君の物語

崑崙

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第1章

Ⅲ ネムの花

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 土と藁を固めて作られた家は風を一切通さなかった。
その為、壁の所々に開けられた窓から入る風はとても心地がよく、住民達は窓の開け閉めで部屋の温度を調節していた。
リンクのベッドは部屋の中央、北から吹く風が南の窓へと通り抜ける位置に置かれており、冬場は寒いこの窓の風だが初夏に当たる今の季節は何とも言えない優しい風が吹いていた。

リンクは微睡みの中で、風に包まれる感覚を堪能していた。

その時、部屋の仕切りの役目をしている垂れ下がった布を開ける者がいた。

「リンク!いつまで寝ているの!
今日はネムの花を摘みに行くんでしょ!」


華奢な身体にブラウンの長い髪を後ろで一本に結ぶ女性がそこにはいた。
リンクの母親だ。

彼女はリンクが寝ているベッドへ近づくと勢いよく布団を剥がした。
布団に巻きつく形で寝ていたリンクは大きな音を立てそのまま床へと転げ落ち、目を覚ました。


「おはよう…母さん。」

床に這いつくばった体勢から上半身だけを起き上がらせて、母親の顔をみあげたリンクは朝の挨拶をした。

「おはようリンク。今日からあなたは村の成人の1人なのよ!自分の正装服を作らないといけないんだから、いつまでも寝ていないで早くネムの花を摘みに行ってきなさい!」


母親の急かす声を聞き、リンクは寝ぼけた頭で昨日のことを思い出していた。

———あぁ、そうだ。昨日先生から成人の認めを貰い、村長へ挨拶へ行った後にトラントの家族と一緒に祝いの宴を開いたのだった。

父親達は酒を飲み交わし、母親達はたくさんの料理を準備してくれた。
トラントの妹のマナモは最初こそはしゃいでいたが早々にはしゃぎ疲れて寝てしまっていた。
父親達に勧められて始めた口にした酒はお世辞にも美味いとは思わなかったが、飲んだ後のフワフワしたような感覚は癖になりそうな不思議な感覚であった。
トラントはリンクとは違い酒が口に合ったのか、父親達と楽しそうに飲んでいたのを思い出した。
皆が楽しそうに笑い、リンクとトラントの成人を心から祝っていたあの時間はリンクにとって人生最高に幸せな時間であった。

少しぼーっとしながらそう思っていると、再び母親の声でリンクは現実へと引き戻された。


「ほらほら、いつまで寝ぼけているの。ネムの花は日のでている時間にしか咲かないんだから早く探しに行きなさい。」


「うん、わかった」と掠れた声で返事をしたリンクはゆっくりと起き上がり、母親越しに窓の外に目をやった。
心地の良い風と共に部屋へと差し込む陽の光はこれから暑くなる季節がくるのを物語っているようだった。



部屋からでていく母親を見送り、リンクは着替えながらネムの花について考えていた。



「ネムの花」は太陽が昇っている間のみ咲くこの村の象徴花のようなものである。
ネムの花は主に染料とお守りに使われており、男は成人するとネムの花を摘んできて花が開く日中にネムの花を使用して布を染める。
ネムの花を使用して服に柄を描くのは母親の仕事であり、魔法を使用してその家の模様を服に描いていく。

ネムの花は陽の光を花弁に吸い込み、陽の魔力を豊富に含む花である。
その為ネムの花で染められた服には魔力が宿り、コトナの成人男性は祭事の時などには魔力を宿した正装服を着用する風習が根付いていた。

そしてコトナの女性は生まれた時に父親からネムの花の匂い袋を渡される。
これを女性達は肌身離さず持ち、成長と共に魔力を育てていくのだ。

このようにコトナ村はネムの花と共に生きてきた。

リンクは両親から何度も聞いてきたネムの花の話を思い出しながら服のボタンを止め終わり、部屋を出た。



曲線状の壁に沿ってカーブを描く階段を降りていくと、食卓があり父が食事をとっていた。

「おはよう、リンク」

父はリンクに顔を向け微笑んだ。
スープを飲み、パンを食べる父の横で母はもう1人分の食事の用意をしていた。
リンクは母の用意するスープとパンが置かれた席に付いた。
母も自分の席に座りリンクはそれを確認すると食事をし始めた。

コトナ村ではパンは毎朝焼きたてを食べることができる。
なぜならばパンを焼く用の窯が村の集合台所にあり、女性達が当番制で毎朝パンを焼き上げたいた。
今日のパンは村の薬草が練り込まれたものでリンクは少し苦手な味であった。
温め直した昨夜の残りの魚スープでパンを流し込み、パンの味を誤魔化した。

そんなリンクにをみた母はふふふと笑い、父は何も気にせずパンをちぎり口に運んでいた。



朝食を完食しリンクが席を立つと父が声をかけてきた。


「リンク、母さんの匂い袋を忘れるなよ」


父の言葉を聞きリンクは「あっ」と思い出すように声を上げた。
それと同時に母も服のポケットから花の刺繍がされた小さい袋を取り出した。


「これがないと木達の迷路に巻き込まれて村に帰ってこれなくなるからね」

母から託された匂い袋をリンクは握り締めた。

そう、村の周りに生息する意志のある木達はネムの香りには道を開ける習性がある。 
理由はわからないが、これがコトナ村が意志のある木達と共存できた所以である。


「ありがとう、母さん。日が沈む前には必ず帰ってくるから」

リンクは両親に手を振り家を後にした。

息子がでていく姿を母は手を握りしめ、父は母の肩を優しく支え後ろ姿を見送っていた。
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