獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
202 / 372
本編

緊急防衛チームふたたび!

しおりを挟む
 暖かかった日から急に気温が下がり、沢山の雪が降り積もりました。
 今日はその翌日です。この日は打って変わってとても良く晴れていたのに、三巳は朝から嫌な予感がして忙しなく耳をピコピコ動かしていました。

 「こりゃ、来るかもしれんな」

 嫌な予感を感じていたのはロウ村長も同じでした。そして忙しなくキョドキョドしながらやった来た三巳を見て、それは確信となりました。
 山の斜面を見て唸るロウ村長に、三巳は眉根を寄せて耳を伏せます。気難しい顔のロウ村長の顔に「きゅぅ~」と喉で鳴いて斜面に視線を滑らせます。
 一見普通の雪山です。けれどもこの山で生まれ育った山の民には普通に見えても危険な事を経験則から知っていました。

 「緊急防衛隊を編成する。
 三巳よ、今回はかなり大きいかもしれん。近くに活動中の動物やモンスターがいれば一時的に村を解放する。避難をする者達に声を掛けて貰えるか」

 キリリと真剣な顔で言われると、三巳も吊られて耳と尻尾をピーン!と立てて真剣な顔で頷きました。

 「ありがとうなんだよ!危なそうなエリアの子達に伝えてくる!」

 三巳は言うが早いかタッと駆けだし出て行きました。
 それを見送ったロウ村長はもう一度山の斜面を見据え、そして厚手のコートをバサリと羽織り外へと向かいます。

 「あなた」
 「念の為お年寄りと子供達を避難場所へ」
 「任せて」

 途中廊下で出会った奥さんへ声を掛ければ奥さんもキリッとした目で頷き別の方へと駆け出しました。
 ロウ村長は背中うしろを任せて何の心配もなく強歩で目的地へと向かうのでした。

 所変わって村の広場です。
 異変は山の民達も感じていました。山の斜面を注視しつつサワサワと落ち着きなく話しています。
 そこへロウ村長がやって来ました。

 (矢張り集まっていたな。それでこそ山の民だ)

 ロウ村長は誇らし気にうむと頷き皆が見える位置まで歩きます。

 「時間が惜しい。手短に進める。
 もう直ぐ大規模な雪崩が起きそうだ。よって緊急防衛隊を結成する。今から各担当を呼ぶから名を呼ばれた者は直ぐに配置へ着く様に」
 「「「了解!」」」
 「では経過観察部隊。先に持ち場に着き随時経過を報告するように。
 次山頂側防衛部隊は……」

 言うなり普段の遊び好きな面をお首にも見せない采配をし、山の民達も自分の名前を聞くなり直ぐに行動に移していきます。
 采配を終えれば残るはロウ村長のみです。広場に人が居なくなった事を確認するなり勇ましい足取りで山頂側の村出口へ急ぎました。

 「どんな塩梅だ」
 「何とか保ってるけど~、保ってるのが不思議なくらいよ~」

 視線は油断なく山の変調を見逃すまいと注視したままです。

 「雪玉は大分落ちてる」
 「そうか」

 ロジンの言葉に短く応じ、白くこんもりとした雪の上を見た、その時です。

 「ズレた気がする」

 ロウ村長が眉尻をピクリと動かすのと、誰かがボソリと漏らしたのは同時でした。

 「山頂側部隊三角結界展開!左右部隊斜め結界展開!」
 「「「応!!」」」

 応じる声と、ズッ!という大きくズレて滑る音はこれまた同時でした。
 そして唸る巨大な雪の層が滑るドドドド!ともゴゴゴゴ!とも取れる嫌な音。しかし山の民達は誰も恐れず、慌てず、連携の取れた所作により即座に結界を展開させました。
 直ぐに山頂側に尖った三角の結界が村の山頂側をすっぽり覆い、間髪入れずに左端と右端側から村を守る様に斜めの結界が展開、先の三角結界と連結されました。

 ド!!ドオオオ!!ズ!ドン!

 雪が滑る音と結界にぶつかる音とそこから左右に進路を変えて流れて行く音と、兎に角沢山の音が山に響いています。音だけではなく地響きが体を伝います。

 「でかい雪崩だな。こんなの何年振りだ?」
 「さぁて、数年は無かったと思うが」

 見た目の豪快さに反して山の民達はとっても冷静です。雪国の男たる者(女の人もいますが)この程度は慣れっこなのでした。

 「おぉいっ、こっち結構重い!手伝ってくれ!」
 「おっと今行く!」

 雪崩は村を中心に綺麗に当分割されてる訳ではありません。となればより沢山の雪が流れる方はより強固な結界が欲しいです。
 助けを呼べば誰彼が行く等の押し問答もなく、その場で一番余裕のある隊から助けに向かいました。
 こうして見た目は三角形。力配分は不等辺三角形な結界により、村は何事も無く雪崩をやり過ごす事に成功したのでした。
 音と振動が落ち着いた頃、避難していた山の民や動物やモンスターが村の外へと様子を見に出ます。

 『今年も助けられたな』
 『そうね、お陰でこの子達も怪我が無かったわ』
 『ああ、山の民達が困ってたら今度は俺達が助けてやろうな』
 『そうね、そうしましょう』

 安全を確保出来た動物やモンスター達は、そう言うとペコリとお辞儀をして山へと帰って行きました。
 彼等の言葉は山の民達はわかりません。ただお辞儀をしてくれたので手を振って、

 「気をつけてなー」

 と見送ったのでした。
 一方で言葉を理解している三巳はここでもリファラの様に一緒に暮らせる日が来るかもしれないと、嬉しそうに尻尾を振ってニッコリ笑み崩れるのでしたとさ。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

幸福なる侯爵夫人のお話

重田いの
ファンタジー
とある侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢。 初夜の場で、夫は「きみを愛することはない」というけれど。 最終的にすべてを手にした侯爵夫人のお話。 あるいは、負い目のある伯爵令嬢をお飾りの妻にして愛人とイチャイチャ過ごそうと思ったらとんでもないハズレくじを引いちゃった侯爵のお話。

処理中です...