142 / 372
本編
不穏な気配
しおりを挟む
日々は忙しなくも穏やかに進み、気付けば夏の盛りになりました。
夏野菜も豊富に実り、露天に行く度に目にも鮮やかでついつい余分な買い物をしてしまいます。お陰で三巳は異世界料理のレシピが随分と増えました。
「今日はどうするかなー」
朝も満腹食べた三巳は、お腹を摩りながら歩きます。
「料理覚えても母ちゃんの宿題終わった事にはならないよなー」
そうです。三巳はもう少し大人になる為にいるのです。
「多分だけど、傲りとか暴走とか心を乱さない為に心を鍛えろって事だよなー」
三巳も一応一度は社会人を全うした多分良い大人です。
面倒事は嫌いで、スポーツ以外の争いも嫌いで、遊ぶのと縁側で日向ぼっこしながら茶柱を楽しむのが好きだけど、本人は至って真面目に大人のつもりです。
「でも三巳ってばパワハラモラハラにも耐え抜けたから、それ以外に乱しそうなのってどんな事だ?」
山ののほほんとした空気に長年どっぷり浸かっていても、過去の経験は確かに力になっています。
それでも平和な現代日本。いえ、殆どの現代の国で経験していない事があります。そしてそれはこの星の山の外ではごく当たり前に起こり得る事です。
現にリファラはそれが起こってしまったのですから。
それでも三巳は話しに聞いて一緒に悲しみ、復興に力を尽くしました。
だからこそ理解に及ばなかったのです。
聞くと見ると経験するとでは大違いであると。
三巳はのほほんと歩いて街の散策をします。歩けば何かに当たるだろうと。
「今日は畜産のお手伝いにでも行こうかな」
思い至って街の外れに向かった三巳です。裏路地を横切れば近道だと、またまたふと思い至って細い路地に入りました。
そこで三巳の耳は不穏な会話を拾ってしまいます。
「……の生き残りが復讐を目論んでるだと?」
「はい。まだリファラの人々は気付いていませんが、モンスター達がいる今。知るのも時間の問題かと」
「……彼等は既に多くの傷を負った。これ以上の傷を増やすのは忍び無い」
「ええ同感です。出来れば事が起きる前にギルドで対処出来ればと思い、有力な冒険者に声を掛けています」
「そうか。俺も各国のギルド長に連絡を取ってみよう」
「宜しくお願いします。ヴァーンギルド長」
三巳は思わず立ち尽くしてしまいました。
会話は常人には聞こえない程遠くで、声を潜めて行われていました。だから会話の主達と鉢合わせする事はないでしょう。
三巳は大きく目を開けたまま、彼等の気配が消えるまで呆然と動けないでいました。
今初めて、リリに起きた事を身近なものとして実感したのです。
ぐるぐる。ぐるぐる。三巳の頭の中はミキサーにかけられたみたいな気分です。
(終わった事だと思っていたのに)
景色がグニャリと歪む中。リリの笑顔だけはハッキリと頭の中に思い描いています。
(まだ。リリを苦しめるのか?)
思った瞬間。頭の中のリリまで少しづつ歪み始めてしまいました。
三巳の心臓がドキンドキンと大きく早鐘を打ちます。
(駄目だ。そんなの駄目だ)
いつしか三巳の両の瞳からは止めどなく涙が溢れていました。
そして……。
ゴゴゴゴゴゴ……!
