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回廊の秘密

回廊の秘密 2

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「念のため聞きますが、ここは他人の物件という事はないんですか?」

 夜間に自動で点灯する照明は珍しくないとはいえ、ガレージの出入り口付近が明るく照らされていると、持ち主の存在を意識するものだ。
ちなみに玉生たまおの家も敷地内がライトアップされている様で、ここからでも黄味掛かった柔らかい明かりが見える。
 そんな中、気の早いかけるはシャッター前に愛車を置いてガレージの周りを見て回っているが、寿尚すなおは万が一を考えて念を入れないと落ち着かない。

「埋め立てた土地は私有地って取り決めで、蔵地くらちのこちら側一帯は完全に立ち入り禁止にしたそうだ。だからね、そういう心配はないよ」
「……たからさんがこの土地を埋め立てたという事ですか?」
「そう。蔵地の街が、後に許可を願って開発した方。倉持くらもちの方は地主さんで、玉生君にも結構な借地料が入るからね」
「なるほど。親族関係が保護を理由に、たまを搾取しようとする事を考えると、迂闊に接触できないわけですか」
「ああ。奴はとにかく年中あちこち飛び回っているし、ここの家にも必要最低限しか滞在できない事情がある。だからといって玉生君を連れて歩くのも無理があるしね」
「確かに。その事情では、保護者に向かない。甲斐性無しの認識を改める」

 宝の事が過去形ではなくむしろ現状報告になっていても、もはや誰もそこに触れない。
玉生は『叔父さん、生きてる、の、かな……?』と密かにドキドキしているが、口に出して逆言霊で糠喜びにでもなったら嫌なので黙っていた。
 そんな話の流れで、この辺りにあるのは玉生の家のオプションだと傍野はたのに保証されたので、改めてガレージをじっくりと観察してみる。
すると正面の壁にある車両の出し入れをするシャッターとは別に、家に向いた側の壁にも扉があり、人用の玄関はこちらの方であるらしかった。
玄関の軒先に触れそうな位置には、そこからはじまり家の裏へと繋がるガーデンアーチがある。
所見では、中がトンネルになっているとは気付かず、家のすぐ近くまで緑が茂っているとしか思わなかったのだ。
そのガーデンアーチはラティスと同様に、黒い金属の骨組みに蔓草が絡まり本体が埋もれて目立たない。
そのせいで蜜柑を取りに近寄った時には、気付かなかったのかもしれない、と解釈できないではない。
あちら側はアーチのゲート側で、それが閉じられている状態ではおそらく緑の壁の一部に見えるのだろう。
そんなアーチを抜けて、ゲートを潜ったすぐその向こうが家の外階段である。
 こうして新たに発見する部分は、密かに死角を狙って築かれていると、もはや断言していいのかもしれない。
先にそうと仮定して注意していなければ、今回のこのガレージもそこにつながるガーデンアーチも、発見の遅れに違和感を持ったとしても気のせいと流してしまいそうな配置なのだ。


「俺がはじめて見た時は、もっとスッカスカで素っ気ない、ちょっと希臘ギリシャの古代神殿の遺跡みたいな? 感じでね。それが白い柵のギリギリまで、こっちが圧迫される感じで建ってたんだよ」
「今の屋敷は、たまが生活するのを意識して、こうなっているって事ですか?」
「ん~、俺は今の家の中は知らないからねえ。でも一晩過ごすのに特に違和感を感じなかったなら、住みやすく改装して歓迎しているんじゃないかと思うよ」
「歓迎、されてるなら嬉しいです」

 そこにガレージを一周して戻ったらしい駆が、ガラガラとシャッターを上げる音がした。


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