冤罪令嬢は信じたい~銀髪が不吉と言われて婚約破棄された子爵令嬢は暗殺貴族に溺愛されて第二の人生を堪能するようです~

山夜みい

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第四十二話 挑発と自供

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「あ、アンタは死んだはずよ!」
「相変わらず視野が狭いわね、エミリア。私はこうして生きてるわ」

 影武者、である。
 恐怖に揺れるエミリアの顔を、私は映像眼鏡モノクルを通して見ていた。
 王城の廊下で見えているアイリは魔術で幻覚を見せているリーチェだ。
 リーチェがつけている映像眼鏡が私のものと繋がっている。

『こちらハウンド2。標的が喰いつきましたです♪』
『ハウンド3。作戦区域周辺の人払いを完了しました』
『了解。アイリ、そのままいけるか』
「はい!」

 私が今いるのは王都にある屋敷の地下。
 たくさんの魔道具が並べられている小部屋である。
 なんだか秘密基地みたいでちょっぴりワクワクしている。

 目の前の机には四つの水晶が並んでいて、私はそのうちの一つ、音を届ける水晶に触れた。

「ねぇエミリア。最近身の回りで不思議なことはなかった?」
「……っ!」

 エミリアは愕然と目を見開いた。

「まさか、あれはあんたが……!?」
「えぇ、そうよ」

 厳密にはシン様の部下がやったことだけど。

「どう? 楽しんでいただけたかしら?」
「楽しむですって……!?」

 憎々しげに、彼女は吐き捨てた。

「ふざけんじゃないわよ! あんたのせいでわたしがどんな目にあったかもしれないで! 肌は荒れるし隈もとれないしできものも出来るし、言い寄った男には逃げられるし! 散々よ! あんたのせいだと分かっていたら、今すぐ殺しに行ってたのに!」
「そう」

 以前までの私なら萎縮してしまっていたであろう罵倒。
 社会的に殺された今では、何にも響かなかった。

「でもそれって自業自得じゃない?」
「誰が……っ」
「うふふ。ねぇエミリア。久しぶりに遊びましょうよ。鬼さんこちら♪」
「──ッ、待ちなさいッ!!」

 このところ不眠に悩まされているらしいエミリアは私を追ってきた。
 厳密にいえば私という幻像を自己に投影?したリーチェだけど。
 魔術のことは詳しくないからよく分からない。

『ハウンド2、標的を誘導しておりますです』
『こちらハウンド1、そのまま標的を引き付けろ。アイリ、君の出番だ』
「はい」

 この作戦の要は私だとシン様は言っていた。
 私は息を吸い込んで、頭のなかで選び抜いた言葉を舌に乗せる。

「ねぇ、エミリア・クロック。あなた、商談に失敗したんですって?」
「……っ、なんでそれを」

 ここ最近のあなたの動向はシン様に聞いたからね。

「失敗続きね。婚約破棄に続いて商談も失敗。ばっかみたい」
「な」
「あーあ、

 その一言に、エミリアの顔がはっきり変わった。

「ふっざけんなッ!!! ありえないんですけど!!」

 目の前にいたら思わず竦んでしまいそうな怒声。
 直接会うことも進言したのだけどシン様が却下した理由が分かった。
 怒りと憎しみにかられた人間というのは、ちょっと……怖い。

「あんたはいつもそう! 上から目線で私を見下して! 澄ました顔で正解を導き出す! わたしがどんな思いで努力しているかまったく知らないくせに!!」
「……」
「同じ子爵令嬢のくせに成績は上だし、見た目は綺麗だし、何の努力もしていないくせに、わたしにないもの全部持ってる!! ずっと前からうざったくてたまらなかったのよ! 根暗なあんたに声をかけたのはわたしなのに! 惨めでたまらなかった!」
「だから、アイリ・カランドを殺そうとしたの?」
「えぇ、そうよ」

 エミリアは悪びれずに言った。

「わざと流行を外したドレスを勧めた。影であなたが潰れるように取り巻きを使って寮の壁に落書きをさせた。教科書を隠した。ドレスを引き裂いた。私に惚れてる第三王子と婚約させた。ぜーんぶ、あんたを絶望させて殺すためよ!!」

 息を切らしながら、エミリアはおのれの犯罪を自供する。
 相手に嫉妬して自分を高めることなく、ただ相手を蹴落とそうとする精神性。
 かつて親友だと思っていた女の子の本性に私は言葉を失っていた。

(……こんな人だったんだ)

 胸の中に冷たいなにかが広がっていくのが分かった。
 なんというか。救いようがない人を見た時ってこんな気持ちになるのね。

「もう一度、殺してやる」

 エミリアはどすの効いた声で言った。

「このわたしが、今度こそあんたを殺してやるわよ! アイリ・ガラント!!」
「──誰が、誰を殺すって?」
「ぇ」

 いつの間にか、目標地域まで来ていたようだ。
 王城の数ある尖塔の一つ。
 第二塔の頂上。王都を見渡せる場所。

「あなたは」
「アイリ・ガラント……いや、アイリ・アッシュロードは我が妻だ」
「……っ」

 黒い外套に身を包んだシン様はアイリリーチェを抱き寄せて言った。

「彼女を殺すなら、この俺、シン・アッシュロードが相手になろう」
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