旅への手順

蒼穹月

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第3歩-勇者と同郷の人たちと

-1-

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「良い天気♪」
 雲一つ無い青空。真上に照る太陽。地平線が見えそうな広い草原。時折微風が過ぎる。
「どぉこが。『良い天気♪』だっ」
 頭からマントを被ったライ君。項垂れてる。当人曰く。絶不調。
「何所からどう見ても」
 ライ君を見て。草原と空を見る。
「良い天気だよ?」
 ライ君の足が止まった。
「っだぁぁ!」
 両手を思い切り天に伸ばして。
「あっちーんだよ!」
 思い切り下ろす。そしてまた元気無く項垂れる。
「今、真夏だもん」
 日差し避けに僕とルック君もすっぽりマントを覆ってる。
「本当。人間て暑さに弱いのね」
 元気に飛び回ってティルが言う。
「うるへー。ティルは寒さに弱いだろー」
 反論も元気ない。お蔭で僕はハリセン攻撃も何も無く、平和な日常だけど。
「小さいから熱が溜めづらいのよ」
「僕達エルフや人間も寒さに弱いよ」
「あら。そう言えばそうね。という事は、ライってば暑さも寒さも駄目なのね」
 面白がってティル。
「うー。涼しくする魔法ねーのかよー」
 力なく座り込んでライ君。
『有るけど』
 僕とティルがはもった。
「じゃーやれよ!」
「僕必要無いから習得しなかった」
「下に同じく」
 僕の頭上でティルが真面目に言った。
 あ。ライ君てば変な顔。口がアングリ開いてる。あ。力尽きた。
 ライ君が力尽きたところで、ルック君がテントを張った。ティルがその周りを氷で囲う。
「あー。生き返ったー」
 水を飲んだライ君が、背伸びをして言った。
「俺様ってば、温室育ちだから。高温低温に弱いんだよ」
「曲りなりにも王子だもんね」
 ティルが水の入った容器に浸かりながら言った。
 それを見てライ君が羨ましそうに見る。
「チビって便利だな」
 うう。二人の間に火花が見えるぅ(汗)。
「ご飯出来たよ」
 ライ君の体の為に、食べ易い雑炊を作ってたルック君。出来た物を僕が器に盛って皆に渡す。
「相変わらず旨いぜ。ルックの料理」
 料理だけじゃなく、洗濯や掃除までやってくれる。ぐちゃぐちゃの荷物も、何時の間にか綺麗に整えられてる。
「ルック君て僕達のお母さんみたい」
 美味しいご飯に満足して食べる僕。自然、満面の笑みになるのを隠す気は無い。
「お母さんて・・・。ルック男でしょ」
「しかもトニーより全然年下。失礼にも程が、」
 言いながらルック君を見る。
「でも無い様だな」
 満更でもないルック君の様子に、口をヒクヒクさせるライ君。ティルもめまいを起こしてる。
「にしても。何で真夏に草原闊歩せんといかんのだ」
 ライ君がスプーンをピコピコ動かす。
「先頭きってこっちに来たのはライ君だよ」
 う。っとあからさまに言葉を詰まらせるライ君。
「そうよね。
東に行った怪しい奴を追う筈が」
傾きかけた太陽の方を見て。
「なんで西に向かってるのかしら」
ジト目でライ君を見る。
「面倒事を避けるため」
サラリと言ってのけるライ君。
「のすんじゃなかったの?」
「伸すとは言ってない」
そういえば。
「そういうのは勇者とかにでも任せりゃ良いんだよ」
面倒くさそうに寝っ転がるライ君。
「ライ君ジジくさい」
「ぬわぁんか言ったか~?」
うわぁん!ライ君に頭グリグリされた!
