ストーカーから逃げたかっただけなのに男に買われるなんて

ちょろぎ

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1 ポストに入れられた物(※R15)

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 なんで、なんでこんなことになっちゃったんだろう。

「あっ⋯、あ、あぁっ、」


 俺はただの大学生だったのに、気が付いたら異世界で知らない男とセックスする羽目になるなんて。



♢♢♢

「ん? なんだこれ」

 学生会館のポストから回収してきたDMから滑り落ちた一通の封筒。
 宛名もない真っ白なそれもDMの類いだと信じ、中身を確かめ思わず息を止めた。

「⋯⋯は?」

 封入されていたのは、俺の写真。
 去年の大学の文化祭。サークルで出店した射的屋の半被を着た俺が笑顔でピースをしている。

 あービックリした。これ、隠し撮りとかだったら怖えけど、明らかにカメラ目線だもんね。

 誰か知り合いが現像してわざわざ届けてくれたのかな。
 ったく、誰だか知らんが名前くらい書いてけよ。無駄に驚いちまったじゃん。

 そんな出来事から数週間後。
 田舎の実家よりすぐにポストがいっぱいになるな、とぼやきながら溜まったDMとチラシの向きを揃えていたら、

「⋯え、また?」

 また、そうまたあの白い封筒が紛れ込んでいたのだ。

「え~⋯、誰のしわざなんだよ」

 手の込んだ悪戯に思えて若干気味の悪さを感じながら中身を確認する。

 同封されていたのは、つい最近参加した飲み会の写真。

 うちのサークルは厳しくて、二十歳にならないと、例え酒を頼まなくても飲み会には参加させてもらえない。
 先月誕生日を迎えた俺はようやく参加することが許されたばかりだった。

「⋯⋯⋯」

 まさかと思い、あとで束ねようとまとめていた数週間分のチラシ類をひっくり返した。

「嘘だろ」

 いくつもいくつも出てくる封筒。なんで今まで気付かなかったんだ。

「これ⋯SNSのスクショか」

 見覚えのない画像。でもそこに写っているのは確かに俺で。

 周りの友人は、俺含め鍵アカウントばかりだ。
 全員が全員そうじゃないとはわかっているが、じゃあこの画像はどこの誰のアカウントから見つけてきた物なんだろう。

 相互フォローしてる奴の投稿は一応全部見ている。それでも覚えがないという事は俺でも把握していない奴のアカウントって事になる。

 と言っても写っているのは俺だけじゃない。むしろメインの被写体の後ろに写ってしまった存在だ。
 談笑している横顔。こうやってまじまじと見なければ俺も気付かない程小さい。

 こんなどこにでもいるただの男子大学生に何考えてるんだろう。気持ち悪。





「なあ、お前、俺ん家に写真入れた?」

 授業の合間の空きコマ。
 一服したいと言う友人に付き合い喫煙ルームに入る。二人きり。周りに聞かれたく無い会話をするのにうってつけの環境だ。

「⋯大学きたら直接会えるのに、わざわざそんな事するか」

 だよなー。誰に聞いても同じような答えしか返ってこない。

「つうかお前ん家の部屋番号も知らんわ」

 そう。俺が住んでる学生会館はまあまあ厳しくて、部屋に入れるのは家族のみ。
 知り合いは玄関ロビーまでって決まってるんだよね。

 管理人さんの目を盗んで友達や彼女を連れ込んでる奴もいるけど、バレた時が怖いから俺はやんない。

 だから俺の部屋番号を知ってる人はほぼいない。
 それなのにあの封筒は俺のポストに入れられていた。
 そんな当たり前に今更気付いて、鼓動が速くなった。

「つか何、写真て?どゆ事?」

 今までの経緯を軽く説明するとソイツは
「えー?ストーカーかよ怖!え、でもさ、もしそいつが可愛かったらどうする?!とりあえず付き合っちゃうだろ?!」

と、面白可笑しく笑うもんだから、あれ?あんま深刻な状況じゃないのかもって
「え~?そうかな?そうかも?」
 俺も満更じゃない感じでヘラヘラ笑った。

 そっかぁ、直接話しかけることは恥ずかしいけど、いつも見ています的な感じだったのかな。情熱的に愛されてると考えれば結構嬉しいかも。

 そう、その時の俺は、このストーカーが女だと信じて疑っていなかったのだ。

 もう一度言うが、俺はどこにでもいる普通の大学生で、同性に執着されるなど考えもしなかったのだ。
 だから心にゆとりがあった。
 だって女なら何かあってもどうにかなると思っていたから。

 俺の心にあるのが、ゆとりじゃなくて油断だと気付いたのは、それから数日後の事だ。

 数週間に一度のポスト回収日。
 ごちゃごちゃに突っ込まれたチラシを資源ごみ用に広げながら、白い封筒を取り除く。

 ん?

