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本編
3日目は出港の日
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グランに来て3日目の朝がやって来ました。
この日は到頭クロの実家へ向かう日です。
三巳は朝早くに起きてからレオにベッタリくっついて離れません。
「うぐにゅ……。レオとちょっとしかいられてないんだよ……」
「また帰りも寄るんだろ。ならまた会えるさ」
「うにゅ……」
港に泊まっているのは長距離航行用の船です。大きさは箱根の湖の海賊船よりやや大きい位と言えば伝わるでしょうか。少なくとも豪華客船よりはかなり小さい船です。
その船の前で三巳がレオにしがみついています。
「ほら、出港しちまうぜ」
「うぐにゅぅぅ……。行ってきますなんだよ……」
渋々離れて乗船する三巳は、それでも諦め悪くレオを見て手を振りながら中へと入って行きました。
「やれやれ。とんだ甘ったれた妹分を持ったもんだな」
船内に入って尚、窓を見つけてこれでもかとホッペをくっ付け手を振る姿に、レオは苦笑を漏らしながらも船が見えなくなるまで手を振り返してくれたのでした。
さてはて船内では港がゴマ粒位に小さくなっても三巳はまだ窓辺にペットリくっ付いていました。
(途中で島に泊まって休息と補給をしながら行くんだよなー。早くても行きだけでふた月かー)
見えなくなるまで外を見て心の中でぼやきます。
船の旅は何があるかわかりません。嵐や渦潮に海賊船も出ると聞きます。そういうものに出くわしてしまえばふた月では済まなくなる事でしょう。
(だから下手したら帰るの冬前になっちゃうんだなー)
足止めを食えばどれ程の期間掛かるかわかりません。地球の様に飛行機でヒュンとはいかないのです。鳥に変身したとしても、クロを連れて長く飛び続ける事は困難でしょう。
(帰りにもちょっとはレオと遊べると良いなー)
もうすかっかりグランが見えなくなった頃、三巳はやっと窓からほっぺを離しました。そして一度窓枠をキュッと握ってから離れます。
振り返ればそこにはクロが待っていてくれました。
「レオも来れたら良かったのにねぇ」
優しく微笑みを浮かべて三巳の耳の後ろをくしくしと撫でると、三巳はその手にソッと頭をグリリと押し付けて甘えます。
「レオはジャングルの保護者みたいな事してるからなー」
神族ではないレオには三巳みたいな離れていても続く様な結界は作れません。
だからといって他所者の三巳が代わりに結界を張るのは内政干渉みたいなものでしょう。ジャングルにはジャングルの掟があると理解している三巳は、自分の都合で力を振るう事を良しとはしませんでした。
「一昔前はジャングルにも神族がおったがの。何時だったか『南国は飽きた。次は北極へ行く』と言うて去りよったらしいのう」
ぐっと我慢をして部屋へ向かう三巳に、美女母がふと思い出して言いました。長く生きている美女母の何時かは、どれだけ昔か計り知れませんが三巳はそこに思い至りません。
「うぬ?母ちゃんその神と知り合いなのか?」
「いや。直接は知り合うておらぬ」
グランが初めてだった美女母に、ジャングルの神族と知り合う機会はそうそうなかったのでしょう。そう結論付けた三巳は「そっかー」と呟きました。
「まあ、其奴であれ他の神族であれ、居るというても守護するとは限らぬ。当てには出来ぬと覚えおけ」
「うぬ」
神妙に頷く三巳は結構な範囲を結界で覆っています。その結界も結局の所は自分の為、自分の縄張りを守る為にしている事です。
「レオが神族だったら三巳みたいに遊びに行けるのにな」
どうにもならない気持ちを持った三巳は、口を尖らせて辿り着いた部屋の扉を開けました。中は2段ベットが2つ左右にある狭い部屋です。ベットの下に荷物を置けるスペースがあり、窓の下に収納式の小さなテーブルが付いています。
特に荷物の無い三巳は、部屋に入るなりベットによじ登って上の段に寝転がりました。
「生き物の神格化はそう成れるものでは無い。それが出来ればクロとて既になっておろうよ」
クロは母獣の旦那さんとして眷属化はしているけれど、あくまで獣人のままです。変わった事なんて不老長寿になった程度です。
同じく荷物の無い美女母は、三巳とは反対のベットの下の段に座って嘆息を漏らし言います。
「私は今のままでも愛しいひとも愛しい子も側に居てくれるから満足だよ」
「うむ。我とてクロがクロである事が何より愛しいぞ」
美女母は、まだベットを決めかねているクロを手招きして言います。
それにニコリと応えるクロは美女母の隣に座ってホッペにチュッとキスをしました。どうやら同じ布団で寝る事にした様です。
「まー妹か弟でも出来なければ母ちゃんがまた神界に行く事もないだろーしなー」
三巳は自分も同じ部屋にいるのだからイチャイチャは程々にと釘を刺します。
それにクロは苦笑で答えます。
美女母は悪びれも無く応とも否とも答えず楽し気にクロに寄り掛かりました。挑発する様に三巳を流し見する目は、まるで三巳も番を持てば良いと言っている様です。
「でもそっかー。やっぱ神様になるのって難しーんだな」
