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回廊の秘密

回廊の秘密 5

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 玉生たまお一人位はすっぽりと収まるサイズの丈夫なキャリーワゴンに、軍用のコンテナがみっしり詰められている上に、ピザの箱が積まれている。

「多分これ、ほとんど本だろう? 部屋に運ぶの手伝うからコンテナ譲ってほしいんだが」
「万が一の夜露対策で気密性重視で選んだ物だ。労働の対価にくれてやろう」
「了解、了解。中の本をヨーミンの部屋の棚に移しとけばいいか?」
「そこは臨機応変に。それはともかく、このピザの箱はなんだ」

 よみの荷物の上に置かれたのは、確か美味いと評判のピザ屋の物だ。
あの男はジャンクフードを好まないのでかけるの持ち込みだろうが、それにしてはこれから夕食という時に焼き立ての匂いもしないピザとは、こいつにしては気が利かない、と詠が思ったのを読み取ったのか駆は指をチッチと振った。

「ほぼ解凍状態で店頭で売ってるやつな。この家のブラウニーは味の調整が判断できないという話だろう? まずは焼いてくれるかお試しがてら」
「……なるほど。一理ある」

 玉生の家の仮称ブラウニーに調理を期待する場合、味の加減はサンプルを持ち込んで分析させるという傍野はたののアドバイスを試してみようと、すぐ近所にあった店までひとっ走りしたらしい。

「何かほかのメニューも……っても、ご飯炊いてないからパンか麺。でも今日はうどんも食べてるし、麺じゃ被っちまうっすかね?」
「パスタなら目先が変わるだろ。こっちのピザとも相性いいし、ピザ不発なら近所の美味い食パン貰って来たからトーストにするという事で」
「じゃあ、ちょっと夕飯遅めになってるし手早く済むから、ナポリタンとペペロンチーノでいいっすか?」

 とりあえず邪魔にならない様に、ほかの荷物の所へ詠のキャリーワゴンも移動させ、ピザの箱を持ってフローリングに上がろうとした駆だったが「おっと、忘れてた」と自分の荷物からミニサイズのトランクを取り出した。
それを、お茶を入れて来た玉生に渡し、代わりにお茶のトレイをその手から取り上げる。

「これは提供するから、マオマオの好きに使っていいぞ。後、夕飯の準備はこっちに任せておいてくれ」

 そう言って傍野にカウンター席を勧めてお茶を出すと、ダイニングテーブルのみんなの席にも、勝手に飲めとばかりにお茶を置いて回る。
きょとんとした玉生は、とりあえずテーブルのお茶のカップを避けて、手渡された小さなトランクをそこに置いた。
それから慎重な手つきで、トランクを固定していた二本のベルト、次いで留め金を外す。
寿尚すなおと詠がそれに気付いて、後ろから覗き込んでくるのに少し緊張しながら、玉生が蓋に手を掛けそっと開くと――




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