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第12章 声の蜜夜
第2話
デートの日、2人は都内の美術館を回ったあと、おしゃれなカフェで軽めのランチをとっていた。
けれど、今日の唯は、どこか様子が違う。
メニューを手にしながらも視線は泳ぎがちで、叶人と目が合えば、すぐに逸らす。
スカートの裾を指で弄ったり、ドリンクのストローをくるくる回したり。いつもより明らかに落ち着きがない。
「……唯ちゃん、今日……なんか、そわそわしてない?」
そう問いかけると、唯ははっとして目を瞬かせた。
「えっ、そ、そうかな……?」
「うん、多分お店に入ってから50回は髪触ってる」
「なっ……そんなに!? うそでしょ……!?」
頬を染めてうつむく唯に、柊は思わず笑ってしまった。
「……もしかして、夜のこと……意識してる?」
「~~~~っ!! そ、それは……っ」
顔を真っ赤にしてしどろもどろになる唯を見て、柊の胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
「可愛い」
「か、からかわないでくださいっ」
「からかってない。本気で言ってる」
ささやくように真顔でそう言われて、唯はさらに真っ赤になった。
(も、もう……っ。叶人くん、ズルい……)
そんな心の声が顔に出ていたのか、叶人がふっと柔らかく笑い、そっとテーブルの下で彼女の手を握った。
「大丈夫。緊張するの、わかってるから。俺も……実はちょっと、してるし」
「えっ、本当に?」
「うん。だから、一緒にドキドキしてよ?」
小さな手をきゅっと握り返されて、唯の胸が高鳴った。
(……ああ、やっぱりこの人が好きだ。好きで、たまらない)
夜のことは、まだちょっとドキドキする。
けれど、それよりも。
――ちゃんと、彼の隣にいたい。
そんな想いが、そっと唯の中で芽吹いていた。
夜になって叶人の自宅へ。
二人分の夕飯を用意して、一緒に並んで座って、話をしながら食事を済ませた。
キッチンで食器を洗っている唯の小さな背中に近づいて、そっと腕を回す。
「ん……?」
「俺、やっておくから。唯ちゃん、お風呂、入ってきな?」
「え、あ……はい……っ」
耳まで真っ赤になったまま、そそくさとバスルームへ向かう唯。
閉まった扉の向こうからは、シャワーの音。
その音だけで、俺の鼓動は激しさを増していった。
(はぁ……俺まで緊張してきた……)
やっと出てきた唯は、部屋着に身を包み、髪はまだ少し湿っている。
(なんだこれ、可愛すぎるだろ……)
叶人は、目の前の愛おしい存在に、ただただ見惚れていた。
「……俺も入ってくるね。ベッドで待ってて」
努めて平静に言いながら立ち上がる。
だけど、バスルームに足を踏み入れた瞬間、脱衣所で崩れ落ちた。
(無理無理無理、マジで無理、冷静を装ってたけど余裕1ミリもない……!!!)
一方の唯は、叶人の言葉を反芻するように、ベッドの上で顔を真っ赤にしていた。彼が浴室から出てくるまで、心臓の音がうるさくて仕方がない。
「唯ちゃん」
「……はい」
叶人は、隣に座る唯の肩に手を添えながら、少しだけ目線を落とした。
「……ねえ、緊張してる?」
唯ははにかみながら、ゆっくりと頷く。
「……うん、ちょっとだけ」
「俺も……結構、緊張してる」
「え……叶人くんが?」
「うん。だって……唯ちゃんが可愛すぎて、見てるだけで心臓がぎゅってなる」
不意に、唯の目が潤む。
「そんな風に言うの、反則だよ……」
「本当のことだから。……唯ちゃん、今日も……可愛い」
そっと手を伸ばし、頬に触れる。
そのまま指先で髪を梳かし、彼女の目元に口づけた。
「キス……してもいい?」
「……うん。して……」
触れるだけのキス。
そこからゆっくりと深くなっていく。
「ん……ぅ……ふ、っ……」
柔らかな唇が何度も吸い合い、舌が絡まり、息が漏れ合うたび、熱がどんどん高まっていく。
唯の指先が、そっと叶人の胸元に添えられる。
「……叶人くんのキス、優しくて、でも……ドキドキする……」
「唯ちゃんの声のほうが……ドキドキさせてくる」
唇を顎先へ、首筋へと滑らせるたび、彼女の息が震える。
「や……っ、そこ、くすぐった……」
「……もっと触れてもいい?」
「……うん」
服の隙間から手を差し入れ、背中に指を滑らせると、柔らかく震える体が抱き締め返してくる。
ゆっくりと彼女をベッドに倒し、そのまま覆いかぶさるように体を重ねた。
「……ねえ、唯ちゃん。緊張、ほぐしてあげたい」
「……叶人くんがしてくれるなら、なんでも……して」
その一言が合図だった。
「……綺麗。本当に、全部……愛しくて、たまんない」
掠れた声でそう囁いた彼の喉が、ごくりと鳴る。
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