「で。現実問題。今、勇者って居るの?」
ティルが紅茶を飲みながら聞いてきた。
「・・・。さあ?」
「『さあ?』って。分らないの?」
「城に居た頃は、まあそれなりに色々聞いてたけど」
考え込むように唸るライ君。
「確か。どっかの田舎で勇者を祭上げてるとか何とか」
「はっきりしないわね~」
「田舎が復興の為に何かすんのは、今に始まった事じゃねーからな」
「調べたりしないんだ?」
「国以外の場所の戯言に、一々付き合ってやる程王族は暇じゃねー」
ウンザリしてソッポを向いちゃった。
「勇者かぁ。悪云々は兎も角、会ってみたいなぁ。ねぇ、ティル?」
「そうね。興味あるわ。ね、ルック?」
ルック君はちょっと考えて、頷いた。
僕達の遣り取りを聞いて、ライ君は耳を塞いだ。
「あ、ごめんね。煩くて寝れないよね」
食後に寝ると牛さんになっちゃうけど、ライ君具合悪かったんだもんね。静かにしてあげなくちゃ。
「煩かったな」
ソッポを向いたまま返してくれるところをみると、塞いだ意味は無いみたい。
「聞こえない振りしても駄目。多数決だから、次の行き先は勇者の田舎よ」
キッパリハッキリしっかり言い放つティル。ライ君は頭を抱えて唸る。
煩くて寝れないから塞いだんじゃなかったんだぁ。
「さ。ご飯も済んだし。町で情報収集するから、さっさと出発!」
ティルが氷の魔法を解いた。
「だー!もーちっと涼んでもいいだろ!」
「問・答・無・用!」
グチグチ言ってたけど、僕達がテントも片付けちゃったから結局出発した。

近くの集落に着いたのは、次の日の昼。
宿が無いから農家のおばちゃん(僕にとっては娘さんなんだけど)に、ご飯を御馳走して貰ってる。
「取り敢えず人の居る所には着いたけど。此処じゃ勇者の田舎の話聞けそうに無いね」
おばちゃんが持ってきてくれた、採れたてのトマトを齧りながらティルに言う。
「此処で聞く気は無いわよ」
苦笑してリンゴに噛付く。
「こんな集落じゃ情報なんて入んねーよ」
馬鹿にするライ君。でも出されたご飯は美味しそうに食べる。採れ立てをふんだんに使ったご飯は、とっても美味しいの♪
「勇者の居た村なら知っておりますよ」
「ほらな」
・・・。
「うおわっ!」
音も無くライ君の背後に立つおばちゃんに、椅子をひっくり返して驚くライ君。流石に転ばないけど。
おばちゃんは、空いたライ君のグラスにリンゴジュースを注いだ。
「気配無く背後に立たないで下さい!」
胸を押さえながら椅子に座り直す。
よっぽどビックリしたんだねぇ。何か敬語だし。
「おやおや。御免なさいね。狩の癖で」
言って、豪快に笑う。
「どんな癖だよ」
力なく呟くライ君。
「けど、これ位気付けなきゃ、旅なんて出来ないんじゃないのかい?」
ジュースを持ってない方の手で、ライ君の頭をワシワシ撫でる。
「何時でも気を張ってたら疲れるっつの。只でさえ暑さで体だりーのに」
泡を食っておばちゃんの手から逃れる。
「ライ君て・・・。ああいう人が苦手なのかなぁ」
ティルとルック君に耳打ちすると、ルック君は肯定で返してくれた。
「お母さんがああいう人なんじゃない?」
これにも肯定で返してくれた。
「おやおや。あたしが僕達を売る気だったらどうするんだい?」
人差し指をライ君の鼻面に押し付けて、人の悪そうな顔で言う。
ライ君は逃げる様に後ろに退いて、おばちゃんの手を掴む。
「生憎。人を見る目はあるんでね」
逃げ腰ながらも自慢して言うのが、とってもライ君らしい。逃げ腰なの始めて見たけど。
おばちゃんは、呆れと驚きの中間の顔をして、一瞬黙る。でも、すぐ噴出して。
「凄い自身だね。まあでも、有難うね」
最後にニカッと人の良い笑みを見せて、僕達にもジュースを注いでくれた。
「で、勇者の村だったね」
おばちゃんも近くの椅子に座って、ジュースを口に含む。ライ君がおばちゃんを睨んで、「そうだよ。何で知ってんだよ」って呟いた。
「此処から西に歩いて一ヶ月の所。ニルス王国からは南東に五日の所だね」
「へぇ。情報ってどこでも入るんだぁ」
感心しておばちゃんを見ると、笑みで返してくれる。
「此処は、近くに村も町も無いからね。案外旅人が立ち寄るのさ。僕達みたいなね」
納得です。
「なら宿位作りゃーいーじゃねーか」
ぶすっとしてリンゴに手を付けるライ君。
