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第一章 ―魔界最弱の厄災と人間界最強の少女―

新魔王様、とりあえず勇者とベッドイン

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§ § § 




 魔王の王座に座って待っていました、その勇者とやらの登場を。

 で、来ちゃったんですよ、わりと早く来ちゃったんです。

 人間の勇者、雄か雌かで言うと雌でした、これが人間の雌だって分かるのは、もちろんオカンとの特徴が一致するからです。

 真っ白い髪、凹凸の小さいお胸、しかも二個しかないです、貧相です。
 真っ白い目、寝不足でしょうか目つきが悪いです。
 真っ白い体、うっそーってくらい白い、細い、小さい、俺よりチビです。
 真っ白い服、保護色? 広場はタイル白いから凄い視認率低いです。
 真っ白い液、右手に持ってるんです、なんか、白い液体が詰まった透明な容器です。

 以上、勇者さんの紹介終わり、印象、白い! 小さい! グロイ!

 白い小さいグロイ勇者! なにその液体! 怖い!!



『私は、勇者……魔王、お前に、会いに来た』


 
 あ、この白い人間、なんと片言ながら魔族語を話しました。
 俺も母親が人間なので人間語には多少は覚えがあったのですが、そこだけは良かったなーって前向きに思ってたのに、勇者に気を遣わせちゃったなぁこれは、でもがんばって覚えてきたのに、実は人間語ペラペラとまではいかないにしても、多少は知ってたとかショックだろうし……。


『うむ、俺、魔王、お前来るの、待ってた』
 
 白い人間の会話レベルに合わせて、できるだけ簡単な言葉にしました。

『そう、ありがとう、魔王、私、勇者』

 おお! 片言だけどちゃんと伝わる程度に勉強してる! 人間なのにすごいなぁ!

『うむ、俺、魔王、勇者、お前、何しに、来た?』

 どうだ、これくらいのレベルならきっと分かるはず……。

『そう、私、勇者……魔王、お前、会いたかった』

 おおお! すごい! 初めてオカン以外の人間と喋れてる! やべぇ感動した!

『俺も、会いたかった、ありがとう、何、する?』

 やばい、ちょっと感動で楽しくなってきた、いやぁもう、なんだろう、ペットと喋れたぐらいの感動があるよ、うん、よしよし、これなら特に問題なく事が終えられそうだ。

『私、勇者、だから……魔王、お前、こ、こ、こ、』

 うんうん、てか何するんだろ、あ、そうか殺すんだった、えー、どうしよ、うーん……あ、一応持ってきています、ヒュマジェット、うわーでもまぁ噛んできたらねぇ、俺もそこまで優しい悪魔じゃないけど、だけどすごい震えてますよ、この白い人間、そりゃ怖いよねぇ……。

『わかった、怖がるな、大丈夫だ、優しくする、5秒だ』

 5秒でコロリ、ヒュマジェットを手に取ります。

『5秒っ……早い……魔王、そうろうか、わかった……じゃぁ今から、こ、こっ』

 そうろうか? 候か? いや、えーっと、発音が怪しくて分かりません。
 意味を読み解いていると、顔を真っ赤に勇者の両目が、全ての意思と勇気を束ねたかのように大声で叫びました。




『子供を作るッ!!』




 おおぅ最後の言葉がちょっと発音が怪しいせいで、酷い言葉になってるぜ。
 殺し合うっ!! が正解ですよ?
 なんて思った瞬間でした、
 王座から15メルトルくらい離れていたはずの勇者が、一瞬で目の前に来たんです。
 縮地です、瞬間移動です、さすがに俺も驚きです、確かにカサコソ素早い奴らですけど。



「ごめんなさい、でも、全て、世界のためなの」


 あれ、これ人間語だ、分かる、分かるぞ! 鈍ってなかった!


「絶対に痛くしない、でも、気持ちよすぎて、死んだら、ごめんなさい」


 おーやっぱり何言ってるかわからない! ちょっとブランクありすぎたか!