三巳は足をパタパタさせながら枕に顔を埋めると、ポツリと呟き、地球の偉人を祀った宗教を思い浮かべるのでした。
この日は到頭クロの実家へ向かう日です。
三巳は朝早くに起きてからレオにベッタリくっついて離れません。
「うぐにゅ……。レオとちょっとしかいられてないんだよ……」
「また帰りも寄るんだろ。ならまた会えるさ」
「うにゅ……」
港に泊まっているのは長距離航行用の船です。大きさは箱根の湖の海賊船よりやや大きい位と言えば伝わるでしょうか。少なくとも豪華客船よりはかなり小さい船です。
その船の前で三巳がレオにしがみついています。
「ほら、出港しちまうぜ」
「うぐにゅぅぅ……。行ってきますなんだよ……」
渋々離れて乗船する三巳は、それでも諦め悪くレオを見て手を振りながら中へと入って行きました。
「やれやれ。とんだ甘ったれた妹分を持ったもんだな」
船内に入って尚、窓を見つけてこれでもかとホッペをくっ付け手を振る姿に、レオは苦笑を漏らしながらも船が見えなくなるまで手を振り返してくれたのでした。
さてはて船内では港がゴマ粒位に小さくなっても三巳はまだ窓辺にペットリくっ付いていました。
(途中で島に泊まって休息と補給をしながら行くんだよなー。早くても行きだけでふた月かー)
見えなくなるまで外を見て心の中でぼやきます。
船の旅は何があるかわかりません。嵐や渦潮に海賊船も出ると聞きます。そういうものに出くわしてしまえばふた月では済まなくなる事でしょう。
(だから下手したら帰るの冬前になっちゃうんだなー)
足止めを食えばどれ程の期間掛かるかわかりません。地球の様に飛行機でヒュンとはいかないのです。鳥に変身したとしても、クロを連れて長く飛び続ける事は困難でしょう。
(帰りにもちょっとはレオと遊べると良いなー)
もうすかっかりグランが見えなくなった頃、三巳はやっと窓からほっぺを離しました。そして一度窓枠をキュッと握ってから離れます。
振り返ればそこにはクロが待っていてくれました。
「レオも来れたら良かったのにねぇ」
優しく微笑みを浮かべて三巳の耳の後ろをくしくしと撫でると、三巳はその手にソッと頭をグリリと押し付けて甘えます。
「レオはジャングルの保護者みたいな事してるからなー」
神族ではないレオには三巳みたいな離れていても続く様な結界は作れません。
だからといって他所者の三巳が代わりに結界を張るのは内政干渉みたいなものでしょう。ジャングルにはジャングルの掟があると理解している三巳は、自分の都合で力を振るう事を良しとはしませんでした。
「一昔前はジャングルにも神族がおったがの。何時だったか『南国は飽きた。次は北極へ行く』と言うて去りよったらしいのう」
ぐっと我慢をして部屋へ向かう三巳に、美女母がふと思い出して言いました。長く生きている美女母の何時かは、どれだけ昔か計り知れませんが三巳はそこに思い至りません。
「うぬ?母ちゃんその神と知り合いなのか?」
「いや。直接は知り合うておらぬ」
グランが初めてだった美女母に、ジャングルの神族と知り合う機会はそうそうなかったのでしょう。そう結論付けた三巳は「そっかー」と呟きました。
「まあ、其奴であれ他の神族であれ、居るというても守護するとは限らぬ。当てには出来ぬと覚えおけ」
「うぬ」
神妙に頷く三巳は結構な範囲を結界で覆っています。その結界も結局の所は自分の為、自分の縄張りを守る為にしている事です。
「レオが神族だったら三巳みたいに遊びに行けるのにな」
どうにもならない気持ちを持った三巳は、口を尖らせて辿り着いた部屋の扉を開けました。中は2段ベットが2つ左右にある狭い部屋です。ベットの下に荷物を置けるスペースがあり、窓の下に収納式の小さなテーブルが付いています。
特に荷物の無い三巳は、部屋に入るなりベットによじ登って上の段に寝転がりました。
「生き物の神格化はそう成れるものでは無い。それが出来ればクロとて既になっておろうよ」
クロは母獣の旦那さんとして眷属化はしているけれど、あくまで獣人のままです。変わった事なんて不老長寿になった程度です。
同じく荷物の無い美女母は、三巳とは反対のベットの下の段に座って嘆息を漏らし言います。
「私は今のままでも愛しいひとも愛しい子も側に居てくれるから満足だよ」
「うむ。我とてクロがクロである事が何より愛しいぞ」
美女母は、まだベットを決めかねているクロを手招きして言います。
それにニコリと応えるクロは美女母の隣に座ってホッペにチュッとキスをしました。どうやら同じ布団で寝る事にした様です。
「まー妹か弟でも出来なければ母ちゃんがまた神界に行く事もないだろーしなー」
三巳は自分も同じ部屋にいるのだからイチャイチャは程々にと釘を刺します。
それにクロは苦笑で答えます。
美女母は悪びれも無く応とも否とも答えず楽し気にクロに寄り掛かりました。挑発する様に三巳を流し見する目は、まるで三巳も番を持てば良いと言っている様です。
「でもそっかー。やっぱ神様になるのって難しーんだな」
三巳は足をパタパタさせながら枕に顔を埋めると、ポツリと呟き、地球の偉人を祀った宗教を思い浮かべるのでした。
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