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第一章 ―魔界最弱の厄災と人間界最強の少女―

新魔王様、とりあえず紹介する

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『ふぁはっはっは!! よく来たな勇者よ、しかし今日が貴様の命日よ! ふはははは! ……んんっ、もっと威厳を出すべきかな?』
 
 とりあえず、こんな感じでいいのでしょうか、魔王って。
 なにせ魔王に就任して日が浅いのです、そもそも先代魔王が辞任して三日目でございます、つまり二日前、


『ちょっとやることができたから、後は任すわー』


 なんて唐突に言って、次の日には消えやがったのです、魔界を出やがったんです、あのバカ、いえ先代魔王様。

 そもそもなぜ俺なのでしょうか、自慢じゃないですが俺は貧弱です、先代魔王に比べたら、それはもう弱い弱い、城の番兵以下! 得意な事は料理、裁縫、掃除、洗濯、ペットの世話と少しばかりかじった魔法ぐらいなものです。

 そもそも魔王とは交代とか滅多にしないんです! 不死だから! 死なないから!  無駄に強いから! やられちゃったりしないんですよ、これが。

 半永久的に一人の有機生命体が君臨し続けるんです、なんてったって魔王ですから!

 だから統治してる間が長い分、そもそも家臣やら他の貴族やらは先代魔王様しか崇拝しないんです! 信頼してないんです! それだけのカリスマ性がある先代魔王様だったんです。

 てか先代魔王様、無駄に長生きなもんだから、今や家臣なんて最初の就任から何世代も続いてきた由緒正しき家系の方々ばかり、近親交配しまくりのサラサラのサラブレットばかり! 近親兄妹交配貴族ノーヴルセックスファミリーなんです!

 打って変わって我が家、そもそもは魔王様の小間使いから始まった小さな小さな家系です。
 
 元々は立派な悪魔の血筋だとは聞いています、まぁそれも昔の話です。

 珍しい事に我が家は近親交配とかダメなお家だったんです、ダメよ私達兄妹なのよってことで、お外でお嫁さんやお婿さんをもらいながら、細々と続けてきた家系なのです。

 先代魔王様は俺の爺さんの頃から知ってるとかじゃないんですよ、ひいひいひいひいひいひい爺さんぐらいから知ってるんですよ、もう俺の世代なんて途中で色んな血筋が混ざり過ぎちゃってハーフとかクォーターとかじゃないんです、100種類の野菜が交ざったミックスジュース状態!  色んな雄と雌が世代が変わるごとに交ざって交ざって交ざりまくって、魔族の血なんて一滴ぐらいしか残ってないんです!

 なのに、なのにですよ?
 いきなり『お前、明日から魔王な』ですって。
 それで今まで魔王様を崇拝してきた家臣が納得すると思います?

 いや、しちゃったんですよこれが、だから問題なんですよ、これから。

 じゃぁなんで納得したかと言うとですね、先代魔王様ったら、最後にこう書き置きしたんですね。

『次の魔王に逆らったらぶっ殺す、家族も潰す、家も潰す、マジでーす』 

 マジでーバカじゃないの? あ、いえバカじゃない、いやバカだけどこれが魔王様なんです、本当に。

 やっちゃうんです、やるといったらそれが簡単にできるのです、あのバカ先代魔王様。
 それで書き置きが見つかった次の日から魔王の椅子に座りました。

 バカでっかい椅子です、椅子というか、もうちょっとした広場です。
 で、そんな広場にチョンと座った俺を家臣達がどんな目で俺を見ているかというと、


『ちっ』


 魔王の間に来て報告をする度に舌打ちです。
 えぇそりゃもう、盛大な舌打ちです。


『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』


 ハイハットで8ビートかよってくらいの舌打ちの嵐。

 それもそのはず、俺の見た目は魔族ぽさなんて微塵もないのです。
 雄々しい角も無ければ、ドラゴンのような翼も無い、全てを嚙み砕く牙もありません。

 見た目がですね、言いづらいのですが、『人間』ぽいんです俺、よりにもよって。

 黒髪、黒目、浅黒い肌、オマケに全長180セルチのおチビさん、細い腕、細い腰、細い首、細い足、もうお分かりですね、グロテスクなんです、俺、人間にそっくりなんです。

 親父がですね、変態だったんです、もうどうしようも無い異常性癖者。

 俺もね、リザード族とか、ギガンテス族とか、ワーウルフ族とかの女の子に手を出しちゃうまでは自由恋愛の時代ですし、いいんじゃない? って思いますよ。

 でもよりにも、よりにもよってですよ、一族でぶっちぎりの異常性癖の持ち主だった親父はヒューマン族との間に子供を作っちゃったんです。


 ヒューマン、人間ですよ、あの人間。


 あのどこに住んでるかも分からない、一匹見かけたら千匹の人間!
 台所にカサカサ現れてご婦人大絶叫の、あの黒光りする人間!
 プシュっと吹き付けて5秒で抹殺ヒュマジェットはどのご家庭でも生活の必須アイテム!

 普通ヤリますか? 人間と……、いやぁもうマジでありえない親父。

 もう想像するだけでも恐ろしい、いや、うっぷ、ごめんなさい、オカンの顔を思い出しちゃって、うっぷ、おかんと親父がベッドで、うっぷ……、ごめんなさい無理です。

 そうなんです、オカンが人間なんです、俺。

 赤ちゃんの頃はそんな事もしらないで、あのおっぱ、うっぷ……おっぱ……に、うっぷ、しゃぶりついて……ダメです、当時飲んだ母乳を今吐きそうです。

 深く考えるのを止めよう、こんな時はそう、昨日こっそり買った『爆複乳ミノちゃん特集、下から三番目が一番イイのっ!!』を思い出して記憶の上書きをします。やっぱり副乳頭に限りますね、せめて6つは乳をつけてから爆乳と銘打って欲しいです。

 まぁ、今はオカンと親父も円満離婚で別居中ですし、そもそもたまに親父がつれてくるぐらいなんで、気にしてないというか、もう、人間には慣れました。

 然し、俺がよくても周りはよく有りません。

 いくら魔王様に仕える貴族の一端とはいえ、こんな生い立ちですからとても順風満帆な人生を送ってきたわけじゃありません。

 皆様の隅っこで細々と家事にペットの世話に勤しむのが丁度いいんです。
 なのに今日から俺は魔王様ですって。
 はー、笑うー、なにそれウケるー、死ぬー、殺されるー……。

『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』

 家臣の舌打ちの8ビートで俺の心拍数は16ビート、あぁもう嫌だなぁ……とか思ってた矢先にでした。

『……クソ……魔王様、人間の勇者が現れました』

 いや確かに言ったよ、魔王様のことクソって言ったよ。

『人間は人間でも、勇者が現れた場合は、必ず魔王の間に通すのです』

 しきたり? ですかね、そうらしいです。

『糞……魔王様はその際、一切の武器を持ってはなりません』

 とか言うんです、家臣の偉い人が、僕の親父の元上司が!

『かならず一対一で会い、なにかしらしてください、大体は殺し合いをします』

 とか言うんです、親父を昨日クビにした元上司が!

『あ、はい、あぁー、そうなんですか、あぁじゃぁ通してください』

 とか言っちゃったんです、俺が! 人間に会いたいって、一対一で。
 同級生とか見てたら白い目で見られますよ、イジメが始まりますよ、これ。そもそもイジメられて育ってきたんですけどね、俺。



 それも含めて慣れました、めげない魔族、メンタルだけは強い魔族、それが俺です。

 就任三日目の新魔王です。よろしくお願いします。



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