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第三十二話 恐怖の召喚状
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「……遅かったか」
ジェレミー殿下が何者かに殺害された。
執務室に駆けこんできた兵士の報告に、沈痛な空気が満ちる。
元婚約者で、冤罪をかけられたとはいえ……先ほどまで喋っていた人が物言わぬ骸になったと聞いたわたしの気分は良くない。
それに、
「かなりまずい状況です」
痛ましい事件なのは確かだけど浸っているわけにはいかない。
早急に対策を考えないとオルロー公爵領は終わりだ。
「ジェレミー殿下が護衛もつけずに公爵領を訪れたのも問題ですが……オルロー公爵領で死んだことが大問題です。たとえ彼の性質がどうであっても、ジェレミー殿下は王族……」
「王族を死なせた責任を取れって言われちゃうね」
アルは状況を理解しているのか、頭が痛そうな様子だ。
わたしも頭を抱えて寝てしまいたい。本当になんでこんなことに……。
「申し訳ありません、無理やりにでも護衛をつかせるべきでした」
「イヴァールさんのせいではありません。わたしたちの責任です」
「いいや、僕の責任だ。ジェレミーが嫌いすぎてそこまで頭が回らなかった」
「皆さま、今は誰の責任かを論じるよりも対策を立てましょう」
それもそうね。ジキルさんの言う通りだわ。
状況が深刻すぎて現実逃避してしまいたくなるけど。
「……イヴァール。死体の様子は?」
「背中に乱暴な刺し傷が複数。加えて毒です」
「一息に殺さなかったところを見るに、暴漢にも見せかけられそうだね」
「おっしゃる通りです」
「あ、あの」
シェンが恐る恐ると言ったように手を挙げた。
「そもそも、一体誰が殿下を殺したんでしょう? たとえば誰かに暗殺されたとして……公爵領を陥れたいなら他にもやり方は色々あるのでは?」
「実はね、シェン。もう犯人は分かってるのよ」
「え!?」
だからこそ問題なのだけどね。
「一体誰なんですか!?」
「公爵領を愚弄した奴をとっ捕まえてやりましょう!」
シェンとイヴァールさんが身を乗り出す。
わたしはアルと顔を見合わせて、ため息を吐いた。
「王妃様よ」
一拍の沈黙。
直後、驚愕の声が重なった。
「「え!?」」
「だから、王妃様よ。ジョゼフィーヌ・フォン・アウグスト・アストラル様」
「いや、名前は分かりますが……お嬢様……ほんとに!?」
「うぅむ。確かジェレミー殿下は王妃様の実の息子ですよね?」
「実の息子だろうが容赦はしない。あの人はそういう人だよ」
アルからすれば王妃様は伯母にあたる人だ。
わたし以上に彼女の性格を知っているに違いない。
「たぶん僕たちがジェレミーの弱みを握っていることも関係しているんだろうね。先の婚約破棄から彼の評判は下がりに下がっていると聞く。このまま王族の権威を落とすくらいなら、僕たちのところで暗殺したほうが後腐れがないし、徐々に黒字化している僕たちを牽制することも出来る。王族への不満をオルロー公爵領に向けることも出来るし……彼女にとってはいいことづくめだ」
最善策ではあっても最高の策とはいえない。
倫理的な問題が大きすぎる。
普通の人は思いついても絶対にやらない。出来ない。
だけどあの人はやる。
それが一パーセントでも国のためになるなら容赦はしない人だ。
母としての情?
