獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

島の秘密?

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 最近クロは母獣と一緒に猫獣人の集会に出る事が多いです。
 最近の島の様子を聞いたり、島の外の話をしたりと情報交換をしているのです。
 三巳も最初こそ参加していましたが、聞くより体験したい派な三巳は、途中で離脱して1人散策で見聞を広めています。
 今日も今日とてお散歩するぞ♪と玄関開けた所で三巳は固まっていました。

 「うーにゅ……」

 困った顔で眉を下げる視線は地面に向かっています。
 その地面には何故か土下座をする数人の人族が居たのです。

 (そいえば猫獣人以外の人初めて見たなー)

 と、やや現実逃避気味です。

 「切にっ……!切にお願い申し上げます!」

 地面に額を付けながら切に願いを乞う姿に、タジタジになる三巳は喉を引き攣らせます。

 (なんか。何処かで見た光景だなー……)

 恐らくそれは自身の記憶の中にあるもので間違い有りません。
 三巳は始まりの山の民の姿を重ねて唸りました。

 「えと。取り敢えず土下座は止めて欲しいんだよ」

 心の底から困った声で言えば、土下座していた人達は顔を上げて正座の姿勢になりました。

 「ん゛ん゛っ、んーっ。まあ、いっか……」

 剥き出しの地面には正座もどうなのかと思う三巳ですが、まあ悪い訳ではないとそれ以上は要求しない事にします。代わりに自分も正座で対応です。

 「えっ!?いやっ!?立って下さい!師匠!!」
 「へ?はっ!?ししょー!?」

 慌てた人達のリーダー的存在の人が手をワタワタさせて懇願してきました。
 しかし三巳はそれどころでは有りません。何せ見知らぬ人にいきなり師匠扱いされていたのですから。

 「はいっ!貴方様こそ我等の師匠足りえるお方です!」
 「いや何でなんだよ!?」

 曇りなき眼で言われても知らないものは知りません。
 三巳は街中で配られるポケットティッシュには「いりません」と言える人なのです。
 玄関を背に何時でも逃げられる体勢を整える三巳に構わず、目の前の人達は曇りなき眼をキラキラ輝かせます。

 「昨日。私達は天啓を見ました」
 「そう。それは正に流星の如く煌めき」
 「「「あの師匠の猫じゃらし捌きに感銘を受けたのです!」」」

 順番に思いの丈を話す人達は、最後には何の劇団かな?と思える位に揃って言い募りました。思いが籠み過ぎて胸の前で祈る様に手を組んでいます。

 「え?は?猫じゃらし?」

 あまりに間抜けな意味不明さに、流石の三巳もズルリと体勢を崩します。

 「猫じゃらしを前に躍動するしなやかな肢体っ!」
 「互いに一歩譲らぬ接戦っ!威嚇音っ!」
 「姿勢を低くし、尻尾を打つその姿っ!」
 「「「ああっ!お猫様は素晴らしいっっ!!」」」

 そして一糸乱れぬ賛美に、三巳は「ああ」と理解し、納得する事が出来たのです。

 (猫好きは猫の下僕と言う。アレか)

 「えと。ようは猫獣人達ともっと遊びたいって事で良いのか?」

 それならば一緒に遊べば良いと提案しようとしたら、しかし正座の人達は一斉に首を横に振りました。結構な勢いです。

 「「「そんなっ!まさか共にだなどっ!私達の全てはお猫様達にあるのですっ!!」」」

 (あ。重症なヤツ)

 完全な下僕となって目を煌めかせる姿に、三巳は手遅れ処置なしと遠い目をしました。

 「もしかして。皆は移住して来た人達なのか?」

 最早確定だろうと思っても聞かずにはおれません。
 聞けば正座の人達は悦にいった顔で当時の様子を語って教えてくれました。

 「俺は傭兵でした。国から国へ渡り歩き、度重なる戦いに身を置き、いつしか荒んでいった心が、この島でお猫様達に触れて全て浄化されたのです」

 そう語った男の人は、元々とある富豪の依頼でこの島を占拠しに来たのだと言います。しかし逆に返り討ちに合い、それでも船が来なければ帰れません。仕方なく息を殺して過ごす内に、猫獣人の戦いとはまるで違う伸び伸びとした生活に心を奪われたのだと言いました。

 「以来この島でお猫様達の健やかな暮らしを陰ながらお守りしております」
 「う。うにゅ」

 強面の傭兵の人は、見える範囲に生傷が沢山あります。その姿で言う「お猫様」はよくわからない破壊力がありました。
 三巳は頷く以外にしてはいけない気がして頷きます。

 「私は冒険者でした。結構有名なグループに属していましたが、リーダーが興味本位で寄ったこの島に心を奪われました」

 そう語る女の人は、猫獣人達のモフモフや肉球にハートを撃ち抜かれたのだと言います。以来この島でトリーマーとして猫獣人達の美を整えているのです。

 「お猫様の美を追求してたらいつの間にか腕が上がっていって、私の人生はお猫様の為にあったのだわ」

 恍惚とするトリーマーの人は、周りの人達から「良くやった!」等と褒められています。
 三巳は

 (好きこそものの上手なれ)

 と思いました。目は虚になってきました。

 「僕は……」
 「わたくしは……」

 等々と熱く語られまくった三巳は、最後には悟りを開いた目で頷き、慈愛の目で正座の人達を見渡しました。

 「皆、(父ちゃんの故郷の)猫獣人達の為に良く尽くしてくれました。礼を言います」

 ちょっと後光が差した状態で言えば、正座の人達は感極まった様子で滂沱の涙を流し、拝む様に頭を垂れ平伏するのでした。

 (帰れる保証無いって……こういう話なん……)

 そして死んだ魚の目で今は亡き前世の友人(自称猫の奴隷)を思い出していたのは、平伏していた人達にはわからないのでした。
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