 封筒の感触がいつもと違うことに違和感を覚えて手を止めた。
 今思えばその時点でゴミ箱に捨てちまえば良かったのに、馬鹿だよ俺は。

 何も考えず手を入れて、明らかに紙とは違う感触を引きずり出し、その正体に呼吸が止まった。

「⋯⋯っ!⋯ヒッ、」

 思いきり掴んでしまったのは、何かをぶっかけたようにカピカピになった俺の写真と、それの答えであろう⋯使用済みのコンドームだった。

「うわっ、⋯うわぁぁぁ!」

 中身が零れないようご丁寧に縛られたゴムを床に叩きつけて洗面所に駆け込んだ。

 水を最大限出して、何度もハンドソープを擦り付ける。

「⋯ッ、やだ⋯やだやだキモすぎる!!」

 手を洗う前に触れてしまったハンドソープのボトルをゴミ箱に投げつけ、ティッシュで指先を乱暴に拭う。

「嘘⋯、なに、なにあれ⋯何で」

 何でストーカーが女だと思い込んでいたんだろう。
 男の可能性も考慮しろよ自分。
 そしたらもう少し慎重になっていたんじゃねぇの。

 腰が抜けてしまい、這うように洗面所から玄関を覗いた。

 当たり前だけど、まだ床にアレが落ちている。
 視界に捉えると匂いまで漂ってくる気がした。

「⋯ッ!うっ⋯⋯!」

 胃液が急激にせり上がって、耐え切れずゴミ箱に吐瀉物をぶちまけた。そこには先程捨てたハンドソープ。

「⋯うぇ、ゲホ⋯おぇっ!」

 湿り気のあるゴムの感触を思い出し、涙が溢れてきた。鼻も痛い。最悪だ。
 ちくしょう、あのゴム、俺がどうにかしなきゃなんねえのかよ。



 要らないバスタオルをゴムの上に投げつけ、ファブリーズと除菌スプレーを噴射。

 軍手の上にビニール手袋を重ね付け。
 顔はマスクを二重にサングラス、髪にはタオルを巻いて、母親に渡されたエプロンを装着して汚物を捕獲した。ギリギリまで伸ばした腕が震える。

 タオルごと見えないようにゴミ袋に押し込みギュッと口を閉じる。
 さらに床には除菌スプレー。
 もったいないけど厚手のタオルでワックスが剥げそうな程磨いた。
 その後さらに大きなゴミ袋に、身につけていた物を全てぶち込み、触れなくてもいいように開けっ放しにしていたバスルームへと直行した。

 あーもう最悪。最悪。
 湯船に浸かりながらも考えるのはストーカーの事。

 まず、ストーカーは直接の知り合いではない。
 寮生かとも考えたが、だとしたら部屋のドアにも付いている新聞受けに入れるだろうし、この部屋のインターホン位は鳴らしそうだ。

 あと写真が大学構内で撮られた物が文化祭のしか無いから、恐らく部外者なんだろう。

 カメラ目線なのは気になったが、あの日は色んな人に声を掛けられたしな。
 それこそ賞品ゲットした小学生とも写真を撮った記憶がある。
 そこから特定するのは難しそうだ。

 一瞬、引越しも考えたが、現実的じゃない。

 この学生会館は管理人常駐、朝食と夕食、家具付な代わりに入寮費が結構かかっていた。
 上京の絶対条件として最低2年は入寮することを両親に約束させられている。
 途中で退寮したら違約金もかかる上、さらに引っ越し代もかかる。

 誰でも投函できるポストに被害があった位で引っ越したいなど泣きつける訳がなかった。
 でもさ、逆に考えると家と大学は安全なんじゃないか?
 このマンションはセキュリティがしっかりしている。
 
「くよくよ悩んでも仕方ねぇか」

 夜道に気をつける。
 封筒は届いたらすぐ捨てる。
 他の人のSNSにも写らないように配慮する。
 そうやっていけばその内飽きてくれるだろう。


 出来る限り自衛しようと、外出する時はマスクにフードや帽子を目深にかぶった。

 量販店のサイズが合わない服を身につければ、無い個性がさらに消える。
 幸い学生寮なだけあって、周りに埋もれるのはとても簡単だった。

 白い封筒はもう部屋にも持ち込まない。

 ポストで回収してそのままゴミステーションに突っ込む。
 ゴミはいつ出しても大丈夫だから、あえて色んな時間に捨てに行く。ストーカーの正体も分からないんだから決まった時間に同じ行動を取るのはよくない。

 都内とは言え、23区じゃないうちは指定のゴミ袋が結構高い。
 だから資源ごみに出来るチラシだけささっと回収して、封筒のみをゴミ袋に詰めればミッションコンプリート。

 最近少し、封筒の届く頻度が増えたか?と思いつつ特に気にしなかった。

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