そんなもの、あの王妃にあってたまるか。
「実際問題、どう対策するんですか。これじゃ我々は終わりだ……」
ジキルさんが弱ったように言う。
正直、対策なんてほとんど打つ手がない。
ジェレミー殿下はすでに死んでしまってるし、遺体発見現場を多くの民衆が目撃した。隠蔽なんてするつもりはないけど、この噂は間違いなく王都を駆け巡るだろう。わたしたちに出来るのは死体を調べ上げ、王妃側の策略を読み切り、都合のいい着地点を探すことだけ。
「でも、その着地点が分からないのよね……」
わたしが頭を悩ませていると、
「旦那様、奥様、ただいまこちらが届きまして……」
ジキルさんが侍女から手紙を受け取って来た。
深刻そうな彼が手に持っているのは。
「王妃様からの召喚状です」
ジェレミー殿下が何者かに殺害された。
執務室に駆けこんできた兵士の報告に、沈痛な空気が満ちる。
元婚約者で、冤罪をかけられたとはいえ……先ほどまで喋っていた人が物言わぬ骸になったと聞いたわたしの気分は良くない。
それに、
「かなりまずい状況です」
痛ましい事件なのは確かだけど浸っているわけにはいかない。
早急に対策を考えないとオルロー公爵領は終わりだ。
「ジェレミー殿下が護衛もつけずに公爵領を訪れたのも問題ですが……オルロー公爵領で死んだことが大問題です。たとえ彼の性質がどうであっても、ジェレミー殿下は王族……」
「王族を死なせた責任を取れって言われちゃうね」
アルは状況を理解しているのか、頭が痛そうな様子だ。
わたしも頭を抱えて寝てしまいたい。本当になんでこんなことに……。
「申し訳ありません、無理やりにでも護衛をつかせるべきでした」
「イヴァールさんのせいではありません。わたしたちの責任です」
「いいや、僕の責任だ。ジェレミーが嫌いすぎてそこまで頭が回らなかった」
「皆さま、今は誰の責任かを論じるよりも対策を立てましょう」
それもそうね。ジキルさんの言う通りだわ。
状況が深刻すぎて現実逃避してしまいたくなるけど。
「……イヴァール。死体の様子は?」
「背中に乱暴な刺し傷が複数。加えて毒です」
「一息に殺さなかったところを見るに、暴漢にも見せかけられそうだね」
「おっしゃる通りです」
「あ、あの」
シェンが恐る恐ると言ったように手を挙げた。
「そもそも、一体誰が殿下を殺したんでしょう? たとえば誰かに暗殺されたとして……公爵領を陥れたいなら他にもやり方は色々あるのでは?」
「実はね、シェン。もう犯人は分かってるのよ」
「え!?」
だからこそ問題なのだけどね。
「一体誰なんですか!?」
「公爵領を愚弄した奴をとっ捕まえてやりましょう!」
シェンとイヴァールさんが身を乗り出す。
わたしはアルと顔を見合わせて、ため息を吐いた。
「王妃様よ」
一拍の沈黙。
直後、驚愕の声が重なった。
「「え!?」」
「だから、王妃様よ。ジョゼフィーヌ・フォン・アウグスト・アストラル様」
「いや、名前は分かりますが……お嬢様……ほんとに!?」
「うぅむ。確かジェレミー殿下は王妃様の実の息子ですよね?」
「実の息子だろうが容赦はしない。あの人はそういう人だよ」
アルからすれば王妃様は伯母にあたる人だ。
わたし以上に彼女の性格を知っているに違いない。
「たぶん僕たちがジェレミーの弱みを握っていることも関係しているんだろうね。先の婚約破棄から彼の評判は下がりに下がっていると聞く。このまま王族の権威を落とすくらいなら、僕たちのところで暗殺したほうが後腐れがないし、徐々に黒字化している僕たちを牽制することも出来る。王族への不満をオルロー公爵領に向けることも出来るし……彼女にとってはいいことづくめだ」
最善策ではあっても最高の策とはいえない。
倫理的な問題が大きすぎる。
普通の人は思いついても絶対にやらない。出来ない。
だけどあの人はやる。
それが一パーセントでも国のためになるなら容赦はしない人だ。
母としての情?
そんなもの、あの王妃にあってたまるか。
「実際問題、どう対策するんですか。これじゃ我々は終わりだ……」
ジキルさんが弱ったように言う。
正直、対策なんてほとんど打つ手がない。
ジェレミー殿下はすでに死んでしまってるし、遺体発見現場を多くの民衆が目撃した。隠蔽なんてするつもりはないけど、この噂は間違いなく王都を駆け巡るだろう。わたしたちに出来るのは死体を調べ上げ、王妃側の策略を読み切り、都合のいい着地点を探すことだけ。
「でも、その着地点が分からないのよね……」
わたしが頭を悩ませていると、
「旦那様、奥様、ただいまこちらが届きまして……」
ジキルさんが侍女から手紙を受け取って来た。
深刻そうな彼が手に持っているのは。
「王妃様からの召喚状です」
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