三巳の体から漏れ出た神気に呼応して、三巳を中心とした地震が起きてしまいました。
今はまだ「あれ?何か揺れてる?」と誰かが気付く程度の揺れです。けれども揺れは少しづつ強く、大きな波となって広がっていきました。
足元が揺れているのに三巳は気付きません。
リリを傷付ける者達への怒りが沸々と湧き起こり、視界が黒く塗り潰されていきます。
異変は、モンスターとネルビーがいち早く気付きました。
次いでリリとロダが、その後三巳に近い者から気付き、震源地に視線が向く頃。
三巳のいる場所からは金色に輝く光の柱が立ち昇っていました。
夏野菜も豊富に実り、露天に行く度に目にも鮮やかでついつい余分な買い物をしてしまいます。お陰で三巳は異世界料理のレシピが随分と増えました。
「今日はどうするかなー」
朝も満腹食べた三巳は、お腹を摩りながら歩きます。
「料理覚えても母ちゃんの宿題終わった事にはならないよなー」
そうです。三巳はもう少し大人になる為にいるのです。
「多分だけど、傲りとか暴走とか心を乱さない為に心を鍛えろって事だよなー」
三巳も一応一度は社会人を全うした多分良い大人です。
面倒事は嫌いで、スポーツ以外の争いも嫌いで、遊ぶのと縁側で日向ぼっこしながら茶柱を楽しむのが好きだけど、本人は至って真面目に大人のつもりです。
「でも三巳ってばパワハラモラハラにも耐え抜けたから、それ以外に乱しそうなのってどんな事だ?」
山ののほほんとした空気に長年どっぷり浸かっていても、過去の経験は確かに力になっています。
それでも平和な現代日本。いえ、殆どの現代の国で経験していない事があります。そしてそれはこの星の山の外ではごく当たり前に起こり得る事です。
現にリファラはそれが起こってしまったのですから。
それでも三巳は話しに聞いて一緒に悲しみ、復興に力を尽くしました。
だからこそ理解に及ばなかったのです。
聞くと見ると経験するとでは大違いであると。
三巳はのほほんと歩いて街の散策をします。歩けば何かに当たるだろうと。
「今日は畜産のお手伝いにでも行こうかな」
思い至って街の外れに向かった三巳です。裏路地を横切れば近道だと、またまたふと思い至って細い路地に入りました。
そこで三巳の耳は不穏な会話を拾ってしまいます。
「……の生き残りが復讐を目論んでるだと?」
「はい。まだリファラの人々は気付いていませんが、モンスター達がいる今。知るのも時間の問題かと」
「……彼等は既に多くの傷を負った。これ以上の傷を増やすのは忍び無い」
「ええ同感です。出来れば事が起きる前にギルドで対処出来ればと思い、有力な冒険者に声を掛けています」
「そうか。俺も各国のギルド長に連絡を取ってみよう」
「宜しくお願いします。ヴァーンギルド長」
三巳は思わず立ち尽くしてしまいました。
会話は常人には聞こえない程遠くで、声を潜めて行われていました。だから会話の主達と鉢合わせする事はないでしょう。
三巳は大きく目を開けたまま、彼等の気配が消えるまで呆然と動けないでいました。
今初めて、リリに起きた事を身近なものとして実感したのです。
ぐるぐる。ぐるぐる。三巳の頭の中はミキサーにかけられたみたいな気分です。
(終わった事だと思っていたのに)
景色がグニャリと歪む中。リリの笑顔だけはハッキリと頭の中に思い描いています。
(まだ。リリを苦しめるのか?)
思った瞬間。頭の中のリリまで少しづつ歪み始めてしまいました。
三巳の心臓がドキンドキンと大きく早鐘を打ちます。
(駄目だ。そんなの駄目だ)
いつしか三巳の両の瞳からは止めどなく涙が溢れていました。
そして……。
ゴゴゴゴゴゴ……!
三巳の体から漏れ出た神気に呼応して、三巳を中心とした地震が起きてしまいました。
今はまだ「あれ?何か揺れてる?」と誰かが気付く程度の揺れです。けれども揺れは少しづつ強く、大きな波となって広がっていきました。
足元が揺れているのに三巳は気付きません。
リリを傷付ける者達への怒りが沸々と湧き起こり、視界が黒く塗り潰されていきます。
異変は、モンスターとネルビーがいち早く気付きました。
次いでリリとロダが、その後三巳に近い者から気付き、震源地に視線が向く頃。
三巳のいる場所からは金色に輝く光の柱が立ち昇っていました。
11
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
幸福なる侯爵夫人のお話
重田いの
ファンタジー
とある侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢。
初夜の場で、夫は「きみを愛することはない」というけれど。
最終的にすべてを手にした侯爵夫人のお話。
あるいは、負い目のある伯爵令嬢をお飾りの妻にして愛人とイチャイチャ過ごそうと思ったらとんでもないハズレくじを引いちゃった侯爵のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる