獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
212 / 372
本編

グラン入国!

しおりを挟む
 珊瑚の育つ南国の海。白い砂浜。そして緑豊かなジャングル。其れらを背景に佇む青年がいます。
 彼は先程まで確かにライオーガの姿をしていました。けれども今は何処からどう見ても人族そのものです。獣人族でもなく、ただの普通の人族です。

 「ひゃー!ラオ君変身出来たのかっ!あー!匂いも人っぽい!うひゃー!行ける!?一緒に行けるのか!?」

 大興奮で尻尾をブンブカ振って耳をピコピコ動かす三巳の額を、レオは人の形の手で押さえました。

 「落ち着け」
 「うぬ」

 大きな手の平で視界が遮られたことでスンと気を鎮めることに成功した三巳です。耳も尻尾も落ち着きを取り戻しました。けれども良く見ると尻尾の先っぽだけはフリフリ振っていて嬉しさが伝わります。
 レオは無意識に漏れる苦笑いを、空いている方の手で隠しました。

 「寧ろ三巳の方が大丈夫か?神気ダダ漏れだぜ?」
 「うぬ!大丈夫なんだよ!ちゃんと抑えれるっ」

 言うなりシュッと漏れ出る神気を引っ込めます。けれども隠そうとしない耳と尻尾はそのままです。
 レオが怪訝に見るので三巳は自分の耳を両手で触ってペタンと閉じました。

 「耳と尻尾も隠さないとダメか?三巳はこれが無いと落ち着かないんだよ」
 「ダメってこたあ無えよ。あの国は獣人族も多いからな」
 「おおっ、獣人族は父ちゃん以外初めましてなんだよ」
 「ま、それにそれが三巳のチャームポイントだってんならそのままで良いんじゃねーか?可愛いぜ」

 サラッと言って三巳の頭を撫でるレオに三巳は胸がドキンと高鳴りました。

 (う、うーにゅぅ……。山の民には無いスマートさなんだよ。三巳は聞き慣れなくて照れてしまうんだよ)

 けれども褒められて喜ばない三巳はいません。「にゅふふふふ~♪」とご機嫌に鼻歌混じりに笑いが止まりません。

 「それじゃあいっちょ行くか」

 歩き出した旅人姿のレオを追い掛けて三巳も行きます。そして尻尾収納から身分証を取り出してハタと気付きました。

 (ラオ君持ってないよな。コレ。むむ……大丈夫なんだよっ、三巳ちゃんとお金も持って来たからなっ。入場料は三巳に任せるんだよっ)

 ドヤ顔のお姉さん顔でレオを見上げる三巳です。
 勿論そんな三巳の心内など知らないレオはサクサクとグランの入り口に向かって歩いて行きます。
 そして到着しました。三巳念願のグラン(入り口)です。
 そして三巳はガーン!と雷に打たれました。

 「うにゅぅぅ……身分証パスポートが要らない国があったなんて……!」

 そうです。なんとグランには国壁など無く、また入り口も便宜上設けられただけのテーマパークっぽい形の枠組みだけだったのです。つまり入り放題出放題です。

 「だ、大丈夫なのか!?」

 他国の事なのに心配してオロオロする三巳は、地球の国家間の諍いのニュースを思い出して青褪めます。

 「ヤー、大丈夫ダヨ旅ノ人ー。ココ滅多ニ人来ナイ陸ノ孤島ネー」

 三巳とは対照的にあっけらかんと笑うのは南の国っぽくラフな、けれどもお洒落な感じの服を着た一応門番っぽい仕事をしている人族のお兄さんです。手に持っているのは槍です。飾りに鷹の羽っぽいのが付いています。
 三巳は一瞬にしてテーマパークに来たと勘違いしちゃいます。

 「うぬ。それで入場料を払う窓口は何処なんだよ?」
 「ダカラタダダヨー」

 チケット売り場を探してキョロキョロする三巳に、門番のお兄さんはスンとした顔に口をニコリとさせて言いました。
 そして隣で事の成り行きを見守っているレオは

 (神族って奴は変なのが多いのかね)

 とこれまたスンとした顔をしていました。

 「イーカラ入ルナラ入ルー」

 門番のお兄さんに背中を押され、三巳はドキドキしながら門を潜ります。
 門を潜るとそこはもう憧れの南の国です。そこらかしこにラフな格好の老若男女がゆったりまったり過ごしています。人族と獣人族が同じ位いるでしょうか。クロの様に二足歩行の動物っぽい獣人族がいる中に、三巳の様に肌は人族で獣の耳と尻尾が生えている人達もチラホラいます。それでも顔立ちは人族と獣人族の間の子な顔で、三巳の様に完全に人族な顔の人は今のところ見当たりません。

 「ぬぅー。リリが言ってたのはコレかー。三巳はハーフにしてもちょっと異質な見た目だったんだなー」

 三巳は自身の顔をモニモニ触ってハーフらしき人達と比べました。

 「いねえ訳じゃねえんだろうが。ま、珍しい見た目ってのはそうかもな」

 レオも三巳の頭をポフポフ叩いて撫で撫でして言います。撫でると三巳がどうにも気持ち良さそうな顔をするのでつい撫でてしまいます。
 沢山撫でられて満足した三巳は気を取り直していざ観光……をしようとしてそうでない事を思い出して頭を振りました。

 「違うんだよ。カカオの木なんだよ。早く帰るって約束したからな。先ずはカカオの木を探すんだよ」

 チラチラと観光したい気持ちを横目に三巳はキリリとした顔を作り、いざ探索を始めるのでした。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

みんなが嬉しい婚約破棄

あんど もあ
ファンタジー
王子の婚約破棄宣言を皆が待っていた!、というコメディ。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

幸福なる侯爵夫人のお話

重田いの
ファンタジー
とある侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢。 初夜の場で、夫は「きみを愛することはない」というけれど。 最終的にすべてを手にした侯爵夫人のお話。 あるいは、負い目のある伯爵令嬢をお飾りの妻にして愛人とイチャイチャ過ごそうと思ったらとんでもないハズレくじを引いちゃった侯爵のお話。

処理中です...