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第一章 くたばれ無敵チート
彼のエピローグ
しおりを挟む微笑みが消え、温もりが消えた目で、彼女が僕を見た。
微笑みながら、暖かな眼差しで、リムサはツヨシを見た。
「なん、だ、だれだ、誰だ、お前は……誰だ!!」
「……やっぱりこの子には予知能力があったのですね、だから確認できるはずもない未来の妊娠を知っていたと……、ずっと気になっていたんです、予想外でした、ごめんなさい」
「お前、は、誰だ……いや知ってる、知ってるぞ、僕は知ってる!」
“はい、お察しの通り、お久しぶりです、ツヨシさん、私です、綴喜メクルです”
「なんだ!? ふ、ふざけるな、なんだ、どこだ! どこにいる! どこから喋ってる!」
これは行間から喋っています、物語の行間、書き手の言葉、君とキャラクターの間から。
「な、なにを言ってるんだ、こいつは僕に何を言っているんだ、何かの能力に巻き込まれている? くそ、まずは時間を止めなくてはならない! 僕は力を集中させた!」
すみません、もう一人称語りはできません、このエピローグは私が完全に掌握しています。
勝手なことだとは分かっているのですが、そろそろページ数も危ういので、今のツヨシさんの状況を説明させてください。
「この女が何を言っているかわからない、僕は夢か幻でも見ているのか、たちの悪い魔法だ、僕は思わず近くにあったコップの水を自分にかけた!」
ごめんなさい、今はツヨシさんがいくら一人称語りをしようとしてもダメなんです。今、この世界は三人称の世界、筆者は私なんです。
少し時間はかかってしまいましたが、一時的に貴方の物語を乗っ取らせていただきました。
ここは私が創造した世界です。
私が世界を歩き、覚え、できる限り忠実に創作した世界です。
君という物語を私が創作し捏造した、オリジナルの模倣世界。
これが私の能力『二次創柵』です。
「うるさい! 黙れ黙れ黙れ!! まずは姿を現せ! 隠れているんだろ! 時を止めて探してやる!」
それも無理なんです、私はそこより少し上の情報体としてこの物語を書いています。そしてごめんなさい、ツヨシさんのキャラクタープロフィールから、『時間停止』の能力は解体させていただきました。
そして解体した情報を使って、この世界を構築しました。
能力を奪ったお詫びに、この世界を君に送ります。
この世界は君の物です。差し上げます。
でも君はこの世界の物にもなりました。
そしてこの物語には、『“打ち切り”』が存在します。
「ま、待て、どういうことだ……打ち切りってなんだよ!」
打ち切りは、打ち切りです、誰かが飽きたら、人気が無くなったら、どんな物語にもある残酷な仕打ちです。でもまだ猶予あります、ツヨシさんの物語には、まだ少しだけ。
「あ、あき、飽きたら、打ち切りって、な、なんの話だ、なんの話だよっ!」
これは君の話です、君は主役になってしまったんです、ツヨシさん。
あの時、私達と一緒に帰っていたら、私もこの世界に君を閉じ込める事はしませんでした。
だけど君はあの時、私達を止めようとした、だから私は能力を発動しました。
あれは最後のチャンスだったんです。
そして、君は自由を選んだ、多くの人間の不幸より、自分の幸せを選んだ。
そんなツヨシさんを現実世界に連れて帰るのは危険だと、私は判断しました。
ごめんなさい、それだけ君の能力は規格外だったのです……本当にごめんなさい。
最初はこの物語の世界で好きに生きて貰えればと思いました。
誰を犯しても、誰を殺しても、誰を悲しませても、誰を護っても、それは君の物語です。
でも、安寧に生きる物語に誘導したのは私のミスでした。
そのせいで、この物語から観測者達が急激に離れ始めました。
この物語に向けられていた感情という情報量が減少を始め、既に世界の端では綻びが始まっています。
このままではツヨシさんは世界と共に消えてしまいます、なので私がエピローグを一時的に作成、乗っ取りました。
これから、できるだけ物語が長く続くように幾つかアドバイスをするのでよく聞いてください。
「そ、んな……まってくれよ、まってよ、理解が、おいつかない……」
一つ、生きることを諦めないでください、これから君には多くの苦難が訪れます。
二つ、白い霧がある場所には近づかないでください、そこは私が創りきれなかった部分です。
三つ、挑戦を続けてください、今まで得た物、見てきた知識に必ず突破口があります。
最後に、読者に話しかけないでください、声は絶対に返ってきません。
「ど、読者って、読者って誰なんだよ……」
誰なんでしょうね……、私も読者の方には会ったことがないので。
現実の世界にも読者はいます、けど現実の世界が打ち切りにならないのは人の数だけ主役がいて、それを見ている読者がいるからなんです。だから世界は滅びない、全ての物語に主人公が存在する限り、熱は絶え間なく生まれ、紡がれてゆく。
解りやすく言うと、現実は巨大な群像劇なんです。
でも、この物語の主役は、この世界の主役は、君です、君、ただ一人です。
今この瞬間も見ているはずです。そしてページを、画面を閉じそうになってる人も。
そして観測者が0になると、物語は崩れ始めます、世界を構成する熱が消え、解け始めます。読者による観測こそが、この世界を維持する熱、続きを渇望されるからこそ、情報量は生まれ続ける。
そのためにも観測され続ける必要があるんです。
集めてください、読者の興味を、好奇心を、同情を、カタルシスを、集め続けてください。
「ふ、ふざけるなよ! 誰も見なくなったら世界が終わるっていうのか!?」
誰にも見られなくなった時、この物語の熱は失われ、やがて世界も、君の愛する人も、消えます。
なので、物語が長く続くよう、せめて君が沢山生きていけるように、最後のテコ入れをします。
今、この世界のどこかに、強大な敵を生み出しました、ゆっくりとですが、やがて来る君の魔王です。かなり強いです、いつか貴方を殺しに来ます。
「……な、なんだよ、なんだよそれ、力も無いのに、そ、そんな理不尽に納得できるかよ!」
ツヨシはそう叫ぶと時を止めようとします。
しかし能力は発動することなく、自らの顔にかけていた水はゆっくりと床へと溢れて吸い込まれていくのでした。
「ま、まてよ! まってくれ! 俺の時間を返してくれ! 能力がなけりゃ無理だろ!!」
自身の能力の消失に気づいたツヨシは絶望します。
このままでは愛する二人を、この里を守れない、暗い絶望が視界を暗くします。
しかし愛する人を守ると心に決めていたツヨシは、たとえ時を止める能力が無くても、二人を守るために本当の強さを手に入れる日々を始めるのでした。
己を鍛え、隣人を愛し、家族を守る。それは動く時の中でしかできない事。
里のエルフ達に伝わる魔法、弓、召還、薬品、それら全てを会得し、来たるその日に備えるのでした。
「頼む!! お願いだ!! 待ってくれ!! 時間を、時間をっ!!」
もう止まることのない時の中、本当の強さを手に入れるために、ツヨシは決意を胸に叫びました。
「止めてくれ!!」
つづく
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