成金令嬢の幸せな結婚~金の亡者と罵られた令嬢は父親に売られて辺境の豚公爵と幸せになる~

山夜みい

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Side:ジェレミー

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「ねぇ殿下、私たちの婚約披露宴はいつするの?」

 卒業披露宴を終えたジェレミーは婚約者の愛しい声に癒された。
 執務室で健気に仕事が終わるのを待ってくれている彼女に甘い笑みを向ける。

「気が早いね、まずは父上たちに挨拶しなきゃダメだよ」
「分かってるけどぉ。国王陛下からの許可は取ってあるんでしょ? じゃあ大丈夫じゃない?」
「まぁね。だから父さんは問題ない。問題は母上なんだよ」

 そもそもジェレミーとベアトリーチェの婚約を推し進めたのは母なのだ。
 亜人戦争以後、没落寸前だった侯爵家を黒字まで立て直した手腕を認め、侯爵との繋がりを持とうとした母はベアトリーチェとの婚約を進めた。政略結婚とはそういうものだと言うが、そこにジェレミーの意志はなかったし、あんな陰気で金、金、金、とうるさい女と一緒になるなんて冗談じゃなかった。

 どうせなら妹のフィオナのほうが従順で可愛らしくて好みだ。
 しかし、ベアトリーチェはやけに妹を守ろうと動き、近づくことすら出来なかった。

(まぁそのおかげで俺は運命の人と出逢えたわけだ)

 レノアに甘い笑みを向けたジェレミーは言った。

「母上もすぐに説得するから大丈夫だ。そのためにと言っては何だけど、俺と一緒に事業をしないか?」
「まぁ! 殿下と一緒に起業? 私が?」
「あぁ。母はラプラス家の経営手腕に目をつけて婚姻を進めた。つまり、俺たちで起業して彼らを超える成果を見せれば……」
「お義母さまは納得する。私たちはちゃんと結ばれるというわけね!」

 レノアは顔を輝かせてジェレミーに抱き着いて来た。

「素晴らしいわ! ぜひ、私と一緒に起業してくださいませ!」
「あぁ、よろしく頼むよ」

 ジェレミーは笑う。

「幸い、俺には伝手がたくさんある。絶対にうまくいくと思う」

 これまでジェレミーが何かしようとするたびにベアトリーチェの邪魔が入った。

 やれ、今は時期じゃないだの。
 やれ、もう流行は過ぎてるだの。
 やれ、黒字の目算が取れないだの。

(女のくせに何が分かるって言うんだ? この俺を馬鹿にしやがって)

 王妃もベアトリーチェも分かっていない。
 王族の義務とは他者を従え、他人を使って経済を回すことだ。

 血だの家柄だの古い慣習に縛られて子爵家との婚姻を認めないのはナンセンス。
 これまでとは違う、新しい王族の形を示してやる。
 ジェレミーが硬い決意を固めると、レノアがしなだれかかってきた。

「嬉しいわ。殿下と一緒にお仕事ができるなんて……」
「俺もだよ。これまで以上に一緒に居られるからね」
「それで、どんな事業をする予定なの?」
「あぁ。実はかねてから女性向けの化粧品開発を進めていてね」
「まぁ! 化粧品を?」
「うん」

 元々はベアトリーチェが立てた企画なのだが、ジェレミーは口に出さない。
 王族の伝手を利用したくせに経営に口を出してきて主導権を握ろうとしたあの女が悪い。

 尤も、その本人が「慎重に根回しを」などと及び腰になっていたのだから、自分がこの企画を利用しても何の問題もないだろう。

(根回しなんて必要ない。金を配って黙らせればいいんだ)

「君の肌にも合うと思うよ。今度試してみようか」
「ぜひ! 私、とっても楽しみだわ!」

 ジェレミーは明るい未来を信じて疑わなかった。

「よし。じゃあまずはベアトリーチェから慰謝料をふんだくろうか」
「あら。もう五百万ゼリルを請求したのではなくて?」
「あれは契約違反の賠償金だよ。それとはまた別にね」
「まぁ」

 レノアは驚いたように口元に手を当てた。

「……大丈夫ですの?」
「問題ないよ。王族に対する不敬罪ってことにすればいい。実際、俺に不敬を働いたのは事実だしね。今まで母上が見逃していただけで」
「くす。殿下、悪いお人」
「悪い男は嫌いかい?」
「いいえ。善人なだけの男など偽善者と同じですわ。今の殿下のほうが私好みですわね」
「ふふ。ありがとう」

 イチャイチャと、執務室でだべる王子に文官たちは白い目を向けている。
 互いの世界に入っている二人は全く気付かない。

「あの女は王子である俺に婚約破棄なんて手間を取らせてたんだ。逆にお金を貰わないとな! ははっ、はっははははははははははは!」
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