獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

台風が来たよ

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 夏もピークを過ぎるとやってくるものがあります。

 「およ?どしたんロウ村長。道作り終わったん?」

 山から戻って来た一団に、たまたま散歩をしていて居合わせた三巳が問い掛けています。
 ロウ村長達はお客さんの為の道作りで朝早くから山に行っていたのです。

 「いや。そろそろ台風が来そうだからな。飛びそうな材料だけ片付けてきたのだ」

 見れば成る程です。皆一様に小脇に木材などを抱えています。

 「そーかー。ごくろー様なんだよ」
 「何の何の。良い鍛錬になるわい。がっはっは!」

 人一倍の物を軽々しく持ち笑うロウ村長です。
 三巳も一緒に笑って、そしてピタリと止まりました。

 「ぬ。台風か」

 我に帰ったのです。

 「三巳は雨が降ろうが槍が降ろうがヘイチャラだからな。ついうっかり忘れちゃうんだよ」
 「三巳はそれで良かろう。しかしワシ等は備えねばならんからな。今日はこれで失礼するぞ」
 「うぬ。気を付けるんだよ」

 という訳で台風に備える山の民達を見送り、三巳は自宅に帰って来ました。
 家に入ると座って母獣のお腹に背中を預けたクロがいました。クロは台風が近付いている影響か、ピリピリする髭のお手入れをしています。
 母獣はそんなクロの垂れた耳を愛おしそうにグルーミングしています。
そしてそれ以外にも誰かが居ました。

 「ただいまー。お客さん?母ちゃんのお友達か?」
 『知り合いではある』
 「こんにちは子獣ちゃん。わっちは気圧の神でありんす。お初にお目に掛かりんす。噂の銀狼の親バカ振りを見に来たでありんすよ。ではお暇しんす」
 「へ?は?」

 その誰かは言うだけ言うと開いていた玄関からビュウという突風と共に去って行きました。
 あまりの速さにさしもの三巳もポカンと開いた口が塞がらない状態で、キイキイ言う玄関扉から目が離せなくなっています。

 「な、なんだったんだよ……」
 『気にするでない。あやつらはそういう性質故、気にした方が負けよ』
 「???」

 取り敢えずきっと母獣に会いに来て用事は済んだから帰ったんだろうと思い、腑に落ちない頭をポリポリ掻きながら玄関扉を閉めました。

 「見た目は品の良いお嬢様っぽかったのに忙しない人だなぁ」

 三巳はそう言いながら今しがた出て行った気圧の神を思い出します。
 長くてサラサラで薄い緋色の髪を自身に纏う熱気で揺らめかせた線の細い美人さん。服装は着物と砂漠の踊り子を足して涼し気にした感じでした。

 「世界が変わればファッションも色々で楽しいんだよ。今度ゆっくりお話したいな」
 『まあ……。あれで一応ファッション界で名を馳せてはいる様だしの』
 「おお、ファッションリーダーとかいうやつ」

 三巳は沸いていたお湯でハーブティーを淹れながら、

 (確かにとっても綺麗だった)

 と思い、そして今の自分の格好を見ました。

 (タンクトップに半ズボン)

 何処からどう見ても田舎の子供です。
 三巳は何となく気持ちを凹ませました。

 (南の国で貰った服は一張羅だから普段着にはしたくないしなー)

 などと考えていたらクロからクスリとした笑みが聞こえました。
 そちらを見ればクロが愛おしそうに三巳を見ています。

 「私はね、私の故郷の服なら作れるんだ。作ったら着てくれるかい?」
 「!」

 三巳はクロの思いもよらないお願いに耳も尻尾もピーン!と立てて目を見開きました。
 そして次の瞬間には高速で尻尾を振り続けます。

 「父ちゃんの!父ちゃんの手作りの!着る!絶対着るんだよ!」

 三巳は興奮気味に言いながら、クロと母獣の周りをピョンコピョンコと跳ね駆け回ります。
 その様子があまりにも可愛らしかったのでクロは相好を崩し、そんなクロの様子を愛おしく感じた母獣も相好を崩すのでした。

 「「たのもー!!」」
 「にゃに!?」

 しかしそんな家族団欒は激しく開かれた玄関扉と現れた2人の人物によって破られました。
 2人の人物の背景は暴風域に達しています。ビュウビュウと吹く風に煽られて、2人の人物は左右対称に立って不敵に笑っています。

 『矢張り来たの』
 「この人達も母ちゃん知り合いか?」

 母獣は相変わらずクロをグルーミングしながらなんて事ない顔をしています。初めから来るとわかっていた態度です。

 「おお!嬢ちゃんが銀狼の子ぉでありんすな!」
 「わっち等は爆風の神でありんすよ!」

 左右対称にビシッ!ビシッ!とポーズを決めながら言う2人組こと、爆風の神はとってもそっくりな青年です。着ている服も左右対称にそっくりです。
 三巳はそのあまりにパリピーなノリに目がパチパチ瞬きが止まりません。

 「ぬ。うぬ。母ちゃんと父ちゃんの子で三巳と言うでありんすよ」

 何とか自己紹介をしますが勢いに圧倒されたのか口調が移ってしまいました。

 「「おう!宜しゅうお頼もうすでありんす!ではさらば!」」

 言いたい事を言うだけ言った爆風の神は、来た時と同様に突然突風と共に帰って行きました。
 後に残された玄関扉が風に揺られてキイキイ言っています。

 「な……何だったんだよ……」

 三巳は開きっ放しの扉を閉めて茫然として言いました。
 外では台風の暴風域に入ったのでしょう。風に煽られた三巳の毛という毛がボサボサのモワモワになってしまっています。

 「大丈夫かい?三巳」
 「うぬ。あ、父ちゃん外は大雨洪水警報発令なんだよ」

 直ぐに駆け付けたクロに毛を整えられ、三巳は体を預けて甘えたモードです。喉をゴロゴロさせながらも注意喚起は忘れません。命だいじにです。

 「凄い雨だねぇ。山に来て一番大きいんじゃないかい?」
 『そうさの。何せあ奴らが来おったからのう』
 「あ奴らって今の3人の神?」
 『そうじゃ。あ奴らが来たならこれで終わりはせんぞ』
 「まだ来るの!?」
 「大丈夫だよ三巳。次に来る方はとても穏やかな方だから」
 「父ちゃんも知ってる人?」
 「ははは。僕も愛しいひとと共になって長いからねぇ。色んな神様とお会いしたよ」
 「長い!そいえば父ちゃんと母ちゃんの馴れ初め聞いたことなかったんだよっ!聞いたら教えてくれる?」
 「勿論だとも。でも愛しい人とのひと時は穏やかな時に話たいな。台風が過ぎてからでも良いかい?」
 「いーともー!やったぁ!楽しみが出来たんだよ!」

 三巳は喜びを両拳を天に掲げ現し、クロに整えて貰った尻尾も元気に横振りしちゃいます。
 そんな愛娘の姿にクロも嬉しそうです。
 クロとの馴れ初めを大切な思い出にしている母獣もまんざらでも無い顔でクツクツと笑うのでした。
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