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最終話 わたしが幸せになるまで
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「正直なところ、まだ許せない気持ちもあります」
王都に戻ったわたしたちは葬儀の手配や諸々の手続きを済ませた。
これでラプラス領は取り潰しとなり、王家に接収されるだろう。
貴族街の役所から出てきたわたしは明るい日差しを手のひらで遮った。
「もっと早く相談してくれていたら……あの計画を実行するにしても、わたしに冷たく当たる必要はなかったんじゃないのかとか……考えてもしょうがないことばかり考えてしまう」
「人の心はそう簡単に割り切れない。それでいいんじゃないかな」
「わたし、あなたに対しても怒ってるんですよ?」
わたしは頬を膨らませて見せる。
「元はと言えばアルがお金を用意したなんて嘘つくから……」
「それはしょうがないよ。君だって分かってるだろ?」
「分かってるから怒ってるんです」
理屈で理解しても感情で割り切れないこともある。
王妃様の言う若さを遺憾なく発揮したわたしはアルに腕を絡めた。
「本当に……二人とも馬鹿です。わたしのために、無茶をしすぎです」
お父様はラプラス領を借金のカタにしていた。
これはわたしとラプラス領を完全に切り離すためだろうけれど、これだって一歩間違えばバレて逮捕されてもおかしくない案件だ。銀行の送金についても、賄賂を握らせて送金記録を偽造させるなんて詰めが甘すぎる。わたしが計画に噛んでいたら記録を偽造させた人に金を握らせて国外に飛ばすくらいはやっていた。
「敵を騙すには味方から、お姉様がよく言っているやつですわね!」
フィオナが元気に言ってその場を和ませる。
瞼が赤く腫れあがっているのはお互い様だから、何も言わない。
「お父様は確かに賢くはありませんでしたけど、愚か者ではありませんでした。考えて考えて考え抜いて、ジョゼフィーヌ様を出し抜いたんだと思います。だから、お葬式で盛大に見送ってあげましょう。これから忙しくなりますよ、お姉様!」
殊更に明るく振る舞っているフィオナが愛おしい。
自分だって辛いはずなのに、わたしを元気づけようとしてくれるなんて。
馬車に乗り込んだわたしは隣に座るフィオナの頭を撫でた。
「これからは一緒に暮らせるわね。貴族院を卒業して、お嫁に行くまでだけど」
「えへへ。お姉様と一緒のベッドで寝ます!」
「もう。子供じゃないんだから」
言いつつも、満更でもないわたしである。
妹が甘えてくれるのは、やっぱり嬉しいのだ。
「僕ともまだ一緒のベッドじゃないのに……なんだか嫉妬しちゃうな」
「まぁお義兄様。今までお姉様と一緒にいながらまだ手を出していらっしゃらないんですか? 失礼ですがちゃんとついていらっしゃいますか?」
「フィ・オ・ナ?」
あ。とフィオナは口を開けた。
わたしはにっこりと笑って窘める。
「淑女がそんな下品な言い方をするものじゃありません。貴族院の悪童たちの影響でしょうけれど……こういう時は、もっと遠回しに言うのよ。例えば、目の前に御馳走があるのに手を出さない慎み深い性格……みたいにね」
「なるほど。勉強になります、お姉様」
うんうんと頷くフィオナにアルは苦笑いだ。
「ベティの英才教育か。将来が楽しみだね」
「当然です! 私、お姉様の妹ですから!」
「違いない」
アルはくすくすと笑ってわたしの手を持ち上げた。
「でもたまには、旦那のことも思い出してくれると嬉しいかな?」
手の甲に軽い口づけを落として茶目っぽく笑うアル。
妹の前で求愛する夫にわたしは顔が熱くなった。
「ば、馬鹿。アルは毎日一緒じゃないですか」
「ふふ。これからも離さないよ?」
「当然です。ちゃんと振り落とされないように付いて来てください」
「……それ、普通逆じゃないかな?」
「ふふ。領地に帰ったら、まだまだやりたいことがたくさんありますから」
わたしとアルは王都に行ったときに正式に籍を入れた。
結婚式はまだだけれど、これでようやく夫婦になれたというわけだ。
公爵夫人になったからには領地の経営にがんがん口を出していくつもりである。
「水道事業に、他領との貿易、魔獣製品の輸出に、亜人族の教育……うふふ。じゃんじゃん稼いでいきましょうね」
「あぁ、頼りにしているよ。僕も君の側で頑張るから」
「はい」
王妃との戦いが終わったわけではない。
まだまだやることは多いし、これからもきっと大変なことが待っているだろう。
それでもわたしは──
