獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
281 / 372
本編

巡回船は「またね!」と「初めまして!」の場

しおりを挟む
 「こんちわー!」

 大きな椰子の木の下で、三巳が元気良く挨拶をしています。
 目の前には大きめの屋台を思わせる店舗が立っています。そしてパドウィックが受付をしていました。
 今日は島を出発する日なので最後にお買い物をしに来たのです。
 そしてパドウィックは会長権限で三巳の接客をもぎ取ったのでした。

 「いらっしゃい三巳ちゃん」
 「パッちゃん会長なのに受付もしてるんだなー。三巳な、お買い物に来たんだよ」
 「うんうんありがとう三巳ちゃん。何でも好きな物を買っていっておくれ。三巳ちゃんならオマケするよ」
 「ほんと!?やったー!ありがとうパッちゃん♪」

 早速台の上に並んだ商品を見てみます。
 商品は現物を置いているのも勿論有りますが、高価な商品は品目を書いた板だけ置いてあります。

 「これは実物見れないのか?」
 「いいや見られるよ。大きい物は嵩張るし、高価な物は盗難防止で台に乗せてないだけだからね」
 「それじゃあ三巳はこのバスボって実が見たいんだよ」
 「バスボかい?硬くて良く跳ねるっていう珍しい実だけれど、中身はほぼ空洞で液体も無ければ食べられる部分も殆ど無いよ」

 そう言いながらも背後の箱から取り出して見せてくれたのは、模様の無いバスケットボールでした。
 バスケットボールは遊ぶ物で、実でもましてや食べる物でも無いと、三巳は目をパチクリさせます。

 「パッちゃん。これ、実なのか?ボールにしか見えない」
 「ああ。はははっ、確かに三巳ちゃんなら楽しい実かもしれない。実際にこれを買う人は鑑賞用か子供やペットの玩具用に買っていくんだ」

 それなら然もありなんと頷くと、実際にバスボを触らせて貰いました。

 「うにゅ。多分バスケットボールそのものっぽい」

 多分を付けるのは三巳自体はバスケットボールをした事が無いからです。三巳の子供時代はまだバスケットボールは体育の授業として浸透していなかったのです。

 「弾ませても良い?」
 「構わないよ。とても丈夫な実だからね」

 快く了承をくれるパドウィックに、ニコリと笑ってお礼を言うと、早速ボールを地面に落としてみました。
 三巳の立っている場所には板がひかれていて、ボールは想像通りに弾んで手に戻ってきます。

 「うにゅ。やっぱしバスケットボールっぽい」

 三巳は前世でもやってみたいと思いつつやれずにいたことを思い出し、試しにドリブルにチャレンジしてみました。

 バスン。バスン。とリズミカルに木を打つ音がします。鈍い音なのはその下が砂浜だからでしょう。

 「うは」

 ボールを見ると本能が疼く三巳は、ほっぺを紅潮させて夢中で打ちつけます。
 打って、打って、打って。

 「三巳、そろそろ返そう?」

 クロにそう言って肩に手を置かれるまで夢中で打っていました。

 「はうっ。あー。あー。パッちゃん!三巳これ欲しいです!お幾らですか!」

 すっかり虜の三巳は興奮そのままの勢いでそれを購入するのでした。それも遊び用。予備用。保存用。皆で使う用に、有るだけ全部です。

 「おやキップが良いね。お客さんとしてこんなに気持ちの良い子はいないよ。どれ、サービスしよう」

 それなりにお値段がして嵩張る実が一気になくなり、パドウィックはニッコニコで揉み手をしました。商売人の顔です。三巳はこの瞬間に上顧客のリストにカウントされたのでした。

 その他にも幾つかお買い物を済ませ、改めてパドウィック商会の人達と別れを告げたらいざ乗船再開です。
 浅瀬に停めてある舟ではもう既に何人か乗っていました。

 「うにゅ。知らない顔もいる」

 別れがあれば出会いもある。それが巡回船の良い所かもしれません。
 三巳は初めましてな人達に挨拶をして舟に乗り込みました。
 三巳達2柱と1人が乗ると小さな舟はいっぱいです。

 「もう直ぐ次の舟が来るから次のグループはそれに乗ってくれ」

 三巳達の後からやって来た一団はそれだけで舟がいっぱいになりそうです。
 船員は直ぐに人数を把握すると自分の舟を出しました。折り返し戻って来る必要を感じたからです。
 手漕ぎの舟に揺られながら透明な海をユラユラユラリと進みます。船まで少し距離があるので暫しの遊覧観光です。
 水底を見ればキラキラと太陽の光が反射して、その間をカラフルな魚達が気持ち良さそうに泳いでいます。

 「そいえば浅瀬にはモンスターの子達いないな」
 「浅瀬は海の生き物にとって有利な地形とは言い切れないんだろうね。陸の生き物にとっても射程範囲だったりするからあまり近寄らないみたいだよ」
 「成る程ー」

 しかしてモンスターがいないだけで鮫はいました。平べったくて縞模様ですがヒレの形が鮫っぽいです。

 「ジンベエザメに似てる。羽根あるけど」
 「じんべーざめ?ああ、あの魚かい?飛び鮫だよ。魚は食べるけれど人は襲わないから安心して」

 クロの説明に、大人しそうな所もジンベエザメっぽいと思うのでした。

 (飛ぶけど)

 そしてトビウオみたいだとも思うのでした。


しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

追放悪役令嬢、辺境の荒れ地を楽園に!元夫の求婚?ざまぁ、今更遅いです!

黒崎隼人
ファンタジー
皇太子カイルから「政治的理由」で離婚を宣告され、辺境へ追放された悪役令嬢レイナ。しかし彼女は、前世の農業知識と、偶然出会った神獣フェンリルの力を得て、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。 そんな彼女の元に現れたのは、離婚したはずの元夫。「離婚は君を守るためだった」と告白し、復縁を迫るカイルだが、レイナの答えは「ノー」。 「離婚したからこそ、本当の幸せが見つかった」 これは、悪女のレッテルを貼られた令嬢が、自らの手で未来を切り拓き、元夫と「夫婦ではない」最高のパートナーシップを築く、成り上がりと新しい絆の物語。

みんなが嬉しい婚約破棄

あんど もあ
ファンタジー
王子の婚約破棄宣言を皆が待っていた!、というコメディ。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...