「あたし等は今こうして生きているだけで幸せでね。儲けようとは思わないんだよ。その代わり、旅人にはあたし等の家に御招待」
僕達みたいにね。ウィンクをされて笑みが漏れる。ライ君は何でか引き攣った笑みだけど。
「御蔭で色々な情報が入るのさ」
ジュースを飲み干したおばちゃんは、「ま。ゆっくりしていきな」って言って畑作業に戻った。忙しい合間に僕達の相手をしてくれたみたい。
「じゃあ。後一ヶ月頑張りましょう」
ライ君に向かって、ニッコリ笑って言うティル。ちょっと、人が・・・妖精が悪く見える・・・(汗)。
「へーへー」
思いっきりやる気無くだらけて言うライ君。テーブルに突っ伏して、リンゴをピコピコ振るの、お行儀悪いですよぉ?ライ君。
「でも今日はお言葉に甘えて泊まろうね」
五個目の美味しいトマトを齧り、ニコニコして言うと、ライ君が元気に同意した。
ティルは直ぐ行きたそうだったけど、ルック君も僕に同意した事で泊まる事になった。
「じゃぁ、僕おばちゃんのお仕事手伝ってくる」
食べ終わったお皿を片付けて外に出ると、ルック君も付いて来た。
「おばちゃん。僕達も手伝うよ」
「あら。有難う。助かるわ」
言って一通りの作業を教えてくれる。
「ねぇねぇ、おばちゃん。他に変わった情報入ってこない?」
真っ赤なトマトを採りながら、隣で余計な葉っぱとかを切ってるおばちゃんに聞く。
「そうさねぇ」
考え込むおばちゃん。でも手は止めてない。
「魔物が暴れる。って話を聞いたね」
魔物・・・。その言葉にちょっと手を止める。ルック君は雑草を抜きながらおばちゃんを見る。
「西から東にかけて次々暴れて行くんだそうだよ」
西から・・・。魔物園・ドフィル・ソシリア。確かに西から東の位置にある。
「何時頃からか分かる?」
トマトを籠に入れる。
「時期は勇者が村から居なくなったのと、同じ位だね」
「え?勇者。村に居ないの?」
「ああ。忽然と姿を消したそうだよ」
・・・。魔物。勇者。西から東。勇者の村は西。夜皆と話した方が良さそうかなぁ。
他にもおばちゃんは、家出した王子の話とか、絶滅したと言われる召喚士一族の話とか、エルフの集落から追い出されたエルフと妖精の話とかしてくれた。僕達と全く同じ条件で旅に出る人って、いるもんだなぁ。(大真面目)。
お手伝いも終わって、お風呂を使わせてもらって、借りた一部屋に皆が揃ったのは、夜も遅い頃。
床に敷かれたお布団に包まって、皆の様子を窺う。
ティルは、棚の上に敷かれたプチクッションの上で、ハンカチを膝に掛けてる。
ライ君は、剣を磨いてる。
ルック君は、荷物の整理をしてる。
「ねぇ。あのね。畑でおばちゃんに聞いたんだけど」
「なあに?」
皆手は止めないけど、耳は傾けてくれる。
「うん。勇者ね。村に居ないんだって」
「どういう事?」
ハンカチを退けて、僕の近くに飛んでくる。
「詳しくは知らないけど。
ある日、忽然消えたんだって。
それと同時期に魔物が暴れる事件が、西から東に次々起こったって」
ライ君が剣を鞘に収めて、僕の隣の布団にドッカリ座った。
「成る程。逃げたか」
「原因を追ったんでしょ」
「ヤられたかもな」
ティルとライ君が口々に推理してく。
やっぱり言って良かった(喜)。
僕が喜んでる間も二人は、推理していってる。関係無い事まで言ってる気がするけど。
「よし解った。じゃー勇者の村は行かないって事で」
すっごく嬉しそうにライ君が唐突に言う。
「行くわよ」
ティルはすっぱり言い放つ。
「僕も行きたい」
ルック君も頷く。
「結局行くのかよー」
ウンザリして言うライ君。
ライ君って本当に面倒臭がり屋だなぁ。
不貞寝を始めたから、僕達も寝る事にした。

勇者の村に着いたのは、一ヵ月半の事だった。
だってライ君ぐずるんだもん。やれ休憩だ。やれ暑い。騒ぐから、強い魔物も寄って来る。ここぞとばかりに活気に倒してくから、ストレスは発散できたみたいだけど。でも、魔物可哀想だったなぁ。犠牲になって・・・(悲)。
勇者の村はそれなりに出来の良い村だ。
ライ君曰く。
「勇者騒ぎで相当儲けたな」
「勇者って儲かるんだねぇ」
勇者が居なくなった所為で、やけに閑散としたお店を見て、かなり感心しちゃう。
