43 / 46
第四十二話 挑発と自供
しおりを挟む「あ、アンタは死んだはずよ!」
「相変わらず視野が狭いわね、エミリア。私はこうして生きてるわ」
影武者、である。
恐怖に揺れるエミリアの顔を、私は映像眼鏡を通して見ていた。
王城の廊下で見えているアイリは魔術で幻覚を見せているリーチェだ。
リーチェがつけている映像眼鏡が私のものと繋がっている。
『こちらハウンド2。標的が喰いつきましたです♪』
『ハウンド3。作戦区域周辺の人払いを完了しました』
『了解。アイリ、そのままいけるか』
「はい!」
私が今いるのは王都にある屋敷の地下。
たくさんの魔道具が並べられている小部屋である。
なんだか秘密基地みたいでちょっぴりワクワクしている。
目の前の机には四つの水晶が並んでいて、私はそのうちの一つ、音を届ける水晶に触れた。
「ねぇエミリア。最近身の回りで不思議なことはなかった?」
「……っ!」
エミリアは愕然と目を見開いた。
「まさか、あれはあんたが……!?」
「えぇ、そうよ」
厳密にはシン様の部下がやったことだけど。
「どう? 楽しんでいただけたかしら?」
「楽しむですって……!?」
憎々しげに、彼女は吐き捨てた。
「ふざけんじゃないわよ! あんたのせいでわたしがどんな目にあったかもしれないで! 肌は荒れるし隈もとれないしできものも出来るし、言い寄った男には逃げられるし! 散々よ! あんたのせいだと分かっていたら、今すぐ殺しに行ってたのに!」
「そう」
以前までの私なら萎縮してしまっていたであろう罵倒。
社会的に殺された今では、何にも響かなかった。
「でもそれって自業自得じゃない?」
「誰が……っ」
「うふふ。ねぇエミリア。久しぶりに遊びましょうよ。鬼さんこちら♪」
「──ッ、待ちなさいッ!!」
このところ不眠に悩まされているらしいエミリアは私を追ってきた。
厳密にいえば私という幻像を自己に投影?したリーチェだけど。
魔術のことは詳しくないからよく分からない。
『ハウンド2、標的を誘導しておりますです』
『こちらハウンド1、そのまま標的を引き付けろ。アイリ、君の出番だ』
「はい」
この作戦の要は私だとシン様は言っていた。
私は息を吸い込んで、頭のなかで選び抜いた言葉を舌に乗せる。
「ねぇ、エミリア・クロック。あなた、商談に失敗したんですって?」
「……っ、なんでそれを」
ここ最近のあなたの動向はシン様に聞いたからね。
「失敗続きね。婚約破棄に続いて商談も失敗。ばっかみたい」
「な」
「あーあ、私だったらもっと上手くやれたのに」
その一言に、エミリアの顔がはっきり変わった。
「ふっざけんなッ!!! ありえないんですけど!!」
目の前にいたら思わず竦んでしまいそうな怒声。
直接会うことも進言したのだけどシン様が却下した理由が分かった。
怒りと憎しみにかられた人間というのは、ちょっと……怖い。
「あんたはいつもそう! 上から目線で私を見下して! 澄ました顔で正解を導き出す! わたしがどんな思いで努力しているかまったく知らないくせに!!」
「……」
「同じ子爵令嬢のくせに成績は上だし、見た目は綺麗だし、何の努力もしていないくせに、わたしにないもの全部持ってる!! ずっと前からうざったくてたまらなかったのよ! 根暗なあんたに声をかけたのはわたしなのに! 惨めでたまらなかった!」
「だから、私を殺そうとしたの?」
「えぇ、そうよ」
エミリアは悪びれずに言った。
「わざと流行を外したドレスを勧めた。影であなたが潰れるように取り巻きを使って寮の壁に落書きをさせた。教科書を隠した。ドレスを引き裂いた。私に惚れてる第三王子と婚約させた。ぜーんぶ、あんたを絶望させて殺すためよ!!」
息を切らしながら、エミリアはおのれの犯罪を自供する。
相手に嫉妬して自分を高めることなく、ただ相手を蹴落とそうとする精神性。
かつて親友だと思っていた女の子の本性に私は言葉を失っていた。
(……こんな人だったんだ)
胸の中に冷たいなにかが広がっていくのが分かった。
なんというか。救いようがない人を見た時ってこんな気持ちになるのね。
「もう一度、殺してやる」
エミリアはどすの効いた声で言った。
「このわたしが、今度こそあんたを殺してやるわよ! アイリ・ガラント!!」
「──誰が、誰を殺すって?」
「ぇ」
いつの間にか、目標地域まで来ていたようだ。
王城の数ある尖塔の一つ。
第二塔の頂上。王都を見渡せる場所。
「あなたは」
「アイリ・ガラント……いや、アイリ・アッシュロードは我が妻だ」
「……っ」
黒い外套に身を包んだシン様はアイリを抱き寄せて言った。
「彼女を殺すなら、この俺、シン・アッシュロードが相手になろう」
21
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』
ふわふわ
恋愛
了解です。
では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。
(本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です)
---
内容紹介
婚約破棄を告げられたとき、
ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。
それは政略結婚。
家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。
貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。
――だから、その後の人生は自由に生きることにした。
捨て猫を拾い、
行き倒れの孤児の少女を保護し、
「収容するだけではない」孤児院を作る。
教育を施し、働く力を与え、
やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。
しかしその制度は、
貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。
反発、批判、正論という名の圧力。
それでもノエリアは感情を振り回さず、
ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。
ざまぁは叫ばれない。
断罪も復讐もない。
あるのは、
「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、
彼女がいなくても回り続ける世界。
これは、
恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、
静かに国を変えていく物語。
---
併せておすすめタグ(参考)
婚約破棄
女主人公
貴族令嬢
孤児院
内政
知的ヒロイン
スローざまぁ
日常系
猫
『胸の大きさで婚約破棄する王太子を捨てたら、国の方が先に詰みました』
鷹 綾
恋愛
「女性の胸には愛と希望が詰まっている。大きい方がいいに決まっている」
――そう公言し、婚約者であるマルティナを堂々と切り捨てた王太子オスカー。
理由はただ一つ。「理想の女性像に合わない」から。
あまりにも愚かで、あまりにも軽薄。
マルティナは怒りも泣きもせず、静かに身を引くことを選ぶ。
「国内の人間を、これ以上巻き込むべきではありません」
それは諫言であり、同時に――予告だった。
彼女が去った王都では、次第に“判断できる人間”が消えていく。
調整役を失い、声の大きな者に振り回され、国政は静かに、しかし確実に崩壊へ向かっていった。
一方、王都を離れたマルティナは、名も肩書きも出さず、
「誰かに依存しない仕組み」を築き始める。
戻らない。
復縁しない。
選ばれなかった人生を、自分で選び直すために。
これは、
愚かな王太子が壊した国と、
“何も壊さずに離れた令嬢”の物語。
静かで冷静な、痛快ざまぁ×知性派ヒロイン譚。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。
コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。
だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。
それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。
ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。
これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。
【完結】聖女を愛する婚約者に婚約破棄を突きつけられましたが、愛する人と幸せになります!
ユウ
恋愛
「君には失望した!聖女を虐げるとは!」
侯爵令嬢のオンディーヌは宮廷楽団に所属する歌姫だった。
しかしある日聖女を虐げたという瞬間が流れてしまい、断罪されてしまう。
全ては仕組まれた冤罪だった。
聖女を愛する婚約者や私を邪魔だと思う者達の。
幼い頃からの幼馴染も、友人も目の敵で睨みつけ私は公衆の面前で婚約破棄を突きつけられ家からも勘当されてしまったオンディーヌだったが…
「やっと自由になれたぞ!」
実に前向きなオンディーヌは転生者で何時か追い出された時の為に準備をしていたのだ。
貴族の生活に憔悴してので追放万々歳と思う最中、老婆の森に身を寄せることになるのだった。
一方王都では王女の逆鱗に触れ冤罪だった事が明らかになる。
すぐに連れ戻すように命を受けるも、既に王都にはおらず偽りの断罪をした者達はさらなる報いを受けることになるのだった。
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜
咲月ねむと
恋愛
伯爵令嬢のエリアーナは、婚約者である王太子から「地味でつまらない」と、大勢の前で婚約破棄を言い渡されてしまう。
全てを失い途方に暮れる彼女を拾ったのは、隣国からやって来た『氷の悪魔』と恐れられる冷徹公爵ヴィンセントだった。
「お前から、腹の減る匂いがする」
空腹で倒れかけていた彼に、前世の記憶を頼りに作ったささやかな料理を渡したのが、彼女の運命を変えるきっかけとなる。
公爵領で待っていたのは、気難しい最強の聖獣フェンリルや、屈強な騎士団。しかし彼らは皆、エリアーナの作る温かく美味しい「お弁当」の虜になってしまう!
これは、地味だと虐げられた令嬢が、愛情たっぷりのお弁当で人々の胃袋と心を掴み、最高の幸せを手に入れる、お腹も心も満たされる、ほっこり甘いシンデレラストーリー。
元婚約者への、美味しいざまぁもあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる