獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

世界は広く、お国事情も治安もそれぞれ

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 ドーナツ島を出て数日。相変わらずモンスターに襲われる事無く、けれども多少の自然災害を乗り越えて次の島へやって来ました。寄港したのは大きな街です。
 ここでまた船の中で仲良くなった人達とお別れです。吟遊詩人兼踊り子のコリアンナに、ブライン率いる冒険者パーティともお別れしました。
 三巳も観光の為に降りようと船から外を見て、そして「ひょっ!?」と鳥肌を立てて顔を引っ込めました。

 「ああ。そうか。三巳ちゃん達はこの国には降りない方が良いよ」

 下船をしようとしていたブラインがその様子に気付き教えてくれます。
 目の前の港有する国は大きな国だけれど、だからこそ差別が生まれているのだと。

 「うぬ。三巳、降りない。絶対降りない。こあいの嫌いなんだよ」

 ちらりと見えた港は、それはもう横浜港位栄えて見えました。通る人達の殆どはお洒落に見える以外は普通の人です。
 しかしながらその中にあって中々に嫌な気配を漂わせる人も少なからず感じ取れたのです。

 「人族が多い国の所為かやたらと獣人差別する奴や、見た目や貧乏、冒険者差別する奴ってのが一定数いるんだよなぁ。まあ、殆どの人はそうじゃないが、用心した方が良いぜ」

 そう言って先に降りていた仲間達の元へ行ったブラインに手を振って、三巳はそそくさと船内に戻って行くのでした。
 
 「安全第一絶対」

 船室に戻るなり布団に包まりミノムシ三巳として震える三巳に、そもそも降りる気の無かった母獣が外を見て、不機嫌そうにフンと鼻息を漏らしました。

 『相も変わらず、ヒトというのは愚かで弱い生き物よ』
 「でも、だからこそ栄えてきたとも言えるよ」

 不機嫌にパタパタと揺れる母獣の尻尾を自身の尻尾で絡めて宥め、同じく外を見るクロは言います。獣人のクロはその差別対象になり易いです。けれどもクロはその事を寂しく思っても、憤る気持ちはありません。
 
 「私の故郷だって同じだからね」
 『!そんな事は無い。クロは』
 「ふふ。そう言ってくれるのは愛しいひとと、古い友人達だけだよ」

 寂しそうに笑うクロに、母獣はペロリとその顔を舐めて顔を擦り合わせます。

 『我はクロをとても強いと思うておるよ。我の最愛を侮る事はクロとて許さぬ』
 「うん。ありがとう。愛しているよ、愛しいひと」

 横でイチャイチャをする両親ですが、三巳は怖い気配を放つ外の世界から逃れる様に布団に顔まで突っ込んで船が出発するまでピルピルと震えているのでした。

 大きい港街という事で、5日間という滞在期間を終えて出港し、港が遠くなった頃にやっと三巳は甲板へ顔を出しました。

 「にゅあー。空気が美味しいー」

 ずっと布団に包まっていた所為か、凝らない筈の体に凝りを感じた三巳が大きく伸びをして言います。
 耳や尻尾をカシカシ掻いて梳かしながらキョロキョロすれば、またもや知らない顔触れが増えていました。思わずフンスフンスと鼻を効かせて怖い気配が無いか探します。けれども幸いにもそんな人はいませんでした。

 「うぬ。ブっちが言ってた通り、殆どは普通。普通が多いからこあいのって目立つんだよ」

 うんうんと頷く三巳ですが、実は“三巳ちゃん見守り隊”の面々が乗る人を精査していたりします。
 乗船をするには勿論審査があります。でなければ長く危険な巡回船の安全が保てないからです。それでも恐慌状態で嵐の時の様になる人がいるのですから。今回はそれが更に厳しくなっていただけです。

 「そうねぇ。平穏が一番よねぇ」

 後ろから聞こえた知っている声に、三巳は振り返り驚きます。そこには大きな国で稼ぐと言って別れた筈のコリアンナがいたのです。

 「あれ?コーちゃんさっきの国で降りるんじゃなかったのか?」
 「その予定だったけれどぉ、ちょぉっと稼ぎすぎちゃってぇ、同業者達に睨まれちゃったぁ」

 コリアンナがお茶目にてへっと片眼を瞑って舌を出します。

 (言われてみればさっき嗅いだ時にコリアンナの匂いもしてたや)

 当たり前になっていた匂いだったので、いない筈とは思わず気付けませんでした。
 大きな国ならそこに居つく吟遊詩人もいるのでしょう。コリアンナは歌も踊りも綺麗だと知っている三巳は、

 (トップアイドルは大変なんだよ)

 と思います。

 「次の停泊地って学業都市って言ってたっけ」

 (学業都市だとコリアンナまた降りないのかな)

 「まあぁ、次は学生が多いしぃ、息抜きに来てくれるかなぁ」

 (そうでもなかった)

 思ったより逞しい吟遊詩人という職業に、三巳は感心のあまり拍手します。目も憧れでキラキラしています。

 「あらぁ、ありがとぉ三巳ちゃん」

 コリアンナが拍手に応えてクルクル踊り出すと、居合わせた人達が寄ってきてあっという間に賑やかになります。
 その人達の雰囲気がとても楽しく感じた三巳は、この先の航海でも楽しく過ごせそうだと確信するのでした。
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