから今の最善を求めて、三巳は全てを話しました。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
110
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる