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玉生ホーム探検隊

玉生ホーム探検隊 15

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 そろそろご飯ができたが出掛けたかけるを待つのかどうかと、五つ目の深皿を持って炊飯器の前で玉生たまおが悩んでいると、扉の開く音がして「ただいま~」の声と共に思ったよりも早く本人が戻って来た。

「ミミ先輩? 晩メシできてるんで~、ってそんなん買いに行ってたんすか。お疲れ様っす」

 台所から廊下に出て、玄関ホール側の扉から迎えの声をかけた翠星すいせいは、「お、ちょうどいい。タバタん、こっち持ってって」とガサガサと荷物を渡された様だ。

「オレ向こうから回るから、それはリビングのソファーにでも置いてていーからな」

 その声が聞こえたのか寿尚すなおも和室から出て来て、「手を洗ってからすぐ行くよ」と駆に入れた分のカレーを持って、そちらの方を気にして見ている玉生に声をかけた。
手渡されたらしい衣類の袋を持った翠星も、「ほら、くらタマ。ダイニングに移動してカレー食うぞ」と玉生を急かしたのだった。


 玉生がカウンターから出ると、ちょうど駆がリビングに上がって何か電化製品の入った箱を置いたところだった。
逆の手に持っていた大きな袋も並べて置いている。

「そろそろ冷めちまうんで早く食ってほしいんす」

 翠星に急かされ、大雑把なところはあるが決して粗野ではない駆は「おお、すまん。ちょっとレジが混んでてな。手を洗って来るから、先に食ってていいぞ」と洗面所へとスタスタ歩いて行った。
入れ替わりにこちらへと来る寿尚とすれ違う時に、「どうやら、ちゃんと買えたようだね。ご苦労」と声をかけられた彼は、「とりあえずパネルの方選んだから、今日は全員リビングでまったり夜ふかしな」ともう予定を決めてしまっているようだ。
もとよりちいたまのミルクタイムがあるので、子猫が用意された物を自分で飲めるようになるまでは和室に居座るつもりだった寿尚は、「俺は構わないけど、録画映画を見るつもりならあまりキワモノはやめなよね」と問題はないようだ。
いち早く食卓に着いていたよみは、隅っこ好きらしくカウンターとテーブルで直角になっている席を選んでいて、寿尚はさっさとその隣の席に座ってしまった。
誕生日席を指差した詠に「玉生はそこ」と言われた玉生は、それぞれの椅子の背に鞄が掛けられていたのを見てやや躊躇いがちにそこに腰を下ろす。
一度沸騰させたお湯を氷で冷やしたピッチャーの水をみんなに配ってから『どこに座ろう?』という顔をしていた姿に詠が気付いたらしいが、玉生としてはそこは特別な席の印象があって腰が引けていたのだ。
寿尚の方に『いいのかな?』と言いた気な表情を向けてきたので、ニッコリ笑って頷いてみせた。
翠星が詠の向かいの席に着くと詠がスプーンを手にしながら、「洗面台の鏡の裏に、未開封の洗顔用品やストック、ヘアドライヤーなどがあった」と報告をはじめた。

「うちの収納がそうだから確認したら、あの辺りの壁は収納棚で洗顔用のタオル・トイレットペーパーもあった」

 ちいたまのミルクタイムの間に、詠は詠で気になるポイントをチェックしていたようだ。

「ああ、風呂場にも必要な物は揃っていてたね。タオルも洗濯機側の棚に積まれて柔軟剤の匂いがしたから、多分そのまま使っても問題はなさそうだったよ」

 寿尚の方もさっき洗面所に手を洗いに行って、気になるところは見て来たらしい。
詠の方は長く家に務める家政婦がいて家の雑事などは全部任せているので洗濯の方にまでは気が回らなかったが、寿尚の家は商売をしているのでその育ちから商品の流行をチェックする癖があり、そういうところに目がいくのだ。

「あ、じゃあ、そこのソファーの袋にジャージあるから、風呂に入る奴はそれに着替えるといいぞ。ちなみに替えの下着もあるけど選ぶの面倒だから黒ボクサーで揃えたからサイズ間違わないようにな」

 手だけ洗ってすぐに戻って来た駆は、さっさとスプーンを手に取り「いただきます」とカレーを食べはじめた。

「少し落ち着いて食べなよ」

 呆れた顔の寿尚も続いて「いただきます」とこちらはマカロニサラダから口にした。
ここでマイペースな詠も「いただきます」と食事をはじめる。
一通り給仕を済ませた翠星は、「お代わりは各自でよろしくっす」そこまで言ってから指で何かの動きをしてからようやく食べはじめたが、彼は動きは優雅に見えるのにやたらと食事が早いのだった。
周りを見て食べはじめる癖がついている玉生は、そこでやっと手を合わせて「いただきます」と唱えた。

「あー、デザートはせっかくだから、風呂入ってゆっくり録画映画見ながら食べないか?」

 カレーのお代わりに立ちながら駆が言うと、「そっすね、自分はいいと思うすけど」と翠星は返事をしながらマカロニサラダの追加をテーブルの真ん中に置かれたサラダボウルから山盛りに取り分ける。
こちらもカレーのお代わりに立った詠は、「とみヨは、自分でご飯の給仕できたっけか?」と翠星に聞かれたが、以前に玉生を誘うついでに「ヨーミんも行った事ないだろう?」と駆に好きな物を選んで食べるインペリアル・バイキングへと連れて行かれた際に、セルフサービスは経験済みなので問題ないのである。
立食パーティーのようなものだと思っていたら似て非なるもので、実は内心カルチャーショックを受けた詠だったのだが、おかげで今「問題ない」と自分でカレーのお代わりもできて、面倒でも勘に従い断らなかった己の判断力に満足するのであった。
ちなみに、朝に食べる主義の寿尚は夕飯は軽く食べるのが基本であり、食器が空になるイコール「ごちそうさま」になる玉生に及んでは言わずもがなである。

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