村の真ん中辺りに宿を見つけて入る。入って直ぐは、食堂になっていた。でも、人はいない。それどころか、カウンターには従業員すらいない。
「風邪でも大流行してるのかなぁ」
ばし。げし。
『んなわけあるか』
一々殴る蹴るしなくてもぉ。
因みに、【ばし。】がティルのハリセン。【げし。】がライ君の蹴り。
カウンターには、呼び鈴がある。勿論迷わず鳴らす。そして誰も来ない。
「やっぱり寝込んでるんだよ」
ティルに振り返ると、ティルは溜息を吐きかけ、カウンターの奥を見て止める。
「ほら、違うでしょ」
ティルの指した方を見ると、奥から人が現れてた。
「・・・手品」
「普通に歩いてきたから」
ライ君にホッペつねられた。
「客か。こんな何も無くなった村に」
焦燥感を漂わせたおじさんが、投げ遣りに言葉を発した。やる気が全く感じない。
「勇者の居なくなった村に今更何の用だ」
目だけで睨む。
それに反応するのはライ君だけ。負けずに睨み返す。しかも思いっきり笑顔で。
「接客が成ってねーなー」
語尾が上がってる。キレなきゃいいけど。
「ふん。今更商売なんてどうでもいいさ」
目を逸らすおじさんと、僕の目がぶつかってしまった。何か嫌だなぁ。この目。
「それで。泊んのか、泊らんのか」
僕に聞いてくる。
「えと。泊ります」
「ふん。上の部屋を好きに使うがいいさ」
壁に掛かっていた鍵を、無造作にカウンターにばら撒く。でも、どの鍵が何人部屋かは教えてくれない。仕方なく近い数字をそれぞれ取る。ティルは僕と同じ部屋で寝るから、取ってないけど。
「言っとくが飯は出ないぞ。食うもんは自分達で何とかするんだな」
言って、奥に引っ込むおじさん。
「取り敢えず、部屋行こ?」
ライ君が奥に威嚇してたから、腕を引っ張って上に促した。
部屋は階段に近い所にあって、ライ君が真ん中で右が僕で左がルック君になる。
ライ君の取った部屋は四人部屋になってる。そこに集まってこれからどうするか、聞いてみる。
「そうね。勇者の事は聞きたいわね」
「うん。そうだね」
「そうだな。あのオヤジは一遍締めた方がいいな」
「うん。それは止めとこう」
真面目に言いたくなるの分かるけど。でも事情も知らずにただ締めるの良くないと思う。
うん。ライ君が残念がる気持ち分かんなくは無いよ?だから、ハリセンに手を掛けないで欲しいな・・・っ(焦)!
「じゃぁ、村の人捕まえて聞こう」
ハリセンを見ない様にして、会話をティルの方ので進める。
「さっきのオヤジ捕まえときゃよかったんじゃねーか?」
「うう。あのおじさんは嫌ぁ。目、嫌い」
「そうね。此処に泊る以上、あの人とは何時でも話せるわ」
結局話すんだぁ。嫌だぁなぁ。
「お店と民家どっちで聞く?」
「んー。二手に分かれて聞きましょう」
「うん。じゃぁ僕民家がいい」
お店択んで、さっきのおじさんみたいだったら嫌だし。
「ん。それじゃ、ライとルックは店ね」
「へーへー」
やる気ない返答に、ティルはジト目でライ君を見る。
「ルック。ライの事、くれぐれも宜しくね」
ルック君に引っ張られて、宿を出るライ君。
「それじゃ、私達も行きましょ」
僕達も宿を出て、民家の多そうな南へ行く。ライ君達はさっきの閑散としたお店に行ったみたい。
南は民家と畑で成ってる。中心に比べて、やや田舎臭さが残ってる。人も少しは外に出てる。でも僕達を見て、近くの村人に駆け寄って、内緒話を始める。
なんだかなぁ。
「僕そんなに変?」
「エルフが珍しいって、考えも出来るでしょうけど」
村人の顔色を窺って、溜息をする。
「旅人にいい思いを抱いて無いんでしょうね」
「自分達から旅人目当てに荒稼ぎ始めたのに?」
村人が睨んできた。声量気にしないで言いたい事いったもんねぇ、僕。でも、荒稼ぎしてたじゃんねぇ。
ワザと呆れ顔で周りの村人を見る。
だって、僕は何もしてないのに、こっち見てヒソヒソ話すの、ムカついたんだもん。
「・・・がう・・・」
「がう?」
横から微かに聞こえた女の人の言葉を、無意識に繰り返して言ってる僕。繰り返して言ったのに気付いて、頭の中で何度か反芻してみる。
「・・・実は、村人さんは村人さんじゃなくて・・・ライオンさん?」
「違うっ!」
「・・・トラさん?」
「違う。わたっ・・・私達は望んでなかったのよっ・・・!」
はい?何が何だか?
