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明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家

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6『スパイ大作戦』

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 翌日から、先輩に対する『覆面捜査』が始まった。
 とはいっても僕とクーちゃんの顔は先輩に割れているので、できることは少ない。
 まずは、先輩の生態を観察してみることにする。

 この会社――帝国電電公社の始業時間は9時。
 8時30分にはパラパラと出社し始めて、深夜組との引継ぎを行う。
 9時、始業。
 先輩は、未だ来ず。

 10時になって、先輩、ようやくの皇帝出勤(語録4章2節)。
『お腹に優しい』と評判の漢方茶を淹れて、優雅にティータイム。
 机の上に積み上がっている回覧書類をパラパラっとめくって、僕の方へぽい。

「ちゃんと読んでますか、先輩?」
「読んでるし」

 お茶を飲みほした後、無線型オルゴールを耳にはめて、いざ業務開始。

 ……例の、1秒に1回クリックして、ひたすらログメールを開封していく作業だ。
 足組んで頬杖ついて、でっっっっっをデスクに乗せてひたすらクリック、クリック、クリック。
 ログメールには一通で数百文字から千文字近くの文字列が敷き詰められている。
 先輩は眠そうな目をしてログを眺めているが、絶対に中身なんて理解してるはずがない。

 そりゃ、昨日みたいにたまたま有用なログを見つけることは出来るかもしれないけど……。
 そんな博打みたいなことに時間を割くよりも、電話を取ってほしい。
 今日も今日とて、何百台もの電話がずーっとなり続けているのだ。

 電話を取りながら先輩を観察していると、その小さな鼻先がひくひくと動いて、

「くぁぁ……」

 あくび。
 こ、この女……!!

 ふと隣を見れば、クーちゃんが射殺しそうな目で先輩を睨んでいる。
 こ、怖いよ……。

 10時30分、先輩が席を立つ。

「行くよ、ルーくん」

 後をけるつもりなのだ。
 僕がクーちゃんに手を引かれながら女の子の手の感触にドキドキしていると、

「ちょっと君たち!」

 課長に呼び止められた。

「班ごと抜けられると困るよ」

「ごめんなさい!」

 クーちゃんが怒濤の勢いで謝罪する。

「漏れそうなんです! もう本当に、限界なんです!」
「ぼ、僕も!」

「仕方ないなぁ……」

 オペレーションルームを出ると、スタスタと歩く先輩の後姿が見えた。
 歩くのが早い――というか小走りだ。
 それにしても先輩、ちっこいなぁ……座ってると分からないけど、先輩の背丈は僕より頭一つ分低い。

 ――あ、先輩が通路の角を曲がった!

「追いかけるよ!」
「うん!」

 慌てて角を曲がる。
 が、

「「い、いない……」」

 先輩は、実はニンジャ(語録4章2節)だった!?
 汚いさすがニンジャ汚い(語録4章2節)。








   ◆   ◇   ◆   ◇








 仕方なく席に戻ると、ほどなくして先輩も戻ってきた。
 が、11時15分に再び離席。
 僕とクーちゃんが同時に席を立つと、

「ちょっと君たち!」

 と課長。
 やむを得ず、僕だけが尾行することになった。

 今度は見失わないように気を付けてる。
 が、先輩は最初の角を曲がった瞬間、ニンジャのごとくシュババババっと走り始めて、迷路のようになっている基地内を縦横無尽に駆け巡る。
 基地内は、『ように』ではなく、事実迷路になっている。
 敵がここまで侵攻してきた場合に備えての設計だ。
 そんな迷路の中で先輩と追いかけっこをすることしばし。
 ……やがて僕は、先輩を見失ってしまった。

「はぁ~~~~……」

 深いため息とともに自席に戻ると、先輩はすでに戻っていた。
 優雅にお茶を飲んでいる。

「どったの、ルーっち?」

「何ですか『っち』って……何でもありませんよ」

 まさか、『貴女を尾行してました』とは言えない。








   ◆   ◇   ◆   ◇








 12時になればお昼タイム。
 魔力を流すと発熱する戦闘糧食のスープに舌鼓を打っていると、容赦なく電話が鳴る。

「はい、はい――ご武運を」

 僕が受話器を置くと、

「ルーくん」

 先輩が、ちょいちょいっと僕の袖を引っ張ってきた。
 強烈な胸と、めちゃくちゃに可愛い上目遣い。

「これ、温めて」

 差し出されたのは、上級糧食のカップラーメン(語録10章1節)だ。

「自分でやってくださいよ」

「あーし、魔法使えないって言ってるでしょ?」

「電話取ってくれたら考えますよ」

「やーだよ、お昼休みまで仕事するとか。社畜か」

「シャチ……? 先輩には愛国心ってものがないんですか?」

「あるわけないじゃん、そんなの」

 珍しく、先輩が顔をしかめる。
 いつもひょうひょうとしている先輩が感情を表に出すのは、本当に珍しい。

「教室ごと召喚されて、閉じ込められて。拉致監禁よ? 拉致監禁!」

 ぷりぷりと怒っている。

「勇者認定や聖女認定されたアイツらはまだしも、あーしなんて『ゼロスキル』認定されて即ぽい、よ。地球に送り返せって何度言っても、それはムリ、の一点張りだし。こんなクソみたいな国、恨みしかねーわ。だーれがゼロスキルよ。うっせーうっせーうっせーわ!」

「???」

 また、これだ。
 先輩は時々、訳の分からないことを言う。
 ふと隣を見れば、クーちゃんもまた、不思議そうに首を傾げていた。

 午後も、午前中と同じ感じ。
 先輩は1時間に1回かそれ以上のペースで離籍しては姿をくらました。
 どこで、何をしているのだろう?
 まさか本当に、バグ寄せの香木をあちらこちらに仕込んでいるのだろうか……。








   ◆   ◇   ◆   ◇








 ――そんな風にして、3日が過ぎた。
 何度尾行しても、毎回巻かれてしまった。
 幸いにして、先輩は僕たちが先輩を疑い、尾行していることに気付いていないようだった。

 状況が変わったのは、4日目のこと。
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