「これからもずっと一緒に居てくださいね、旦那様」
わたしは、めいっぱいの幸せを感じて笑うのだった。
王都に戻ったわたしたちは葬儀の手配や諸々の手続きを済ませた。
これでラプラス領は取り潰しとなり、王家に接収されるだろう。
貴族街の役所から出てきたわたしは明るい日差しを手のひらで遮った。
「もっと早く相談してくれていたら……あの計画を実行するにしても、わたしに冷たく当たる必要はなかったんじゃないのかとか……考えてもしょうがないことばかり考えてしまう」
「人の心はそう簡単に割り切れない。それでいいんじゃないかな」
「わたし、あなたに対しても怒ってるんですよ?」
わたしは頬を膨らませて見せる。
「元はと言えばアルがお金を用意したなんて嘘つくから……」
「それはしょうがないよ。君だって分かってるだろ?」
「分かってるから怒ってるんです」
理屈で理解しても感情で割り切れないこともある。
王妃様の言う若さを遺憾なく発揮したわたしはアルに腕を絡めた。
「本当に……二人とも馬鹿です。わたしのために、無茶をしすぎです」
お父様はラプラス領を借金のカタにしていた。
これはわたしとラプラス領を完全に切り離すためだろうけれど、これだって一歩間違えばバレて逮捕されてもおかしくない案件だ。銀行の送金についても、賄賂を握らせて送金記録を偽造させるなんて詰めが甘すぎる。わたしが計画に噛んでいたら記録を偽造させた人に金を握らせて国外に飛ばすくらいはやっていた。
「敵を騙すには味方から、お姉様がよく言っているやつですわね!」
フィオナが元気に言ってその場を和ませる。
瞼が赤く腫れあがっているのはお互い様だから、何も言わない。
「お父様は確かに賢くはありませんでしたけど、愚か者ではありませんでした。考えて考えて考え抜いて、ジョゼフィーヌ様を出し抜いたんだと思います。だから、お葬式で盛大に見送ってあげましょう。これから忙しくなりますよ、お姉様!」
殊更に明るく振る舞っているフィオナが愛おしい。
自分だって辛いはずなのに、わたしを元気づけようとしてくれるなんて。
馬車に乗り込んだわたしは隣に座るフィオナの頭を撫でた。
「これからは一緒に暮らせるわね。貴族院を卒業して、お嫁に行くまでだけど」
「えへへ。お姉様と一緒のベッドで寝ます!」
「もう。子供じゃないんだから」
言いつつも、満更でもないわたしである。
妹が甘えてくれるのは、やっぱり嬉しいのだ。
「僕ともまだ一緒のベッドじゃないのに……なんだか嫉妬しちゃうな」
「まぁお義兄様。今までお姉様と一緒にいながらまだ手を出していらっしゃらないんですか? 失礼ですがちゃんとついていらっしゃいますか?」
「フィ・オ・ナ?」
あ。とフィオナは口を開けた。
わたしはにっこりと笑って窘める。
「淑女がそんな下品な言い方をするものじゃありません。貴族院の悪童たちの影響でしょうけれど……こういう時は、もっと遠回しに言うのよ。例えば、目の前に御馳走があるのに手を出さない慎み深い性格……みたいにね」
「なるほど。勉強になります、お姉様」
うんうんと頷くフィオナにアルは苦笑いだ。
「ベティの英才教育か。将来が楽しみだね」
「当然です! 私、お姉様の妹ですから!」
「違いない」
アルはくすくすと笑ってわたしの手を持ち上げた。
「でもたまには、旦那のことも思い出してくれると嬉しいかな?」
手の甲に軽い口づけを落として茶目っぽく笑うアル。
妹の前で求愛する夫にわたしは顔が熱くなった。
「ば、馬鹿。アルは毎日一緒じゃないですか」
「ふふ。これからも離さないよ?」
「当然です。ちゃんと振り落とされないように付いて来てください」
「……それ、普通逆じゃないかな?」
「ふふ。領地に帰ったら、まだまだやりたいことがたくさんありますから」
わたしとアルは王都に行ったときに正式に籍を入れた。
結婚式はまだだけれど、これでようやく夫婦になれたというわけだ。
公爵夫人になったからには領地の経営にがんがん口を出していくつもりである。
「水道事業に、他領との貿易、魔獣製品の輸出に、亜人族の教育……うふふ。じゃんじゃん稼いでいきましょうね」
「あぁ、頼りにしているよ。僕も君の側で頑張るから」
「はい」
王妃との戦いが終わったわけではない。
まだまだやることは多いし、これからもきっと大変なことが待っているだろう。
それでもわたしは──
「これからもずっと一緒に居てくださいね、旦那様」
わたしは、めいっぱいの幸せを感じて笑うのだった。
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