声のした方を見ると、横道から来たであろう、野菜籠を抱えた女の人が泣崩れていた。
えと。・・・ぼ。
「僕が・・・泣かしちゃった・・・の?」
顔中から脂汗が流れるのを感じる・・・(汗)。
「ティ・・・ティルぅ。どぉしたらいい?」
ちょっと離れた所からする泣き声を、耳に受けながら、ティルを見る。
ううぅ。僕が泣きたくなってきたぁ(潤)。
ティルは僕の鼻面をぽんぽん叩く。僕の前髪を引っ張って、女の人に近づく。
「取り敢えず、此処じゃ何だから。貴女の家に行きましょう」
女の人は泣きながら頷いてくれた。
女の人、ミルシャさんというらしい。ミルシャさんの家は村の外れにあった。一人暮らしらしい。
今は泣き止んでくれてるミルシャさんは、冷麦を出してくれた。
「取り乱して、ご免なさい」
向い側に座ったミルシャさんは、コップを両手で包んでる。その手はちょっと震えてる。
「あう。僕が泣かしちゃったみたいで。ごめんなさい」
素直に額をテーブルに付ける勢いで謝る。
「ごめんなさい。狼さんなんだね」
「は?」
ミルシャさんの目が点になった。
「え?それも違うの?じゃぁ熊さん?」
ずばん。
「御免なさいね。この子の言動は気にしなくていいから」
ティル・・・。鉄扇に進化してる(痛)。
「何か、事情があるみたいね」
「え?ええ」
ティルと僕を交互に見るミルシャさんの目は、明らかに困惑している。
「あの。大丈夫ですか?」
あう。優しぃ(感涙)。
「だいじょぅぶぅ。慣れてるからぁ」
目を白黒させつつ、濡れタオルでたんこぶを冷やしてくれる。やっぱり優しぃ。
「この子は大丈夫。それより事情、話してもらえるかしら」
「・・・はぁ」
生返事を返して、俯いて考え込む。
「あの。貴方達も勇者目当てで来られたのですか?」
警戒して言う。
「うん」
素直に言うと、目を見開いて、睨まれた。
「なら、貴方達に言う事は有りません!」
「勇者さん。急に居なくなっちゃったんだってねぇ。それでね、西から東に向かって、魔物が暴れてるんだって」
「人の話聞いてます⁉」
「やっぱり勇者さんやられちゃったの?」
「全然聞いてませんね⁉」
「居なくなっちゃったの、悲しいねぇ」
ミルシャさんの顔色が変わった。
「あなっ、貴方達の所為じゃない!」
あわわわわっ!また盛大に泣き始めちゃったよぉ。
「うわあん!ティルゥ、僕何もしてないよねぇ⁉」
「して、してないからっ!両手で、握り締めて、シャッフル、するんじゃない!」
あう。怒られた。
「んもう!」
体をパタパタ叩いて、服を整えるティル。ちょっとフラフラしてる。
「ふー」
体の調子が戻ると、睨みながら泣きじゃくるミルシャさんを、ギン!と睨み返す。
怯みまくるミルシャさん。ティルの勝ちだ。流石ティル魔人(汗)。
「ミルシャ。あんた今の完全な逆恨みじゃない。そんなの、私達に当たるんじゃない!」
「さ、逆恨みじゃないわよ!貴方達みたいなのがいるからっ、サリヤが居なくなっちゃったのよ!」
ソッポを向いて叫ぶ。
うんうん。ティル魔人を真っ向から見据えて言い返すなんて、怖すぎて出来ないよねぇ。でもね、人の目を見て話さないの、すぅっごく、逆効果。ほら、ティルの額におっきく血管浮き出ちゃったよ。そういうの、許せないんだよねぇ。特に魔人時は(遠目)。
「思いっきり、逆恨みじゃない。あんたの言ってる事はね。人間の幾人かが、他種族を殺したら、人間全てが他種族殺しだ。そう言ってるのと、全く同じなのよ」
じりじりとミルシャさんに近づいて行く。でも、ミルシャさんはソッポを向いてるから気付かない。取り敢えず、僕は壁際まで逃げる。
「それとも何?あんたはやってもいない事に責められても、受け入れるわけ」
間近でする、ティルの声に気付いてか、ふとティルを向く。でも、時すでに遅しで、ティル魔人の形相を目と鼻の先に見て、まともに蒼白する。・・・南無。ご免なさい。僕にはどうする事もできないです・・・(合掌)。
「ていうか!目ぇ逸らして話してんじゃないわよ⁉」
始まった(汗)。
ご免なさい。この空気に耐えられないから、
・・・逃げます。ダッシュで。
おおぅぅ。外に出ても、ティル魔人の説教攻撃が聞こえるぅ(半泣)。
ふふふふ。蝶々が見えりゅぅ(現実逃避)。あはははぁ。人族がお家を変な目で見てるぅ。吼えてる犬も、お家に近づくとキャンキャン逃げてくぅ。鳥も離れてくぅ。
何時の間にか通り雨が来た。何時の間にかぐっしょり濡れてる。雨が過ぎた頃に、ミルシャさんがげっそりして、ぐっしょりした僕を呼びに来た。
ほんのちょっとの間で、激痩せダイエットに成功だねぇ。
「ご免なさい。逆恨みでした」
土下座で謝る。
・・・ティル。どこまで叱ったんだろぉ。怖くて知りたくないけど。
「うん。気にしないで」
本当に気の毒だから、土下座は止めて欲しぃな。満足気なティルが怖くて、口に出来ないけど。
「それで。貴方様方は、如何な理由でいらっしゃられたのでしょうか」
土下座で顔だけ向けて聞く。
本当にどんな説教したの、ティル(汗)。
「えと、ここら辺から魔物が暴れだしたって聞いて。勇者さんが気になって来たんです」
「多大なる、ご配慮痛み入ります。勇者と称されたサリヤは、私の幼馴染に御座います」
王様にでも話してる口ぶりに、つい涙が溢れる。堪えてるから頬をつたりはしないけど・・・。
うわぁん!胸が痛むよぅ!
「ふふふ。ミルシャ、そんなに畏まらなくていいのよ」
王者の威厳⁉
「はい。では、失礼かとは思いますが、そうさせて頂きます」
従者⁉何時の間にかティルの横に控えて、ケーキとアイスティーを差し出してるしっ。
「サリヤは村長達の勝手な扱いに嫌気をさし、私にだけ告げて、村を出たのです」
あ。じゃあ、生きてるんだぁ。良かったぁ。
嬉しくてアイスティーを一気に飲み干す。すると、新しく注いでくれる。まるで、メイドさんの如く(汗)。畏まってる。まだ畏まってますから!そんなに、恐怖体験だった?