 そんな事を言って、勇者がペチリと俺のお腹の辺りを殴りました。
 まってまって、パンチって言葉もあってる、感度って言葉も知ってるぞ、発音も悪くない、じゃぁ感度6万倍パンチってナンアヒュン――、



 § § § 



 懐かしい記憶でした、裸のオカンと一緒に風呂に入る夢です。

 飛び起きて目が覚めました。

 どうやら眠っていたようです。


『酷い悪夢だった……』


 眠気眼をこすり上げ、視界のクリア度を上げてみると、どうやらここは魔王様の寝室でした。俺にはスケールのでかすぎる、いやもうちょっとした家かよってくらいの、大きな真っ赤なベッドの上でした。


『掛け布団が、重い……なんだ、何があった……全然記憶が無い』


 確か、なんか、そうそう人間が来たのでした。
 白い人間、白い雌の人間が来て、


『あぁそうだ、殴られたんだった……あれ、俺死んだ? んなわけないか、てか、時間は?』


 魔王様の寝室だけあって、寝室の窓もバカでかいです、バカの寝室だけに。
 背を起こして見てみると、どうやら朝焼けが見えます、チュンチュンと悪魔スズメが鳴いています。


『……あ、やべ、朝食と洗濯……は、しなくてよくなったんだっけ、はぁ、寝よ』


 二度寝ができる、なんて贅沢な魔王生活、そこぐらいは魔王になってよかったと思います。
 
 よいしょとベッドへと再度寝転ぶと、なにか肩の部分に柔らかい物が当たりました。
 プヨン、という、ポヨンというか、なんだか生暖かいです。
 もちろん見ました、そして居ました、白い人、勇者です。
 裸です、衣服を着用していません。
 
 思わず悲鳴をあげそうになりました。
 てか俺も裸です、特注させた魔王の制服を着ていません。
 お互い裸で、同じ寝所にいました。


『…………おはよう、魔王』


 起きました、勇者、起きました。
 まだ眠そうです、なんだか疲れてます。


『おはよう、魔王、私、わかる?』


 やっぱり片言の魔族語です、うーん、でもわかる、わかるぞ。


『わかる、勇者、俺、魔王』

『うん、お前、魔王……』


 そして勇者は俺の所へともそもそくると、そのまま腰当たりにギュっと抱きついたんです。うわ、なにこれ、すごいすべすべ、暖かい、てかちょっと熱いくらい……。


『勇者、熱、あるのか?』


 かなり高めの熱です、風邪、病気、病原菌持ち!? 


『……うん、昨夜、魔王……その、すごかったから……』


 何が!? 何が凄かったの!?


『お、お、俺、なに、した? 勇者、俺、なに、した?』

「えっ、まさか覚えてないの? あんなにのに? ……やっぱり、ちょっと6万倍は強すぎたのかな、ううん……まぁ恥ずかしい事も言っちゃったし、覚えてないなら、それでも……」


 勇者は人間語を話し俺のお腹に甘えるように頬をくっつけます。
 あー、はいはい、そう感度6万倍パンチね! されたされた……された……。
 俺は思わずシーツの下を覗き込みました。
 湿り気があります、なんか色んな匂いもします、汗と、あぁ懐かしい、前の自室のゴミ箱の匂いだ、これ。


「……ううん、三日間もずっとだったから、さすがに、疲れた」


『三日間ぶっ続けで何をしたの俺ッ!?』


『…………え、言葉、わかるの?』


 思わず叫んだ俺の言葉を理解したのか、腰に抱きついていた勇者が顔を上げて目をパチクリしています。


「……う、うん、すこしわかります、はい」


 そう言うと、勇者は徐々に顔を真っ赤にして俺の腰から離れると、シーツの中に潜り込んでしまいました。
 どうやら俺はなにか、とんでもない事を、してしまったようです。

 落ち着こう、一旦落ち着こう、ね?
 水、そう、水を飲もう!

 そう思っていつも近くに置いてあるデスクまでシーツの海を這いずっていくと、水差しの隣に置いてあったコップを重しにして、何か一枚の紙が置かれていました。

 コップをのけると、そこには「父より」と書かれた手紙がありました。

 なぜ? 今? 手紙? あぁそういえば仕事も首になったし俺の給料で旅行いくとか言ってたけど……そう思って、手紙をひらきました。




「童貞卒業おめでとう、このド変態め(ハート)」




 と、一言だけ、人間語で書かれていました。
 ド変態、裸の二人、体温の高い勇者、頬を赤らめる裸の勇者、二人で寝所。
 全てが繋がって、一連の流れを完全に把握、なるほどなるほど……。
 
 なるほどね、俺は悲鳴を上げました。まるでご婦人のように。




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