獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

貴族のお茶会は緊張するんだよ

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 今日はぽかぽか青空の良いお天気です。ウィンブルドン邸にお泊りした三巳達は、すっかり元気になったシェザンナに誘われて広くて素敵なお庭に来ています。

 「凄いんだよっ、フラワーパークみたいなんだよっ」

 手入れをされたお庭は様々なお花が咲き誇っていて良い香りが鼻を擽ります。三巳は尻尾をブンブン振りながら鼻をフンフンして大興奮です。どんなに体が小さくて、野山を駆け回るのが大好きでもやっぱり三巳も女の子。お花観賞も大好きです。

 (OL時代はお昼にこんな公園で良くランチしてたなー)

 と、OL仲間との一時を思い出す位には大好きです。
 シェザンナは良く動く尻尾に「ふふふ」とお嬢様らしくお上品に笑ってくれています。
 侍女に日傘を差して貰い微笑む姿は、前世でさえ経験のない特別感が満載で三巳も「っぽ」と頬を染めてしまいました。そして視線を周囲の侍女さん達にやり、自分の場違い感に気付くと、そろそろとゆっくりなペースで姿勢を正します。そして見様見真似で静々と歩き出しました。
 途中途中でチラッチラッと視線をやる姿は微笑ましく、リリとシェザンナは顔を見合わせてクスリと笑いました。

 「いつも通りで良いのよ、三巳ちゃん」

 シェザンナはそう言いますが、三巳とて女の子。ちょっとお上品に振舞ってみたい時もあるのです。ぎこちなくてもお嬢様っぽく振舞うのがちょっと楽しくなっていました。

 「大丈夫なんだ……ですわなんだよ。三巳……わたくしもこれくらい出来るんだ……ですわなんだよ」

 前世の経験は何処へやら。全く出来ていないけれど、それでも三巳は満足そうです。

 「三巳ちゃんって本当に可愛らしいわね。獣人族とのハーフかと思うのだけれど、以前から変わりないのもその所為なのかしら」

 三巳はウィンブルドン領ではまだ一度も神気を表に出していません。前回も出していないのに急に出ていたらビックリしちゃうと思い、今回も神気は封印中です。なのでウィンブルドン領の誰もが三巳を獣神とは知らないままなのです。
 三巳に聞こえない様に内緒話をするシェザンナに、リリはクスリと笑います。

 「そうなの。三巳ってばいつもとっても可愛いのよ」

 ぼやかして答えましたが、三巳を可愛いと思っているのは事実なので嘘ではありません。

 「でも三巳は私と一緒に大きくなりたかったみたいだから、背の事は黙っていてあげてね」
 「わかりましたわ。一緒に成長出来ないのって寂しいですものね」

 シェザンナは力強く、とはいってもそこはお嬢様なのでお上品に了承の意を伝えてくれました。
 ぎこちなく歩く三巳は速度も遅く、先陣切って歩いていたのにあっという間にリリ達に追いつかれました。追いついたリリ達は、三巳の速さに併せてゆっくり歩を進めます。

 「ああ、あんなに楽しそうに庭園を歩むリリ様をもう一度この目に見られるなんて、なんて奇跡でしょう」
 「可愛いけど、僕にはちょっと入り辛い空気だ」

 ロダとハンナも三巳達の後ろを少し離れて歩いています。ネルビーは籠から解き放たれたワンコが如く、先程から興奮冷めやらぬまま庭駆け回っています。リリもハンナも、言語も忘れて「わふわふ!」と言っている姿に温かい目を向けています。
 庭は広く、迷路の様でした。けれどしっかり案内されているので迷いません。

 「おお!これわ!」

 シェザンナに案内されて着いたのは、くぼ地の淵を植木で囲み、その真ん中に建てられたガゼボでした。
 まさしくお嬢様!な場所に、三巳の興奮も最高潮です。特に目が離せないのは、ガゼボのテーブルに用意されたお茶やお菓子の数々です。特に目が離せないのが三段重ねのケーキスタンドです。三巳の目はもうお嬢様な自分を保てていませんでした。

 「ふふふ。どうぞお掛けになってくださいな」

 シェザンナにクスリと慈愛の眼差しで微笑まれた三巳は、「はっ」として改めてしゃなりとした自分を演出しました。
 全員が席に着くと、一人一人にメイドが付きます。ティーカップに紅茶を注ぎ終わると少し離れた所で控えました。
 その洗練された所作に見惚れられるのは、三巳が前世の記憶あってこそでしょう。現にロダはその動きが特別なものとは気付いていませんでした。

 「う、高そうな茶器。緊張するんだよ……」

 目の前に置かれたカップは傷一つ無く輝き、添えられた銀のスプーンも曇りなく磨かれています。そう、まさにマイセンやウェッジウッドの如き美しさに、三巳もカップを持つ手が震えています。

 「割れてしまっても代わりはいくらでもありますから気にしないで頂戴。それよりも火傷をしない様に気を付けてくださいね」

 これには三巳は

 (流石お貴族様なんだよ!)

 と、住む世界が違うと斜め上に感動し、ロダは

 (割れない為に魔法で保護すれば良いんじゃないかな)

 と、矢張り斜め上な感想を抱いたのでした。
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