渇く喉を潤す事も悪い気がして、コップに手も付けられない。
「それじゃぁ、行き先とかは教えてくれたの?」
渇きを我慢して、話に集中する。
「いえ。東に行く。それしか、聞いていません」
東。
「・・・。
ティル」
僕の考えに同意を促すと、頷き返してくれる。
「ミルシャ。東の魔物の話は聞いた事あるかしら」
「ええ、はい」
ティルの目をしっかり見据えて肯定する。そして、ティルの見据え返す目を見て、困惑する。
「え?それって、まさか。サリヤは、嫌気がさしたのではなく、その魔物達を何とかする為に・・・?」
うん。たしか、集落のおばちゃんが同時期って言ってた。
「ねぇ。その、サリヤさんて、本当に勇者なの?何で分かったの?」
「神の選定が、あったのです。彼が生まれた時に」
神。それじゃぁ本物かぁ。今会えないの残念だなぁ。
「そう。ならその、サリヤという人が真の勇者なら、何らかの理由で異変を察知したのかもしれないわね。それこそ、神に導かれて」
「そう、ですか。彼は、勇者の責務を果たす為に、村を出たのですね」
重い物が取れたかの様に、どっと力を落とすミルシャさん。
「ずっと、気に病んでいたのね」
何時の間にか、僕の肩に乗ってるティル。僕にだけ聞こえる様に言う。
「それで彼は、東に行く、とだけ貴女に言ったのね?」
「はい」
肩の力を落としたまま、それでもティルをしっかり見て頷く。
「ん~。じゃぁ、勇者の責務を果たしたら、帰ってくるのかな?」
「理由がそれなら、その可能性が高いわね。良かったわね、恋人、帰ってくるかもね」
ミルシャさんにニヤニヤ笑いかけるティル。それに、赤面するミルシャさん。
「べっ、別に私と彼はそんなんじゃありません!」
「ふふふふふふなら、そういう事にしときましょうか」
意地悪そうなティル。何だか楽しそう。
まぁ、兎にも角にも、勇者は生きてるみたいだし。ミルシャさんは、魔物との関連については知らないみたいだし。取り敢えず、勇者の特徴だけ聞いて、ミルシャさんのお家を後にした。

宿に皆が揃ったのは、夕暮れ時になった。
商店街で馬鹿みたいに高い食べ物じゃなくて、ミルシャさんが持たせてくれた野菜で、簡単に夕食を取る。商店街の商品が高すぎて、携帯食料しか買えなかったってライ君が愚痴った。しかも少量。必要最低限量だけ。
「ったく。ムカつく連中だったぜ」
 野菜スープを啜りながら尚も愚痴り続ける。
 ルック君しかいなかったから、キレるにキレなくて、ストレスだけを溜めて帰って来たんだって。ライ君の自己申告だけど。
 「で、こっちは今話した通りだけど」
 といってもティル魔人の所は端折っての情報だけど。とにかく、ライ君とルック君の情報を聞き出すべく、話を振る。
「そっちは何か掴めた?」
 「ああん?」
 ギンっ!て僕を睨むライ君。
 思わずティルの後ろに下がる僕。ティルちっちゃいから隠れられないけど。
 「そっちみてーな、情報はねーよ。やれ、勇者が逃げたお蔭でどーの。やれあいつは、勇者とは認めん・・・」
 言ってる内に、どんどん声が低くなっていくライ君。
 めきょ。
あ。スプーン折れた(汗)。
「む・・・ムカつく・・・!」
手を震わせて、毒付く。
「ああ。怒りで手が震えてるわ。よっぽど酷かったのね」
僕がライ君に、「風邪なら早く寝なきゃ」って言おうとする前に、ティルが言った。
「おお。酷かったさ!」
僕がティルに、「風邪だよ」って言おうとする前に、ライ君が言った。
・・・。
僕は言うに言えずに、俯いて黙る。
なんか。僕最近会話に入れてない気がする。
ふと、ルック君に気付いて、近寄る。
「ルック君。僕達は僕達でお話しようね」
「食事中は、静かに」
満面の笑みで話すと、真顔で答えてきた。
うぅぅ。ルック君は何時だって静かじゃんかぁ。しくしく。
「で、勇者の特徴も分かったし、行き先も見当がついたし」
しかたなくライ君に話を振ると、ルック君が合わせて東を指した。
うんうん。東に向かってるらしいんだよね。
「どうする?」
「その怒りを勇者にぶつけるのも手よ」
ティルが合わせてライ君ににじり寄る。
けどもの凄く嫌な顔をすると、ソッポを向いた。
「嫌だ。こんなトコさっさと出るに限る」
「分かった。じゃぁ、このまま西に行きましょう」
以外にアッサリと納得するティル。
「ティル。それで良いの?」
「せっかく此処まできたのに戻ってもね。それに漏れなく魔物退治付よ」
元の道を戻って、魔物を退治して行って。
うっ。嫌かも。
延々とした道のりを想像して、嫌気がさす。
「うん。分かった。忘れて先行こう」
ルック君は渋い顔をしたけど、三対一で先に行く事になった。
翌朝、太陽が顔を出したと同時に、僕達は勇者の村を後にした。

・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・そういえば。宿のおじさんに話を聞いてないや。・・・怖かったから、ま、いっか。ティルもライ君も忘れてるみたいだし。似たり寄ったりの話しか聞けないだろうしネ(遠目)。
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